第九十一話:日本の歴史の底力
夕日が関門海峡を橙色に染める頃、巌流島の戦いは静かに幕を閉じた。朱麗と孫美空が去った後には、強敵と対峙した緊張感と、そして、それまでとは質の違う、確かな絆が残されていた。
「…私たちの力って、飛鳥さんたちとは、全然違うんだね」
海を眺めながら、星荘がぽつりと呟いた。隣で、桜親も静かに頷く。
「うん。剣の腕だけじゃ、きっと全く敵わなかった。でも、あの神話みたいな相手には、私たちの『絆』の力が、ちゃんと届いた…!」
純粋な剣技では、宮本飛鳥たち剣豪に遠く及ばない。その事実は、彼女たちの自信を一度は打ち砕いた。だが、孫美空という規格外の「妖魔」を相手にした時、ユウマと玲奈、そして仲間との共鳴で戦う自分たちの戦い方こそが、唯一の有効打となった。自分たちの真価は、別の場所にある。その事実に気づいた二人は、もはや単なる「護衛」としてではなく、八犬士としての確かな自信と誇りを取り戻していた。
その背後から、宮本飛鳥(武蔵)が、伊東一枝(一刀斎)と佐々木沙也加(巌流)を伴って静かに歩み寄ってきた。
「…見事な戦いぶりだった」
飛鳥の言葉には、以前のような傲岸さはなく、純粋な賞賛が込められていた。
「我らの剣は、人や霊を斬ることはできても、理を超えた神話そのものを断ち切ることはできぬ。正直、我らだけでは、あの妖猿には勝てなかったであろう。剣士としての強さだけでは、この戦は勝ち抜けぬのだな」
飛鳥は、星荘と桜親に向き直り、その手を差し出した。
「お主たちの戦い方を、我らに教えよ。その代わり、我らが、お主たちの刃を、さらに鋭く磨き上げてやろう。互いに協力し、切磋琢磨する。それこそが、勝利への道と見た」
その光景を、ユウマは感慨深く見つめていた。
(すごい…なんて層が厚いんだ、この国は…)
闇を駆ける忍びの服部夜刃。森羅万象を操る風水の安倍星華。そして、絆を力に変える八犬士の戦乙女たち。さらには、人の身で神技の域に達した剣豪たち。
「俺たちが集めようとしている力は、ただの戦力じゃない。日本の歴史そのものが持つ、霊力の厚みと強さなんだ…」
ユウマは、拳を強く握りしめた。その瞳には、先の戦いで感じていた不安の色はなく、未来を見据える強い意欲の炎が燃えていた。
「帰ろう、みんな。そして、もっと強くなろう。八咫烏に、この国の本当の力を、見せつけてやるんだ」




