影だけの存在
朝、目を覚ますと、自分の影が長く伸びていた。
だが、その影は、誰の視線にも触れない。
足音も、声も、存在も――誰も認めない。
私の周囲は、静寂に包まれ、世界は無色を無視する。
通りを歩く。
子どもが走る。
商人が笑う。
村人たちは日常を送る。
だが、私には触れない。
声もかけない。
目も合わさない。
触れようとしても、世界が押し戻す。
会話をしようとしても、空気に吸い込まれ、返事は返らない。
握手も、肩に触れることも、存在を認める行為は、すべて無効になる。
夜、家に戻ると、家族も視線を避ける。
母は食事を運ぶが、私には渡さず、父も話しかけない。
存在することが、迷惑にすら思える空気だった。
孤独は、極限に達していた。
世界は、私の存在を影としてしか認めない。
光も温もりも、私に向かうことはない。
ただ、存在しているという事実だけが、胸の奥に重く残る。
影だけが確かにここにいる。
世界は、それを無視し、歪ませ、押し込める。
私が動くたびに、影は揺れるが、誰の目にも映らない。
助けたことも、偶然に逃げた魔物も、すべて世界は記録しない。
名前も、感謝も、光も、存在しない。
夜の闇が深まるほど、影は濃くなる。
そして私は、自分自身の孤独に包まれる。
――世界に触れず、誰も触れない。
影だけの存在として、私は生きている。




