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セクション01:休日のフライト

 それは、遠い日の約束。

「俺、将来ファイターパイロットになる。軍に入って、戦闘機を操縦するんだ!」

「戦闘機? 私も戦闘機に乗りたいです!」

「はは、シルヴィには無理だよ。パイロットは視野が狭いとなれないんだぜ」

「え――そう、ですか……」

「ま、()()()()()()()()()()、な」

「……え?」

「知ってるか? パイロットじゃなくても戦闘機には乗れるんだぜ。WSOっていうパイロットをナビゲートするクルーになれば、視野が狭くても戦闘機に乗れるってさ」

「……なら、私WSOになります! そして、兄さんと一緒に戦闘機に乗ります!」

「お、いいなあそれ。じゃあ俺達2人で一緒に、戦闘機に乗ろうぜ!」

「はい! 約束ですよ?」

「ああ、約束だ!」

 大好きな兄さんと一緒に戦闘機で空を飛べたら、どれだけ素晴らしいだろう。

 そう思うと、強い力が湧いた。

 信じ続ければ夢は叶うと信じて、ひたすらに過酷な実習をこなし続けた。

 そして、私はその夢を遂に叶えた。

 叶えた、はずだった。

 なのに、どうしてこんなにも――


     * * *


 頭上に柔らかそうな綿雲がいくつも浮かぶ、晴天の空。

 ラームは今日も、1人飛んでいた。

 だが、乗っているのは戦闘機ではない。コックピットが剥き出しの胴体は骨組みだけでできており、翼も布張りのプロペラ機だ。

 名を、クイックシルバーMX。

 ラームが唯一、自力で操縦できる飛行機だ。

 このようなマイクロライトプレーンは、操縦資格を持たずとも操縦する事ができる。

 その分、性能は相応のものだ。空高くへは飛べないし、プロペラ機なので当然速度もジェット戦闘機には及ばない。

 それでも、全身で浴びる風がとても心地いい。

 まるで風と一体化したような感覚は、自分は今飛んでいるのだという事を実感させてくれる。これは、密閉された戦闘機のコックピットでは体験できないものだ。

 戦闘機は音を追い抜くほど速く、空気が薄い所まで高く飛ぶ。故にパイロットは狭いコックピットの中に閉じ込められ、常に酸素マスクをして操縦しなければならない。そんな密閉空間に長く居続ければ、大きなストレスになる。

 そんな窮屈さとは無縁な、この解放感。

 たまにはこうやって風を感じながらゆったり飛ぶのもいい、とラームは思う。

 だが。

「兄さん……」

 このマイクロライトプレーンは1人乗り。いつも戦闘機に一緒に乗る兄はいない。

 常に兄が前にいたフライトに慣れてしまったせいか、どこか寂しく感じてしまう。

 兄は、自分よりももっと速く、高く飛べる。

 そんな兄と比べたら、自分はなんてちっぽけな存在なのだろう、と思う。

 例えるなら、かごの中の鳥。飛べない事はないが、自力で飛べる世界はとても狭い。

 兄という渡り鳥がいなければ、遠くへ飛ぶ事すらも叶わないのだ。

 複雑かつ決して広いとは言えないコックピットの中で、重力の何倍もの荷重に耐えつつ戦い続けるという過酷なフライトをこなせたのは、偏に兄のおかげだ。

 兄がいたからこそ、自分は戦い、切磋琢磨する事ができた。

 そう思うと、余計に寂しく感じてしまう。解放感がありすぎて。

 今度は2人乗りの機体に、兄さんと一緒に乗ろうかな。

 そう考えつつ、ラームは機体を緩やかに左旋回させた。

 そろそろ着陸の時間だ。


 下を見ると、小さな飛行場が見えた。

 舗装された滑走路が1本ある以外は全部野原。格納庫も1つだけ。

 そんな飛行場の野原で、手を振っている人が見える。

 すぐ前に車いすに座る人がいる事から、友人のストームだとわかった。

 だがそこに、遠くからでもすぐにわかる兄の姿はない。離陸した時はいたはずなのに。

 元気よく手を振り続ける友人に軽く手を振って答えてから、兄の姿を探した。

 いた。格納庫の脇だ。

 兄は、見知らぬ誰かと話しているように見える。

 容姿はよく見えないが、その相手が女だという事に、ラームはすぐに気付いた。

 ここに、兄の知り合いは友人達以外にいないはず。

 そして、何より兄は――

「……!」

 こんな時に、どうして。

 兄は、自分が飛ぶ姿を見るのを楽しみにしていたはず。

 それなのに、フライトを見るのをやめて、あんな事をするなんて――!

 暗い嫉妬心が湧き上がり、操縦桿を握る手に力が入る。

 ラームはすぐさま、着陸態勢に入るべく滑走路へと飛んだ。

 だがその感情とは裏腹に、着陸までの飛行はとても落ち着いていた。

 降下する間、一度もバランスを崩す事はなく、教科書通りという言葉がふさわしいほど柔らかく滑走路へと着地したのだった。


 今日は休日。

 ラームは兄や友人達と共に、ここで休日を過ごしていた。

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