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忘れられる街

 村を歩いても、誰も私を見ない。


 挨拶も、視線も、言葉も、すべて通り過ぎる。

 存在を確認しようとすればするほど、周囲はそれを拒絶した。


 広場では、子どもたちが遊ぶ声が響く。

 だが、私に気づく者はいない。

 近くを通っても、足を止めることはない。


 商人たちは、私の前で荷物を落としても拾わない。

 目が合っても、すぐ逸らす。

 視界の中にいるはずなのに、まるで空気のようだった。


 村人たちの間で、私の存在は忘れられていく。

 名前を呼ばれることもなく、話題に上ることもない。

 関心が向けられないことで、世界は私をなかったことにしていた。


 夜、家に戻ると、母は穏やかに食事を作っていた。

 けれど、目は私に向けられない。

 父も同じだった。

 声をかけても、反応はない。

 まるで、存在を認める義務が消えたかのようだ。


 孤独は、静かに、だが確実に重なっていく。

 生きていることは確かだ。

 しかし、誰もそれを認めない。

 呼吸をしても、意味を持たない。

 存在しても、影響は消える。


 村の灯りが遠ざかる。

 歩くたび、足元の影だけが私の存在を証明する。


 ――世界に忘れられること。

 それは、死でも、罰でもない。

 ただ、無関心の中で、静かに消されていく感覚だ。


 私は、誰からも必要とされない。

 誰からも記憶されない。

 それでも、生きている。

 その事実だけが、私に残された現実だった。


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