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誰も触れない夜

夜の村は静かだった。


 街灯の光も、家々の明かりも、無色の存在には届かない。

 足音を立てても、誰も振り向かない。

 声を出しても、誰も応えない。


 居場所はある。

 家も、部屋も、布団も。

 でも、存在している感覚はまるでない。


 夕食を済ませ、部屋に閉じこもる。

 空気の振動だけが、自分が生きていることを知らせてくれる。


 窓の外には、誰もいない通り。

 街灯の下を歩く影も、私の影だけが伸びる。


 孤独は、極限まで静かだった。

 圧迫感も、痛みも、叫びもない。

 ただ、存在しているという事実だけが、重く胸にのしかかる。


 子供の頃、友達と遊んだ広場も、もう遠い記憶の中だけの場所だ。

 役割を持った同年代は、笑いながら遠くへ旅立っていった。


 振り返っても、誰もいない。

 未来を語る声も、励ましも、共感も――

 何一つ、私には届かない。


 天井を見上げ、目を閉じる。

 耳を澄ますと、自分の呼吸だけが聞こえた。

 心臓の鼓動だけが、静かに、孤独を教えてくれる。


 言葉は必要なかった。

 存在を確認するための目も、耳も、触れる手も。

 誰も触れない夜は、私を無色にするための儀式のようだった。


 静寂の中で、初めて自覚した。

 私は、この世界の物語の外にいる。


 声も、名前も、意味も与えられないまま。

 触れられることも、認められることもない。


 ただ、生きているだけ。

 存在しているだけ。


 それが、世界に許された唯一のことだった。

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