第八十四話:熊本霊巌洞・二天一流の試練
「―――いざ!」
宮本飛鳥の静かな号令と共に、戦いの火蓋は切られた。彼女は、背に負った二本の刀――大小の太刀を抜き放ち、両手に構える。攻防一体、無敵の剣技と謳われた宮本武蔵が編み出した『二天一流』の構え。
「柳生新陰流も、宝蔵院流の十字槍も、とうの昔に我が剣が勝ることを、歴史が証明しているわ!」
その言葉に偽りはなかった。星荘の槍が繰り出す鋭い突きを、飛鳥は左手の小太刀で軽くいなし、その隙を突いてさくらが放った神速の斬撃を、右手の太刀で受け止め、逆に弾き返す。
「なっ…!」
「私たちの攻撃が、全く通じない…!」
順番に入れ替わり、波状攻撃を仕掛ける二人の百戦錬磨の戦乙女が、まるで子供のように翻弄される。攻めれば受け流され、守ろうとすれば、その守りの隙間を大小二本の刃が、的確に、そして無慈悲に抉ってくる。
「なめんな、こっちは令和の最新式だ!」
強がる桜親が、桜新陰流の奥義を放つ。だが、その一閃さえも、飛鳥は小太刀一本で完璧にいなしきり、間髪入れずに大太刀が、脳天を叩き割るかの勢いで打ち下ろされる。一振りの刀で、その連続攻撃を受け切るのは至難の業だった。
「―――させません!」
横合いから、星荘の十字槍が薙ぎ払うように打ち込まれる。だが、飛鳥はそれを待っていたかのように体を回転させ、その勢いを利用して、逆に槍の穂先をほしな自身へと突き返した。
二人を相手にしても、飛鳥の動きには一切の無駄がない。捌き、打ち込み、いなし、突く。目まぐるしく攻守が入れ替わる激戦の中、主導権は常に、宮本飛鳥が握っていた。
やがて、飛鳥はふっと息をつくと、静かに宣言した。
「…二天一流は、二刀を振るうことのみが、その真意に非ず」
彼女は、左手の小太刀をすっと鞘に収めると、右手の太刀一本を、八相の方向に大きく構えた。その姿は、まるで天と地、陰と陽、その全てをその一振りに収束させたかのようだった。
「―――『火の太刀』」
その言葉と共に、飛鳥は大きく踏み込んだ。放たれたのは、これまでの斬撃とは比較にならない、全てを断ち切る剛剣。だが、その刃が向けられたのは、目の前の戦乙女二人ではなかった。彼女たちの背後で戦いを見守る、玲奈だった。
「「しまっ…!」」
慌てた二人が、折り重なるようにして玲奈を庇う。だが、その動きさえも、飛鳥の計算の内だった。
飛鳥の一閃は、まずさくらの刀を空高く弾き飛ばし、その勢いのまま、玲奈を護るために突き出されたほしなの十字槍の柄を、真上から叩きつけた。
ゴオォォン!
轟音と共に、十字槍は地面に深くめり込み、その衝撃でほしなの手からも離れる。武器を失った二人の戦乙女と、その背後で、ただ一人守られた玲奈が立っている。
「ほう…」
飛鳥は、ゆっくりと刀を収めながら、玲奈を見つめた。
「我が本気の剣を見て、一歩も引かぬか。…霊脈が集まる…どうやら、お主がこの軍の大将、と見た」
その言葉に、ユウマたちがハッとして玲奈を見る。
彼女は、その場に立ったまま、ピクリとも動かない。
「む?」
よく見ると、玲奈は、あまりの恐怖に、立ったまま綺麗に失神していた。




