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消えゆく影

 夜の森に足を踏み入れると、冷たい空気が胸を締めつけた。


 影が揺れる。

 触れるものは、すべて一瞬で消えていく。

 倒れた枝も、小石も、踏んだ草も――

 私の存在を感じる痕跡は、何一つ残らない。


 森の奥で、魔物が姿を現した。

 叫び、牙をむく。

 だが、私の手は届かない。

 影だけが振れる。

 触れれば世界は即座に消去する。


 目の前で子どもが転び、手を伸ばす。

 しかし世界は修正するように、私の関与を消した。

 子どもは無傷で立ち上がる。

 助けた事実は、私の胸だけに残る。


 歩くたび、世界は私の影を削る。

 触れるものも、行動も、思考も、すべて風にさらわれる砂のように消える。

 存在しても、影すら留まらない。


 夜空を見上げる。

 星は輝いている。

 しかし私には、光は届かない。

 視線も触れられない。

 存在しても、意味はない。


 孤独は、静かに、確実に広がる。

 助けたことも、避けた魔物も、偶然にすぎず、誰も記憶に残さない。

 私は、世界から影ごと排除される。


 胸の奥に、空虚だけが積み重なる。

 それでも生きている。

 生きていることだけが、私に残された現実。


 ――無色は、消えゆく影として、世界に存在する。

 触れようとしても、世界はすべてを押し流す。

 孤独は深く、重く、消えない。


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