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ワシの可愛い孫娘を虐めたのはどいつだ

「女王様って素敵」と呟いたら、脳筋爺ちゃんが王国を乗っ取った件

作者: ふくまる

間違えて連載で設定してしまいましたので、再投稿します。

ブックマークをしてくださった方、ごめんなさい(>人<;)


誤字報告ありがとうございました!早速修正させていただきました!

春の午後。

ヴァーミリオン家のサロンには、穏やかな時間が流れていた。


窓から差し込む陽光が心地よく、柔らかな春風が部屋を満たしている。


「それでね、シフォン。この本の女王様が本当に素敵なの」


ソファに座ったリリアが、専属侍女に向かって嬉しそうに語っている。

手には、王都から取り寄せた小説。最近お気に入りの一冊だ。


「聡明で、気高くて、でも優しくて……ああ、女王様って素敵よね」


何気なく、ポロリと漏れた一言。




リリアは気づいていなかった。


サロンの奥で、祖父ガルドが剣を磨く手を止めたことに。

暖炉の前で、父ガロンと叔父バルトが顔を見合わせたことに。

窓際で、兄のレオンと弟のカイルが耳をそばだてたことに。


「……女王、か」


ガルドが、静かに呟いた。


「リリアは、女王になりたいのか……」


その言葉に、全員の視線が集まる。


ガロン「……なるほど」

バルト「そういうことか……」

レオン「姉さんが……」

カイル「女王に……」


沈黙。


やがて――ガルドが立ち上がった。


「よし!」


その一言で、全員が理解した。



「それなら、手近なところで我が国の支配権をプレゼントしてあげれば喜ぶのでは?」


「いいな、父上。じゃあサクッと王宮でも制圧してくるか」


「ワシ、ドラゴンでちょっくら王宮に行ってくる」



あまりにも自然な流れで、国家転覆計画が進行し始めた。



***



「お待ちください、父上。せめて一個師団くらいお連れください」


ガロンが慌てて止める。



「えー、そんなにドラゴンに乗りきらないぞ」


「では、我ら五人、少数精鋭で」


「ああ、それなら」



コソコソと繰り広げられる不穏な会話。



リリアは、まったく気づいていない。

相変わらず、シフォンに本の話を続けている。


「やっぱり女王様にはティアラよりクラウンが似合うわよね。あの重厚な感じが、威厳を――」



「何!? クラウンだと……!」


ガルドが飛び上がった。



「たしか、王宮の宝物庫に保管されておったな!」


バルトが頷く。



「は! そういえば、間もなくマッスル教の主神であるライザッピ様の生誕祭ではないか!」


「良い子は朝起きたら枕元にプレゼントが用意される日だな?」


「そうだ、ちょうどいいから今年のリリアへのプレゼントはクラウンが良いのでは!?」


「いい考えだ。宝物庫じゃな」


「では、サクッと取りに行こう」



全員の心が、一つに固まった。




***



その夜。

リリアが眠りについた頃。

ヴァーミリオン家の男たちは、静かに屋敷を出た。


ガルド、ガロン、バルト、レオン、カイル。

この国の最高戦力が、夜陰に紛れて王都へ向かう。


移動手段は――かつてガルドが討伐し、今では散歩仲間となった赤竜ヴァラル。



「よし、ヴァラル。王都まで頼むぞ」


『……本気ですか、ガルド殿』


「当然じゃ。カワイイ孫娘の願いを叶えるのが、爺の務めじゃからな」



ヴァラルは諦めたように溜息をつき、翼を広げた。


