世界に抗えない存在
村の外れで、小さな事故が起きた。
荷車が倒れ、作物が散乱する。
村人たちは慌てて駆けつけた。
けれど、私が手を貸すと、誰も見ていない。
「誰か手伝ってくれ!」
叫んでも、視線は通り過ぎるだけ。
私の手が触れても、荷物は勝手に直っていくように見える。
世界は、私の介入を消してしまう。
どれだけ助けても、記録には残らない。
誰も気づかず、誰も感謝しない。
まるで、私が手を出す前から結果は決まっていたかのようだ。
歩きながら、胸に重い空気が溜まる。
自分の存在が、世界にとって余計でしかないことを、改めて感じた。
森では、魔物が避ける。
村では、助けた功績が他人に帰る。
どこへ行っても、影響は世界に定着せず、存在は無視される。
無色は、何も抗えない。
声を上げても、届かない。
動いても、消される。
触れても、認められない。
願っても、報われない。
その夜、家に戻ると、天井を見つめたまま動けなかった。
世界は、私を“無色”として修正し続けている。
それは、暴力でも、罰でもなく、ただの無関心だ。
世界に抗うことは許されない。
抗おうとすれば、存在ごと消されるような感覚に襲われる。
孤独は、静かに、そして確実に深まっていった。
――私は、世界に抗えない。
存在しても、意味を持たない。
それでも、生きている。
それだけが、残された現実だった。




