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バトル・メイド・サーヴァントII~大東京八宝玉魔法陣編  作者: 黒船雷光


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第九話:上野決戦・決着

 ユウマの胸に宿る紋章が、チリチリと熱を帯びて脈打つ。


 健太から告げられた結界の中心――上野動物園の古い飼育小屋の報は、星荘(ほしな)雷道(ライカ)、それぞれの戦場に一筋の光をもたらした。


 鬼季成実(おにき・なるみ)の猛き槌撃を寸前で躱し、片倉影(かたくら・えい)の冷徹なる苦無を紙一重で避けていた星荘(ほしな)は、「結界の中心を突く!」と一声叫び、その星嵐槍の穂先を新たな標的へと向けた。

「ぶっ放す!――天より来たれ、断罪の閃光――『星槍(ミーティア・)審断(ジャッジメント)』! 滅せよ、星の名のもとに!」天空より星降る流星の槍鉾が降り注ぎ、鬼季成実(おにき・なるみ)片倉影(かたくら・えい)もたまらず下がる。



 雷道(ライカ)もまた、「星荘(ほしな)了解よ!この雷道(ライカ)が、結界の脆弱な点を暴いてみせる!」と、電光石火の如く指先をスマホの上で滑らせた。

「ケンタ!バックアップヨロ!!」

「え?ハイ!?りょ、了解!」健太が慌ててタブレットとノートPC開いて回線をつなぐ。


 茂庭環(もにわ・たまき)の妖しき幻影が、二人の視界を惑わせんと舞い踊る。

 しかし、ユウマの言葉と、健太がリアルタイムで更新し続けるクーグルマップの光が、彼らの進むべき道を鮮やかに照らしていた。

 迷いなき一閃、一直線に、星荘と雷道は古い飼育小屋へと駆け抜ける。


 老朽化した飼育小屋にたどり着いた彼らの目に映ったのは、小屋全体を薄い膜のように覆い、脈動する結界発生の根源の姿であった。ユウマの胸の紋章から放たれる淡き光は、結界の表面で共鳴し、呼応するように輝きを増している。

「何だこれ?結界発生の為の仕掛けの為の結界?ややこし…」


「ユウマ!お前の共鳴の力を、その結界に集中させるんだ!雷道(ライカ)、結界の構造を解析し、最も脆弱なポイントを割り出せ!」星荘(ほしな)の声が、夜の帳に響く。


 ユウマはカメラを構えたまま、まるで祈るように、胸の紋章から放たれる光を、結界へと注ぎ込んだ。画面を埋め尽くす「#がんばれユウマ!」「共鳴だー!」「結界だけに決壊」という視聴者(ウォッチャー)からのコメントの熱い声援は、ユウマの内に秘めた共鳴の力を、さらに増幅させていく。


 雷道(ライカ)は、研ぎ澄まされた知性で瞬時に結界のエネルギーパターンを解析する。

「見つけたわ!結界の発生源は飼育小屋の中央、老朽化した餌置き場の下よ!そこが一番薄い!」彼女の指が示す先に、僅かな綻びが浮かび上がる。


「よし!」星荘(ほしな)は星嵐槍を構え、その全身に魔力を集中させた。


 すかさず雷道(ライカ)は雷鳴弓で陸奥三人衆を遠ざける。

「秋葉原流弓術奥義!雷縛翔(らいばくしょう)嵐陣(らんじん)!!」

 無数の矢がホーミングレーザーの様に追従する。

 その隙にユウマの共鳴によって微かに弱められ、雷道(ライカ)の精密な解析によって暴かれた結界の急所へ、星荘の槍は渾身の一撃を叩き込んだ。「光の如く一閃必殺!星槍絶断(ノヴァライン)!!」

 一点に集中した星嵐槍の穂先が、薄い膜を破るように突き刺さる。


 ギィィン、という耳鳴りのような高音が響き渡り、結界はガラスが砕け散るように音もなく崩壊した。

 公園を覆っていた奇妙な空気は、まるで悪夢が覚めるように一変し、鳥のさえずりが再び自然な調べを奏で、木々のざわめきも本来の穏やかな音を取り戻した。

 不自然に逆流していた噴水の水は元の位置へと戻り、美術館のポスターの人物も瞬きを止め、パンダのぬいぐるみもただの無機質なオブジェへと帰した。巨大な恐竜の化石標本や、桜の木が徘徊する幻影も消え去り、上野公園には静寂が、そして真の姿が戻ったのである。