馬車で七日かかる道のり。

ドラゴンなら、ほんの一飛び。


日の出前には、王都に到着した。



***



朝日が昇り始める頃。

王宮のバルコニーに、五人とドラゴンが降り立った。



「よし、着いたぞ」


「宝物庫は地下三階でしたな」


「結界があるが、問題ないな」


「当然だ」



ガルドが手をかざす。

パリン。

王宮を守る結界が、音を立てて砕け散った。



「侵入者だ!」


「ドラゴンが――!」



衛兵たちが駆けつけるが――。


ガルドの一睨みで、全員気絶。



「邪魔じゃな。みな、踏まないように気をつけて歩けよ」



五人は軽やかな足取りで、宝物庫へと進んでいく。

途中、宮廷魔法師団が結界を展開するが、ガルドが触れただけで粉砕。

騎士たちが立ちはだかるが、ガロンが一振りで吹き飛ばす。


まるで初めからそこには何もなかったかのように。

まるで通い慣れたお散歩コースを歩むかのように。


王宮は、静かに制圧されていった。



***



「何事だ!」



玉座の間に、国王と重臣たちが緊急召集された。



「ヴァーミリオン前辺境伯が……!」


「宮廷を制圧して……!」


「地下に向かっています!」


「何……!?」



国王が青ざめる。

その時――。


ズガァァァンッ!


重厚な音が、王宮全体に響いた。

宝物庫の扉が、破壊された音だ。



***



宝物庫。

ガルドが扉を一撃で破壊し、中に入った。



「おお、あったぞ!」


「これだこれだ」



ガロンが、ガラスケースに収められたクラウンを見つける。

歴代国王が戴冠式で被る、由緒正しき王冠だ。



「ラッピングはどうします?」


「ん〜、このケースごともらっていって、花で飾ればカワユイのではないか?」


「リリアの好みでしょうか?」


「それは分からんな。んじゃ、その隣に置いてある宝石でデコレーションしとくか」


「いいですね!」



和気藹々と、国宝を物色する五人。


その時――。



「待てぇぇぇ!」



騎士団長を始めとする王国騎士団が、宝物庫に雪崩れ込んできた。



「な、ヴァーミリオン卿! 何をしている!? それらはすべて国宝ですぞ!?」



ガルドが振り向く。



「わかっておる。国宝くらいのものでなければ、うちのかわゆいリリアたんには相応しくないからな」


「何を言っている!? 正気か!? 出遭え、出遭え〜! 窃盗犯だ! 取り囲んで捕まえろ!!」



騎士たちが一斉に襲いかかる。


ガルドが、剣を一閃。



「フン」



ドガァァァンッ!



「うぎゃあ〜!」



騎士たちが吹き飛ぶ。


ガルドは、騎士団長を見下ろした。



「喜ぶがいい。今日からこの国は、うちのかわゆいリリアたんが女王様として君臨する」


「な……!?」


「大人しく従うならよし。抵抗するなら――プチッとやっちまうぞ!」



鋭い眼光が騎士たちを凍りつかせる。

その目は、本気だった。



「ギャー! ヴァーミリオン家の叛逆だ〜〜〜!」



悲鳴が、王宮中に響き渡った。



***



「ハッ」



リリアは冷たい汗をかいて、唐突に目を覚ました。



「……やだわ、うたた寝していたのね」



サロンの窓辺。

いつの間にか、眠っていたらしい。

シフォンが心配そうに覗き込んでいる。



「リリア様、大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ。それにしても、何か変な夢を見ていたような……」



