新しき世界 外伝「防人」
かつて大陸全土を巻き込んだ戦争があった。
それは唯一つの国が引き起こした大戦だった。
それまでの大陸に住まう人々はそんな大きな戦争など経験したこともなかった。
それでも多くの人々がそれぞれがそれぞれの野望と理想を正義として勇敢に戦った。
犠牲は大きかった。
いくつもの国々が興亡し、大地は血潮に濡れ荒廃した。
その悲惨とも言える戦いの勝者は戦いを引き起こした国とその国の掲げる理想に組した側だった。
その国は突如大陸に姿を現すとかつてない強大な力を持って多くの国を後押しし、対抗する陣営をことごとく焼き払った。
その勢いに当時の大陸をまとめていた一大宗教組織が「聖戦」を唱え真っ向から立ち向かった。
しかし、力及ばず・・・。
栄華を誇った宗教組織も、それに組した強大な大国の大半もその国を止めることは出来なかった。
結果、それら国々は姿を消し、新たな国々がそれに取って変わった・・・。
そんな時代があった。
これは、そんな時代より後の話・・・。
大きな戦争の記憶が人々の中から薄れつつある時代の話。
ー日本領ホードラー自治区シバリア
シバリア市郊外に戦後まもない頃に作られた戦没者共同墓地にして慰霊碑がある。
かつての戦争で戦没した人々の亡骸が、故郷に帰れずにこの地に埋葬されていたのだ。
本来なら故郷へと移送すべきだったのだが、安らかに眠ったものを掘り起こすのはいかがなものか?と言う議論の元に作られた。
そんな戦没者共同墓地にはちらほらと疎らながらも人の姿がある。
かつての戦争の遺族、もしくはここに眠る戦没者によって救われた者、戦友だった者・・・。
そう言った人々が足を運んでいた。
年に1度の慰霊祭だけでなく、事あるごとに足が運ばれていた
そんな戦没者共同墓地に白髪頭の老人が足を運んでいた
ここに眠るはかつての戦友たち・・・。
その戦友たちによって生かされた彼に取って、動けなくなるまで毎年足を運ぶことぐらいしかできない。
「皆、久しぶり」
老人は慰霊碑の前でそう呟くと、足元に小さなメダルのようなものを置いた。
「先日ね、あの戦争での戦功と日本への貢献により陛下より賜った勲章だよ」
老人の呟きは少し、寂しそうだった。
その目には涙こそ溢れていないが、その背中が泣いていた。
「でもね、これは私が受け取るのは何か違うんだ。私を生かしてくれた皆こそが手にするべきなんだ」
懐かしいものを思い出した様に老人は微笑む。
「良いから貰っておけ、とかお前は言うだろうけどね」
ほほ目身が浮びつつもやはり老人は寂しそうだった。
「だからここに置いて行くよ。私も大分ガタが来ててね・・・多分、ここに来るのは今日が最後になる」
杖を突きながらもしっかりと立ってはいたが、老人は自らの体のことを理解していた。
もう、残された時間はいくばもないことを・・・。
「だから、文句はそっちに言ったときに聞くよ。何、そう遠くない未来さ」
老人は異性費を前に礼をすると、慰霊碑に背を向けた。
『バカだなぁ、急いでこっちに来る必要はないからもっとそっちでゆっくりしててくれ』
当時と変わらない憎まれ口が聞こえた。様な気がした。
その声を始めとして次々と声が聞こえだす。
『慌てなくていいですからね』
『こっちはこっちでゆっくりしてるさ』
『こっちでも案内は任せてください』
『友よ、もっと私たちを待たせてくれ』
『貴方とまた働けるのは楽しみですねぇ』
『もっと待たせてよ。その代わり土産話を用意してよ』
『お元気で!』『待たせてもらいます!』『また会いましょう!』『一同皆貴方と共にあります』
慌てて振り返った老人の目に、一瞬だけかつての戦友たちが見えた気がする。
それは老人の見た記憶の断片かもしれない。幻かもしれない。しかし確信があった。
かつての戦友たちは、まだ老人に頑張れといっているのだ。
「ふふふ・・・この老人をまだ働かせる気かね?」
老人の表情が先程と違い明るいものになる。
「まだまだそっちには行けそうにないね。行ったら殺されかねんよ」
笑みを浮かべた老人は再び慰霊碑に向かうと現役時代と変わらない敬礼をささげる。
それは彼に出来る精一杯の感謝の証だった。
その姿は遠めにも眩しく見えた。
その老人の名は・・・。
あるかもしれない未来の話、如何だったでしょうか?
思いつきで書いたのでちょっとアレな出来ですがw
ただ、これは「あるかもしれない」話なので、本編がそうなると言う保障は全くありませんw
では、また本編でお会いしましょう。