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存在を消す風

 その日、風が強く吹いていた。


 村の木々はざわめき、葉が舞う。

 だが、私の周囲だけは違った。

 触れるものすべてが、風に消されるように揺れる。


 小石を蹴っても、音は消える。

 落ちた葉も、指先からこぼれ落ちると、風にさらわれる。

 世界は、私の存在を排除するように、静かに、確実に反応していた。


 森で見かけた魔物も、子どもを助けたあの瞬間も、

 私の行動は風に押し流されるように、存在を否定される。


 家に戻ると、母の声も父の視線も、風にかき消されたかのように届かない。

 呼んでも、触れようとしても、世界は私を排除する。

 無色は、触れるだけで存在を揺らすものとなった。


 夜、窓の外に立つ。

 街灯の光も、影も、風にかき消される。

 自分の存在さえも、風の中で薄れていく感覚。


 「ここにいる」

 心の中でつぶやく。

 けれど、世界は答えない。

 私の存在は、無色として消され、認められない。


 孤独は、風のように全身を包み、呼吸を重くする。

 名前も、意味も、触れる力も、すべて風に吹き飛ばされる。


 それでも、生きている。

 ただ、存在しているだけで、風が私を否定する。


 ――無色は、世界に排除されるためにある。

 触れるものも、行動も、思考も、すべて押し流される。

 世界は、私を消すことを静かに、しかし確実に進めていた。

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