リリアは首を傾げた。

夢の内容は、もう曖昧だ。

でも、何か……とても不穏な夢だった気がする。



「お爺さまたちは?」


「先ほど、皆様でお出かけになりました」


「あら、そう」



リリアは立ち上がり、窓の外を眺めた。

春の陽光が、優しく降り注いでいる。



「でも、お爺さまたちなら案外サクッと出来ちゃいそうよね」



ポツリと呟く。



「……何がですか?」


「ん〜、国を一つ、乗っ取るとか」



リリアは笑った。



「一度、試しにお願いしてみようかしら……」



シフォンは、青ざめた。



「リ、リリア様……それは、本気で……?」


「ふふ、冗談よ。冗談」



リリアは微笑んだ。

窓の外を見つめながら、小さく呟く。



「……迂闊にそんなことお願いした日には、本当にやりそうで怖いものね」



***



その頃、王都では――。


ガルドたちが、クラウンを持って帰路についていた。

赤竜ヴァラルの背に乗り、みな満足そうに笑っている。



「よし、これでリリアも喜ぶじゃろう」


「ええ、きっと」


「ラッピングも完璧ですな」


「明日の朝が楽しみだ」


「姉さん、喜んでくれるかな……」



後には、半壊した王宮と、呆然とする国王たちが残されていたそうな。



***



それから数日後、ライザッピ様生誕祭当日。

リリアが目を覚ますと、枕元に豪華な箱が置かれていた。



「……これは?」



恐る恐る開けてみると――。


そこには、見覚えのあるクラウンが。

宝石で豪華に飾られ、花が添えられている。



「……え?」



リリアは固まった。


部屋の外から、お爺さまたちの声が聞こえる。



「メリ〜ライザッピ! リリア、プレゼントは気に入ってくれたかの?」



リリアは、静かに箱を閉じた。



「……夢じゃなかったのね」



小さく呟いた。



これは、何気ない呟きがもたらした、

ひょっとしたら現実に起こるかもしれない。

いや――もう起こってしまった。

ちょっと怖い話。



(完)



――あとがき的なもの――


その後、王国とヴァーミリオン家の間で緊急会談が開かれた。


結論は以下の通り。

「クラウンは貸与という形にする」

「リリアは名誉女王の称号を受ける」

「今回の件は不問とする」


という妥協案が成立した。



リリアは「名誉女王」という謎の肩書きを得たが、本人は困惑し、即座にクラウンの返却手続きを始めたという。


ガルド翁は「え〜もう返しちゃうの?貰っちゃえばいいんだぞ」とちょっぴり不満そうだった。


しかしながら「お爺様、プレゼントありがとう」とリリアににっこり笑顔を向けられたことで、幸せいっぱい満足気だった(と目撃した執事は後日語っている)。


王宮関係者は、二度とヴァーミリオン家と関わりたくない、と心の底から思ったそうだ。


めでたし、めでたし?

先日投稿した『 ワシの可愛い孫娘を虐めたのはどいつだ!』のランクインが嬉しかったので、調子に乗って書いた話です。

前作との時間軸は特に気にしていません。

辺境伯家の日常の一コマとして、楽しんでいただけたら幸いです♪( ´▽`)


お陰様で、『ワシ孫』シリーズ四作品、全てTOP10内にランクインしました!

読んで下さった皆さま、ありがとう〜〜


★お知らせ★

『ワシの可愛い孫娘を虐めたのはどいつだ!』シリーズ短編作品を追加公開しました!


三作目:『紅蓮の女帝の帰還〜脳筋爺ちゃんズが正座させられた日〜』

https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2941237/noveldataid/27281728/


四作目:『辺境伯夫人エレオノーラの優雅な交渉 〜脳筋爺ちゃんの尻拭い〜』

https://ncode.syosetu.com/n4041li/


五作目:『元王太子セドリックの心の叫び〜ヴァーミリオン家とはもう関わりたくありません!〜』

https://ncode.syosetu.com/n6636li/


併せて是非お読みください╰(*´︶`*)╯♡

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― 新着の感想 ―
名誉女王www。 まあでも米国だと名誉将軍や名誉提督有るからなあ。
続いてた(笑)。 そして、男連中がこぞって脳筋だった。ソウデスネ、王宮に単騎で乗り込むジイちゃんに対して、アシが無いから「戦支度」しようとしていただけで、別に温厚なワケではないですもんね。 可愛くラッ…
前作から来ましたが。 ここまで危ない集団によくぞ婚約申し込めたなと。 誰発案なのかとwww 関わりたくないってなるのが遅すぎwww
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