 幻術が解けたことで、茂庭環(もにわ・たまき)のお香の効果も薄れ、気を失っていた玲奈と彩花が苦しげに目を開き、ふらつきながらも体を起こした。


「え…何…?終わったの…?」玲奈の掠れた声が、未だ覚めやらぬ混乱を物語る。


「ユウマ!結界の破壊に成功したわ!」雷道(ライカ)の声が、夜空の下に力強く響き渡った。


 しかし、戦いはまだ、真の終わりを告げてはいなかった。結界が破壊されたことで、星荘と雷道を取り囲んでいた陸奥三人衆――茂庭環(もにわ・たまき)片倉影(かたくら・えい)鬼季成実(おにき・なるみ)が、より一層の殺気を放ちながら、彼らに襲い掛かってくる。


 そして、桜親(さくら)と鬼の副長・土方美鈴(ひじかた・みすず)の激しい剣戟(けんげき)は、未だ止むことなく火花を散らし続けていた。

 激しく斬り合い鍔迫り合いになると「むぅ…仕込んだ結界が破られたようだな」と土方

「もう、諦めたら?」ニヤリと笑う桜親(さくら)

 だが、長い拮抗した剣戟の宴は二人を著しく消耗させていた。


 結界が破壊され、上野公園に本来の静寂が戻ったその時、ユウマは焦燥に駆られたように声を上げた。

「敵の結界を破ったけど、こっちから結界を張り直せないの!?」


 すぐさま、星荘(ほしな)の切羽詰まった声が返る。「ここは【礼】の宝玉が治める地。【礼】の守護者である犬坂碧毛(いぬさか・あおい)がいないと、この地では人払いの結界が張れないわ!」


 しかし、その言葉が言い終わるか否かの間もなく、公園を覆うように、ふわりと薄い光の膜が張られた。それは、まさに人払い結界が展開された証。一体何が……ユウマたちが顔を見合わせていると、健太の声が通信機越しに響き渡った。

「ユウマ!ドローンの映像見ろよ!不忍池の畔で、薙刀(なぎなた)のメイドが大ピンチだ!」


 モニターに映し出されたのは、新選組の三人の隊士に囲まれ、追い詰められている犬坂碧毛(いぬさか・あおい)の姿だった。彼女の質素にまとまったメイド服は土で汚れ、息が乱れているのが見て取れる。

「この人が【礼】の宝玉の(バトル・)守護(メイド・)戦乙女(サーヴァント)!?大ピンチじゃん!!」ユウマの叫びが空を切る。

 星荘(ほしな)もまた、その事態を瞬時に把握した。「分かっているわよ!桜親(さくら)!」


 土方美鈴(ひじかた・みすず)の鋭い声が、不忍池の畔に響く。「逃がさんぞ、犬江桜親(いぬえ・さくら)!」

「場所を変えるだけだい!」桜親(さくら)は桜嵐を一閃させ、辛うじて攻撃を捌きながら、戦場を移動しようと試みる。「行くよ限界突破(リミット・ブレイク)――我が一閃、桜と共に舞え。《桜嵐・零式(サクラストーム・ゼロ)》――刹那にして千の刃!」

「むぅ!」土方美鈴に無数の桜の花びらが鋭い刃として纏わりつつ襲い掛かる。


 ユウマ、星荘(ほしな)雷道(ライカ)、そしてようやく意識を取り戻した玲奈と彩花も、碧毛(あおい)の元へと急ぐ。

 辛うじて三剣士の連携の取れた剣戟をかわす碧毛(あおい)の近くにユウマが合流した瞬間、碧毛(あおい)の胸元で、【礼】の宝玉との共鳴現象が強烈な光を放ち始めた。

 その光は、まるで碧毛(あおい)の命そのもののように激しく脈打ち、ユウマの胸の紋章と共鳴し合う。


「これが共鳴の力……!」ユウマは、その圧倒的な光景に目を奪われた。

「すげぇぜ!メイド大集合だな!」健太の興奮した声が響く。


 碧毛(あおい)の放つ光が、東京魔法陣の八人のメイドの内集まった四人――犬坂碧毛(いぬさか・あおい)犬江桜親(いぬえ・さくら)犬川星荘(いぬかわ・ほしな)犬山雷道(いぬやま・らいか)、それぞれの宝玉との共鳴と結びつき、その力を何倍にも増幅させていく。彼らの衣装の輝きは増し、オーラが全身を包み込んだ。


