第八十六話:福岡・一刀流の使い手
宮本飛鳥という、とてつもない実力者を仲間に加えた一行だったが、その代償として、玲奈、星荘、桜親の三人は、それぞれの形で自信を失い、少しだけ落ち込んでいた。そんな重い空気を振り払うように、ユウマは次の目的地を告げた。
「よし、次は佐賀だ!伊東一刀斎の継承者を探すぞ!」
だが、彩花がすぐに難しい顔をする。
「問題は、どうやって探すか、なのよね。武蔵みたいに、霊巌洞っていう分かりやすいスポットが存在しないの。一刀流は、その系譜が今の現代剣道にも深く根付いているから、どこにいてもおかしくない」
その言葉に、桜親が単純な提案をした。
「じゃあ、佐賀中の剣道家を片っ端から相手にしていけば、そのうち見つかるんじゃないかな!」
「いや、それ無理じゃね!?道場破りみたいだし、時間かかりすぎるだろ!」
ユウマの当然のツッコミに、うー、と桜親が唸る。
議論が行き詰まる中、後部座席で静かに車窓を眺めていた宮本飛鳥(九州にいる間は付き合ってくれるということになった)が、ふと口を開いた。
「…少し、面白いやり方がある」
「え?」
「全日本剣道大会。全国の現代剣士が、己が修行の成果を示す、最大の晴れ舞台。その中心で、わしが気を放つ。それに強く反応する者がいれば、その中から探すのが、最も効率的であろう」
「なるほど…!」と一同は感心するが、彩花がすぐにスマホで調べて渋い顔をする。
「残念だけど、全日本剣道大会の開催はまだ先みたい…。女子の全国大会は、もう終わっちゃってるし…」
「そっかー、残念…」
誰もが諦めかけた、その時だった。
「…あ!」
彩花が、何かに気づいたように声を上げた。
「九州剣道大会が、ちょうど今日、福岡でやってるみたいだよ!行ってみよう!」
福岡は柔道や剣道の独自のサドンデス大会を開催したり、武道が根付いた活気のある場所だ。
大会開催の県の総合体育館は、選手たちの気合と観客の熱気、そして独特の緊張感に満ちたオーラが渦巻いていた。試合場の鋭い竹刀の打突音と、魂を絞り出すような気合の声が、一行を出迎える。
「すごい熱気だね…」
その雰囲気に気圧されるユウマたちの横で、宮本飛鳥はこともなげに、選手たちがウォーミングアップをしている競技場の、その中央へと歩いて行った。
そして、おもむろに目を閉じると、その身に宿す闘気を、一気に解放した。
ビリビリ、と空気が震える。一般の観客は、ただ「なんだか急に寒気が…」と身を震わせるだけだったが、鍛え抜かれた剣士たちは違った。何人もの選手が動きを止め、驚愕の表情で闘気の中心――飛鳥へと視線を向ける。その中でも、特に強く反応し、闘気を闘気で弾き返さんとする気配を放つ女性選手が、数名いた。
その中の一人が、ゆっくりと飛鳥へと近づいてくる。
「あんた、なんばしに来たとね?神聖な試合会場で、喧嘩でも売りに来たと?」
鋭い眼光と、気の強そうな博多弁。そのただならぬ気配に、飛鳥は静かに問い返した。
「お前が、一刀斎か?」
その問いに、女性は不敵に笑うと、手に持った竹刀の切っ先を、ピタリと飛鳥の喉元に向けた。
「―――伊東一枝たい」
竹刀とは思えぬほどの殺気が、二人の間に迸る。まさに、一触即発。
だが、そのすさまじい闘気のやり取りは、思わぬ形で中断させられた。
「こらー!そこの二人!神聖な試合会場で殺気を撒き散らすな!果し合いなら、他所でやれ!出ていかんか!」
恰幅のいい、大会の主任らしき男性審判に、文字通り箒で掃き出されるように、二人は会場から追い出されてしまったのだった。現代スポーツ化しているなどと一部に揶揄される剣道だが切磋琢磨し己が技術を磨き上げて敵に自分に打ち勝つ修行を連綿と重ねる勝負師に宿るのはサムライの魂なのだ。
ジャケットを着てネクタイを締めている姿でも審判さえ剣士なのだ。ユウマ達は黙って従うしかなかった。




