第八十一話:ミッドナイト基地・新たなる模索
「日本経済は長期停滞が続き、実質賃金の低迷や物価高で生活苦が広がっています。企業収益は改善しても賃金上昇は追いつかず、消費が伸び悩み内需停滞が顕著です。政府は成長戦略や賃上げ促進を掲げるものの、人口減少や投資不足が重くのしかかり、明るい展望を描けない状況が続いています…」
テレビから流れるニュースキャスターの、どこか他人事のような声が、ミッドナイト基地の空気に溶けていく。
『…専門家は、続く経済の長期停滞は、地方の活力低下が一因であると指摘しており…』
「うっし、こっちの活力はうなぎ上りだぜ!見てみろユウマ!星荘さんのチャンネル、登録者50万人突破だ!」
健太が、ノートパソコンの画面を誇らしげに見せる。そこには、ファンからの熱狂的なコメントが滝のように流れていた。八犬士たちの個人チャンネルは、今や社会現象と呼べるほどの人気を博し、その数字は順調に伸び続けていた。闘う戦乙女の現象は、一部作り物だ!という揶揄も含めて定番化したやり取りで現実と虚構の合間の現象として捉えられ浸透し、ミッドナイト基地発信の情報がオリジナルということで、その領域での絶大な信用を得ることに成功していた。
認識齟齬の術式はきちんと作用して、日常の彼女たちと戦乙女としての彼女たちはプライバシーが守られているのも逆に実在はしない?が、新宿の街の一部に被害がリアルに出てた…等真偽がちょうどよく混ざり、主な視聴者層はそれも含めてエンタメとして捉えて楽しんでいる風潮はあった。
一見、全てが上手くいっているかのように見える。だが、その場の誰もが、画面の向こうの華やかさとは裏腹の、重い現実を感じていた。
「…地方の霊力の乱れと低下は、もはや無視できるレベルではありません」
重い口を開いたのは、安倍星華だった。彼女が広げた日本の霊脈地図には、これまでの戦いの舞台となった北海道、大阪、そして甲信越地方が、不吉な赤色で示されている。
「東京魔法陣を襲う各地域の有力な強者たちが、ここで敗れるたび、彼らが守護していたはずの故郷は、深刻な霊的パワーバランスの崩壊に見舞われています。今の日本は、東京という心臓だけがかろうじて動いているものの、手足の血流は止まりつつある…そんな状態です」
座して待てるような状況ではない。それは、誰もが理解していた。
「実際の政治と経済も今の日本は末端が死にかけて東京一極集中を脱しえてないよね…」健太が受け売りの現世の話題を出す。
「でも、どうすれば…」
ユウマの問いに、星華は静かに、しかし力強く答えた。
「―――新たな戦力を、スカウトするのです」
「新しい、戦力…」
その言葉に、彩花がハッと顔を上げた。彼女は、自らのオカルトノートを高速でめくり始める。
「確かに…歴史上、まだ覚醒していない英雄の魂は、この国に眠っているはず。例えば、中国地方を支配した毛利の三本の矢、四国を統一した長宗我部の姫若子…」
だが、彩花はそこでペンを止める。
「でも、どうやって見つけるの?ほしなちゃんみたいに、自分がその力を持っていることに、全く気付いていない人もいる。そういう『これから覚醒する』っていうパターンも踏まえて、探さなきゃいけないんだよね…?」
それは、あまりにも途方もない、砂浜でたった一粒のダイヤを探すような作業だった。
だが、ユウマたちの瞳には、絶望ではなく、新たな挑戦への光が灯っていた。
これまで受け身で守るだけだった戦いが、今、日本全土を舞台にした、未来への種を探す旅へと変わろうとしていた。




