第九十六話:白頭精霊の悲願
熾烈な攻防が続き、戦いが硬直状態に陥った、その時だった。
月影の舞姫のウォニョンは、その美しい顔を、積年の恨みによって歪ませ、糾弾の言葉を叫んだ。
「お前たちに奪われ、蹂躙された我々の過去!その無念を、私たちは血の滲むような努力と知識の叡智で、この文化へと成長させた!お前たちを、その足元に服従させるためだけに、我らは今、ここにいる!」
その悲痛な叫びは、渋谷の街中に響き渡る。だが、その言葉に、ユウマは冷静に反論した。
『K-POPは最高だし、あんたたちのパフォーマンスも凄いと思う。けど、その主張は、あまりにも激しい思い込みと、憎しみが含まれているぞ!』
だが、聞く耳を持たない白頭精霊の戦乙女たち。
ネットの反応も、ユウマの配信を通じて、この歴史観の衝突に、やや挑発的に盛り上がっていた。
『ウリジナル宣言キタこれ…』
『歴史の話はややこしくなるからやめーや』
白頭精霊の気迫に、八犬士がわずかに押されかけた、その瞬間。
玲奈の、凛とした掛け声が、仲間たちを強く鼓舞した。
「―――歴史の重みなら、私たちも決して負けません!幾度となく他国の侵略を退け続けた、この国の本質的な真価を、今こそ発揮しましょう!」
その言葉は、最強の共鳴となって、八犬士たちの魂を震わせた。
「「「おおおおお!」」」
八人の霊力が、玲奈を通じて一つに束ねられ、これまでとは次元の違う、新たなる連携技が発現する。
「―――八徳結界・天壌無窮!」
それは、攻撃技ではなかった。八犬士たちが、渋谷のスクランブル交差点を中心に、八方位を護るように陣を組む。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌。八つの徳が、純粋な守りの力となり、あらゆる攻撃を無に帰す、絶対的な浄化の結界となって、渋谷全域へと広がっていく。
「させるものですか!」
ウォニョンたちが、最後の力を振り絞って結界へと攻撃を仕掛ける。だが、彼女たちの炎も、雷も、矢も、音波も、そのあまりに純粋で、あまりに強固な「護り」の力の前には、触れることさえできずに掻き消えていく。
「馬鹿な…我らの力が、通じない…!?」
自分たちの攻撃が全く通用しないという事実は、彼女たちの戦意を、そしてその存在意義である「恨み」の心さえも、打ち砕いた。
「…撤退します」
月影の舞姫は、屈辱に唇を噛み締めながら、そう告げると、仲間たちと共に、光の中へと姿を消した。
結界が静かに解かれた後には、傷つきながらも、固い絆で結ばれた八犬士たちの姿だけが、そこに立っていた。




