無色は物語を歪める
ある日、村の神官が言った。
「この村の秩序が、少し変だ」
言葉は控えめだったが、意味ははっきりしていた。
無色――つまり私の存在によって、世界の秩序が歪んでいる、と。
理由は説明されなかった。
ただ、空気がそう告げていた。
森の魔物が避けることも、火事で消火したことも、偶然として片付けられたが、繰り返し起きる小さな異常が、周囲に違和感を与えていた。
足跡が残らない。
誰も気づかない奇跡。
存在しないはずの影響。
それらが、世界の「物語」を乱しているのだ、と。
村の人々は、私を避けるようになった。
距離を置く。
名前を呼ばない。
触れない。
だが、完全に無視することもできない。
存在は、物理的にそこにあるからだ。
だから、世界は妙な緊張を作った。
私が通る道を誰も歩かない。
同じ空間にいるのに、話しかけられない。
話題にもされない。
存在は認められず、影響は恐れられる。
無色は、物語の歪みの象徴になった。
夜、家に戻る。
父も母も、視線を逸らす。
「変なことをする子」と思われているのだろう。
私は、黙って食事を済ませる。
言葉は通じない。
視線も届かない。
存在していても、認められない。
孤独は、静かに、そして確実に重くなる。
森で逃げた魔物も、助けた子供も、偶然とされる。
だが、私の胸には残る。
影響が、誰にも認められないことの重さが。
物語は、無色を必要としない。
だから、私は必要ない。
その事実が、世界を美化する光景の裏に、ひっそりと根を張る。
――無色は、存在してはいけない。
存在するだけで、物語を歪める。




