第九十四話:渋谷急襲・白頭の戦乙女
九州での激闘と、新たなる仲間たちとの出会いを経て、ユウマたち一行は、疲労と、そして確かな手応えを胸に、東京のミッドナイト基地へと帰還した。
「…疲れたー!」
「でも、すごい収穫だったよね!」
長旅の緊張から解放され、誰もが安堵の息をついていた、まさにその時だった。
基地に、けたたましい警報が鳴り響いた。
「なんだ!?」
「敵襲!?どこに!」
モニターの前に飛びついた健太の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
「渋谷だ!渋谷の霊圧が…おかしい!下がってる!ていうか、マイナスになってるぞ!」
その言葉の意味を、誰もが理解した。霊力がマイナスになる。それは、ただ攻撃されているのではない。その土地のエネルギーそのものが、根こそぎ吸い上げられ、汚染されている証拠だった。
その頃、渋谷のスクランブル交差点では、異様な光景が広がっていた。
どこからともなく鳴り響く、派手でエッジの効いたK-POPサウンド。その音楽に合わせ、交差点のど真ん中に、突如として現れた五人の美しいアーティストたちが、華やかで、扇情的で、そして情熱的なダンスを披露していた。
道行く人々は足を止め、そのあまりにレベルの高いパフォーマンスに魅了される。
「新しいアイドル?」
「ヤバい!ダンス上手すぎ!」
「曲もめっちゃいい!」
スマホで撮影する者、SNSで拡散する者。ネットは、正体不明のカリスマの登場に、一瞬で熱狂の渦に包まれた。
だが、その熱狂が、やがて渋谷の街を蝕む混乱へと変わっていく。人々の興奮、熱狂、そのポジティブなエネルギーが、彼女たちの舞によって、負のエネルギーへと変換され、吸い上げられていくのだ。
その、邪悪な儀式の中心に、八犬士の戦乙女たちが集結した。
「―――あなた達?!!…この渋谷でカルチャーの中心を乱すのはどなた?!」
犬塚華信の鋭い声に、ダンスを終えた五人は、ゆっくりと振り返る。
その瞳に、先ほどまでのアイドルとしての輝きはなく、ただ冷たい敵意だけが宿っていた。
中心に立つ、青と白のハンボク風メイド服の少女が、優雅に一礼する。
「ご挨拶が遅れましたわね。我らは、『白頭精霊(はくとうせいれい)』の戦乙女…韓国が八千年の歴史の蓄積が生んだ奇跡の戦士!我が名は月影の舞姫・ウォニョン」
名乗りを上げると、他の四人もそれに続く。
赤と黒のチマチョゴリ風メイド服の「紅蓮の剣舞士・ユナ」
緑と白の狩猟服風メイド服の「翠玉の弓手・スジン」
黄と黒のテコンドー道着風メイド服の「雷光の武術家・ミンジュ」
そして、瑠璃色のステージ衣装風メイド服の「瑠璃の歌姫・ジウン」
「我ら、積年の恨み、晴らさせてもらうぞ」
月影の舞姫は、その扇子を、静かに八犬士たちへと向けた。
「日本の結界なぞ、所詮は我等先祖の模倣!我らの前では、物の数にも入らないわ!」
文化と若者の中心地・渋谷を舞台に、歴史的な怨恨を宿した、新たなる戦乙女たちとの戦いの火蓋が、今、切られようとしていた。




