第七十六話:新宿決戦:八犬士 vs 武田・上杉連合軍
玲奈を欠いた八犬士の状況は、絶望的だった。
これまで絶対的な力の源泉であったユウマと玲奈の共鳴ラインが、増幅器を失ったことで、不安定なノイズを発するだけとなっていた。戦乙女たちの武技礼装から放たれるオーラは、普段の輝きを失い、まるで風前の灯火のように揺らめいている。
その好機を、戦国の宿敵たちは見逃さない。
「全軍、かかれぃ!虎の牙を以て、犬どもを噛み砕け!」
「龍の爪を以て、不義を滅しなさい。毘沙門天の御名の下に!」
武田嵐花の号令で、山本霞幸率いる赤備え部隊が烈火の如く突撃し、上杉聖流の檄に応え、柿崎景奈を筆頭とする越後の猛者たちが、全てを洗い流す激流となって八犬士へと襲い掛かる。
「くっ…!連携が、完璧すぎる…!」
最前線でその猛攻を受け止める犬川星荘が、苦悶の声を上げる。武田軍が正面から力で押し潰しにかかり、その隙を上杉軍が的確に突いてくる。まるで、一人の軍師が指揮しているかのような、完璧な連携攻撃だった。
各個の戦いも、完全に劣勢だった。
「速すぎる…!私の解析が、追いつかない!」
犬山雷道の放つ【智】の矢を、武田四天王が一人、馬場信子の鉄壁の守りが全て弾き、その背後から内藤正の幻術が雷道の思考を乱す。
「この程度の礼儀で、龍の怒りを止められるとでも思いましたか!」
犬坂碧毛の流麗な薙刀術も、上杉軍最強の武将、柿崎華厳の荒れ狂う猛攻の前には、ただ防戦一方となるしかなかった。
八犬士たちは、文字通り満身創痍だった。それでも、彼女たちは倒れない。なぜなら、自分たちがここで崩れれば、玲奈を救うための最後の希望が、完全に断たれてしまうからだ。
「―――まだだ…!」
ユウマは、途切れかける意識の中で、必死に共鳴を送り続ける。その想いに応えるように、八犬士たちが最後の力を振り絞り、一つの陣形を組んだ。
「玲奈様(母星)の光がなくとも…!」(桜親)
「我らが魂に宿る、八つの徳の輝きは、消えはしない!」(星荘)
星荘の【義】と、桜親の【仁】を中心に、八人の戦乙女たちが、互いを庇い、支え合うように円陣を組む。それは、攻撃を捨て、ただ一点、仲間を信じ、この場を守り抜くためだけの、悲壮なまでの覚悟の陣だった。
「―――八犬義盟・不壊之陣!」
「小賢しい!」
「まとめて消えなさい!」
嵐花が風林火山の奥義を、聖流が龍神の秘術を、その不壊の陣へと同時に叩きつける。
新宿の夜空が、二つの巨大な霊力の激突によって、真昼のように白く染まった。




