ぴあす
三題噺もどき―はっぴゃくさんじゅうきゅう。
小銭の入ったポーチを手に、自販機へと向かう。
外は、暖かな日差しが降り注ぎ、思わず眠気を誘うような陽気である。
……が、ここ数日風がやけに冷たいので、その温かさも無駄になっていた。
校舎内、教室内は窓を閉め切っているから温かいのだけど、外はさすがに寒いな。
「……」
ほんの少しだけ手をさすりながら、目的地へとたどり着く。
学年が上がると、ここまでまたさらに遠くなるのかと思うと少し嫌な気持ちになる。
まぁ、別にそんなに頻繁に買いに来るようなことはないので、いいのだけど。
こういう、テスト期間とか、寒さに限界が来たときとか、持ってきた水筒の中身がなくなったときとか、それくらいだし。
「……」
お金を入れると、ピッと音を立ててボタンが光る。
200円入れたから、全部のボタンが光っている。
買う物はただの水なので、110円だが、小銭がなかった。
「……」
ボタンを押せば、またピッという音と共に、ゴトンと落ちる音がした。
外に出たせいで冷えた指先には、少々冷たすぎるくらいの冷たさだが、ただの水だから仕方ない。この自販機には白湯なんてものは売ってない。
「……」
蓋の部分をほとんど引っかけるように指先で持ち、教室へと帰る。
私の通っているクラスではなく、当然のようにあの子の通っているクラスだが。
テスト期間で、基本的に午前中で皆が帰るなか。
教室に残り、勉強しているので。
「……」
寒い寒いと手のひらを片手でさすりながら、階段を昇っていく。
廊下は日が照っていようが何だろうが、冷たいのはなぜなんだろう。いっそ廊下専用の暖房とかつけた方がいいんじゃないんだろうか。
「……」
普段は誰かとすれ違うはずの廊下を、誰ともすれ違うことなく歩いていく。
少しだけ窓が軋んでいるのか、カタカタと音がした。
風も強い上に冷たいとなると、これまた寒くなったりしないだろうな。
「……」
教室に戻ると、勉強に飽きたのか、目途がついたのか。
堂々とスマホをいじっているあの子がいた。
少し俯いているような状態なので、長い髪で隠れた顔はよく見えない。
「……ただいまぁ」
「、あ、おかえりぃ」
ぱっと、顔をあげ、こちらを見る。
こちらも髪でよく見えなかったが、机の上にはいつの間に広げたのか、ましゅまろの袋が置かれていた。普通のよくあるましゅまろだ。さっきコンビニで買っていた。
それを見ながら、あの子の、後ろの席へと向かう。
「あ、ましゅまろ、食べる?」
スマホを片手に、ましゅまろをひとつ摘まむ。
まぁ、正直ましゅまろはあまり好きではない。甘すぎるし、かなり昔に食べたときに美味しくなかった事がある。それ以来手が伸びてこなかった。
「……ん」
が。
これを断る理由にするのはな。
「あ、」
「ほい」
手がふさがっているという事にして、口を開ければ適当に放り込まれた。
甘い香りが口いっぱいに広がり、ふわふわとした食感が口に残る。
回りについている粉のようなものが若干水分を奪っていくように思えた。
「おいしいでしょ」
「ん、おいしい」
まぁ、自分で買うことはないが。
この子にもらえるなら、なんだって美味しいし何だって嬉しい。
「なにしてたん」
ちょっと自販機に行っている間に、スマホをいじってましゅまろを広げて。
私が教室を出る前には勉強に集中していたように思えたのだが。
「ん~休憩、てかこれ見て、可愛くない?」
「?」
そう言って見せられたのは、先程まで見ていたのであろうスマホの画面。
そこに映っていたのは、向日葵がモチーフになっているらしいアクセサリーの数々。
ネックレスを始め、ブレスレットやピアス、アンクレットまであるらしい。ポーチや鞄もあるようだ。幅広いな。
「かわいいじゃん」
「ねーでもこれイヤリングないんだよ」
「あー……」
まぁ、学生……というか高校生である以上、ピアスを開けると言うわけにはいかないのだ。
不真面目であればそれもあり得たが、まぁ、そんなことはないので。この学校で開けてみろ……面倒な教師に絡まれることしか目に見えない。
「まぁ、しゃーない」
「んー」
ご満足いただけなかったようで。
不満げに掲載写真を開いたり閉じたりしている。
これとか、これとか……そうぶつぶつ言いながら同じサイトを見ているようだ。
「……」
不満げな顔も可愛いことだ。
今日は勉強もここまでかな。
お題:ピアス・ましゅまろ・ポーチ




