第八十八話:船島決闘・巌流の宿命
伊東一枝を仲間に加え、さらに狭くなったワゴン車に揺られることしばし。一行は、かつて宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘した伝説の地、船島――現在の巌流島へと到着した。
その島の岸辺に、まるで一行が来るのを何百年も前から知っていたかのように、一人の少女が静かに佇んでいた。風になびく、腰まで届くほどの長い黒髪。その美しい顔立ちは、まるで精巧な人形のようだったが、瞳には、尋常ならざる執念の光が宿っていた。
「―――佐々木沙也加、と申します。前世より続く汚名を返上するため、あなたを待ち続けておりました」
「え?それって何年くらい…?」
ユウマの素朴な疑問は、沙也加の鋭い眼光によって、綺麗に無視された。
「この剣士が…ウチの流派から出た異端、巌流の魂…?」
伊東一枝が、博多弁で呟く。
「まあ、脈々とわしを待っていたようじゃからな。相手をせぬは、武士の礼を欠くというものだろう」
宮本飛鳥が、静かに歩みを進める。
「…ところで、お主が背負っているその長大な得物…巷で言うところの『物干し竿』というやつか?それで、わしと闘うのか?」
「何か、ご不服でも?」
沙也加は、背に負った、身の丈ほどもある長大な野太刀を、ゆっくりと鞘から抜き放った。
「いや…。ただ、昔の小次郎が使っていた物干し竿は、刃渡り三尺一寸(約94cm)程度だったと記憶しておるが…」その脅威の長さに少し…いや、だいぶ面白そうという顔をする。
「我が剣が長刀であることを知ったあなたが、船の櫂を削って対応したという、かの歴史に習ったまで」
沙也加は、その切っ先を飛鳥へと向ける。
「あなたが櫂で間合いを詰めたのなら、私は我が扱える長剣の長さを、さらに伸ばすのみ。―――その長さ、七尺二寸(約218cm)!」
「あれ、ほしなちゃんの槍より長くない!?」
その、あまりにも常識外れな刀の長さに、さくらが驚きの声を上げる。
「…間合いの長さだけが、勝敗を決する価値ではあるまいに」
飛鳥は、静かに二本の木刀を構えた。あくまで二天一流で相手をするために。
四百年以上の時を超え、二人の剣豪の宿命が、今、再びこの巌流島で交差しようとしていた。
「そこは既に、我が間合いだぞ、武蔵!」
宮本飛鳥が木刀を構え終わるよりも早く、佐々木沙也加の七尺二寸の長大な野太刀が、凄まじい風切り音と共に横薙ぎに掃われた。常人であれば、その一撃で胴を真っ二つにされていただろう。
だが、飛鳥は冷静にその刃の下をしゃがんで躱す。
「―――秘剣・燕返し!」
沙也加の真骨頂は、ここからだった。横に振り切ったはずの長大な刀が、信じられないほどの速度で反転し、今度は低い姿勢の飛鳥の首を刎ねんと、逆方向から斬り返される。
「!」
飛鳥は、咄嗟に後方へと大きく跳躍してそれを躱す。
「馬鹿め!空中では、もう躱すすべはないわ!」
沙也加の瞳が、勝利を確信した光を宿す。体を回転させ、その凄まじい遠心力を全く殺すことなく、再び長大な刃が、空中で無防備になった飛鳥へと襲い掛かる。
これぞ、佐々木小次郎が編み出した、三連撃の必殺剣。
「燕返し・二連!!」
「武蔵、破れたり!」
沙也加の勝利の叫びが、巌流島に響き渡る。
果たして―――!?




