雨漏り
会社の使われていない部屋の秘密。短い怪談話です。
会社の奥の目立たない場所に、”立入禁止”と色あせた紙が貼られて、使われていない部屋がある。入社した時から気になっていた。
オレが息抜きがてらその部屋の扉の前に立ってぼんやり眺めていると、定年間近のおばさん事務員に見つかった。
(やべっ!サボってるって上司にチクられる!)
生真面目というか、融通がきかないというか、とにかく口うるさい人だ。
「そこは”雨漏り部屋”よ」
「雨漏り?直さないんですか?」
俺は訝しく思った。会社は小さな建物で、どう考えても部屋を遊ばせておくなんて勿体ないことだ。
「入ってみる?」
「え?いいんですか?」
おばさんが扉に手をかけて振り返って、オレを見た。
「あー、なんて言うんだっけ?インターネットとかにあげちゃ駄目よ?」
オレは理由もわからず、とりあえず頷いた。
おばさんが扉を開けた。外側の壁の上に細い窓がついている。掃除はほとんどしてないのか、薄くたまったホコリが細い窓から入る光で舞い上がっているのが見える。
おばさんは、オレを促して部屋に入らせると、自分も部屋に入って扉を閉めた。おばさんと2人きりの状況は落ち着かなかった。
「ここ、倉庫ですか?」
「ええ。使えないけどね。しばらく耳を澄ませてみて」
「はあ」
オレは黙って部屋の真ん中に立った。おばさんは扉の近くで静かに立っていた。
タツ タツ タツ
天井から水が滴り落ちる様な音が聞こえてきた。オレは辺りを見回したが、何処から落ちてきているのか分からなかった。おばさんを見ても、口元に人差し指を当てて黙っていろと合図をするだけだった。
タツ タツ タツ。タツ。タツ、タツ
タ、タ、タ、タタタタタタタアアアァー
「なっ?!」
部屋の中はどこも濡れていないし、天井からも何も降ってきていない。酷く気味が悪い。
「ね?雨漏り」
おばさんは淡々と言うと、扉を開けた。途端に、水の音が消えた。
「なんなんですか、これ?」
「わからないの。いろいろと天井とか調べてもらったけど問題なかったし、お祓いしてもだめだったのよ。さあ、出ましょう」
部屋から出ると、おばさんは少しだけ嫌味っぽく口の端を上げた。
「サボってたバツよ。仕事に戻りなさいな」
そう言ってさっさと立ち去って行った。
「そんな、オレ、今日残業なのに……」
日が傾いてきた廊下に、オレの呟きが消えていった。
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