「あそこにいる片目眼帯のメイドが伊達…星夜…なのか…衣装エロ過ぎだろ……」健太が思わず呟く。

「やべ、あれ写したらBANくらいそう……」ユウマの声が続く。

「あんたたちホント撮れ高しか見てないのね…」とは玲奈の鋭いツッコミ。


 戦乙女(バトル・メイデン)の力が、まさに覚醒したかのように解き放たれる。その圧倒的なオーラの前に、伊達星夜(だて・セイヤ)は表情を凍り付かせた。「バカな……」


 パワーアップした八犬士のメイドたちは、これまで苦戦を強いられていた土方率いる新選組、そして伊達の部下である陸奥三人衆を、見る見るうちに圧倒し始めた。碧毛(あおい)の薙刀は風を切り、桜親(さくら)の剣は雷のごとく閃く。星荘(ほしな)の槍は一点を貫き、雷道(ライカ)の弓は正確無比に敵を捉える。


「これはマズイな……我らが倒れれば、蝦夷共和国(エゾ・レガリア)が瓦解する故、これにて御免!」土方美鈴(ひじかた・みすず)はそう言い放つと、新選組の隊士たちと共に、瞬く間にその場から姿を消した。


 そして、その土方の撤退を見て、伊達星夜は驚くほどあっさりと両手を上げた。

「わかった!参った!降伏する!」陸奥三人衆も殉じて武装解除に応じる。


 その変わり身に、ユウマは呆気にとられたように呟いた。「(いさぎよ)いな……」

「#伊達のメイド撃破?!」「さすが伊達じゃない!」「伊達のメイドなんで写さないんだよ?」「さっきちょっと映ってたぞ…アレ…叡智じゃ…」「新選組萌」「あのチビキャラって沖田?」「あの剛剣菊一文字とみた…近藤さんだろ?!」「美人メイド眼福」「何でメイド同士ガチってんの」アッサリとした決着だが、実況コメントは留まることを知らずに更新されてゆく。


 既に朝日が昇り始め、上野公園には雀の鳴き声が響き渡り始めていた。


 戦いの熱が冷めやらぬ中、犬坂碧毛(いぬさか・あおい)がユウマの元へと歩み寄ってきた。薙刀を静かに携えた彼女の顔には、安堵と感謝の表情が浮かんでいる。

「助かりました、共鳴者(レゾネーター)のユウマさん。あなたがいてくれたからこそ、結界も、そして私たちも救われたわ。」

 碧毛(あおい)はユウマの前に立つと、優雅に一礼し、そしてにっこりと微笑んだ。その笑顔は、まさに上野公園の桜が満開になったかのように、見事な美しさであった。


「最初にここが決戦の地になるのは分かっていたのに、あなたたちとの合流を避けて単独で動いたのは、伊達の策略の裏をかくつもりだったの……でも、危うく失敗しそうになってしまって、本当に危なかったわ……」碧毛(あおい)は、申し訳なさそうに、しかし正直に本音を打ち明けた。

 そのまま、スッとユウマの手に自身の指を重ねる。その手のひらの温かさに、ユウマは少しばかりドキリとした。


 しかし、その微笑ましい光景に、すぐさま現実の冷や水を浴びせる声が飛んできた。

「こいつとツルむと、漏れなく全世界ネットで拡散されるから、距離を置いた方が良いですよ?」

 玲奈が呆れたような顔で忠告する。その言葉に、星荘(ほしな)桜親(さくら)は小さく笑いをこぼした。


 気絶していた状態から覚醒した彩花が事態を把握し、メモを取りつつ(はしゃ)ぐ。

「ええええ!あれが伊達政宗の化身?!ドエロっすね…!まあ、政宗も史実で夜伽に豪快な人ってことらしいですけど…うひょうぉ~グラドル真っ青な感じっすね~」

 冷静さを取り戻した玲奈が、伊達星夜の奇抜な衣装を見てドン引きする。

「何アレ……エッロ……露出狂……?」


 その玲奈の言葉に、伊達星夜の顔が僅かに引きつった瞬間、背後から凛とした声が響いた。

「よくやった、共鳴者(レゾネーター)ユウマ。」


 現れたのは、安倍星華(あべ・せいか)だった。彼女は部下の巫女を引き連れて伊達星夜と陸奥三人衆の元へと歩み寄る。


「彼女たち、どうなるんすか?」ユウマが尋ねた。

「まあ、武装解除されて普通に動乱罪で禁固刑だな……。ここからは普通に司法の領域だ」安倍星華は淡々と言う。

「裁判とか?」玲奈が訊ねる。

「どうかな…おそらく陰陽師『星詠司(ほしよみつかさ)』と内閣府御庭番『 影刃(かげやいば)』の取り調べも徹底して受けるだろうな…」


安倍星華達が立ち去った後は、ビックリするくらい戦闘の痕跡も消えている。

「とりあえず戻ろうか……」ユウマの言葉に、夜通し活動してきて疲弊しきったメイドたちと仲間たちは、安堵の息を吐いた。


 こうして、上野公園を舞台とした激しい決戦は、静かにその幕を閉じたのである。

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