第七十九話:ミッドナイト基地・新たな絆の形
ユウマと玲奈の唇から分離した【伏】の宝玉は、安倍星華が用意した専用の霊的保管庫に納められ、ミッドナイト基地の中心で、母なる星のように穏やかな光を放っていた。これで、玲奈自身が常に危険に晒されるという、最大の弱点は克服された。
だが、問題が全て解決したわけではない。
「…では、改めて、伏姫様。今後とも、我ら八犬士にご助力のほどを」
犬坂碧毛が、玲奈に向かって深々と頭を下げる。
「ひ、姫様なんてやめてよ!」
急に敬語の対象となり、最高位の重要人物として扱われ始めたことに、玲奈は戸惑いを隠せない。
その時、犬川星荘が、騎士のように玲奈の前に進み出て、跪いた。
「伏姫様。宝玉と離れたとはいえ、貴女様が我らの力の要であることに変わりはありません。つきましては、この私、犬川星荘が、貴女様の専属警護をお引き受けいたします!」
「はぁ!?」
そのあまりに芝居がかった申し出に、玲奈の眉がつり上がる。
「あんたねぇ…それを口実に、ユウマに近づく気満々なのが見え見えなのよ!親友の彼氏に手を出すなんて、許さないんだから!」
「なっ…!私は、純粋な忠誠心から!」
「どの口が言うのよ!」
再び、痴話げんかが始まろうとしていた。
「まーまー、二人とも」と彩花が割って入る。「それより、ほしなちゃんの方はどうだったの?ユウマ君とのチューで、何か特殊な能力に目覚めたとか?」
その問いに、星荘はピタリと動きを止める。彼女は、自分の掌を見つめ、霊力を込めてみるが、特に変化はない。
「…いえ。正直、あまり変わらない、みたいです」
その言葉を聞き、安倍星華が静かに結論を述べた。
「…つまり、そういうことなのでしょう。織田焔が勘違いしたように、接吻やハグといった『粘膜接触』自体が力を増幅させるのではない。玲奈殿とユウマ殿の間にあった、幼馴染という長い時間で培われた、言葉にはならぬほどの『精神的な繋がり』こそが、伏姫を覚醒させる唯一の鍵だったのです」
その言葉は、全員の胸にストンと落ちた。
絆とは、行為ではない。想いそのものなのだ。
「…そういうことか」
ユウマは、モニターに映し出された、自分たちのチャンネルのファンからの応援コメントを見つめた。
「俺たちがやるべきことは、やっぱりこれなんだ。もっと、たくさんの人と繋がること。俺たちの戦いを、想いを、正しく理解してもらうこと」
その決意に、八犬士の戦乙女たちは、力強く頷いた。
彼女たちは、それぞれのスマートフォンを手に取り、ファンからのコメントに返信を打ち始める。物理的な距離を超えた、無数の絆を、さらに強く、深く結ぶために。
日本の未来を賭けた戦いは、新たなフェーズへと移行しようとしていた。




