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第七話:北辰隻眼の竜と上野公園での対決

 新宿や渋谷、池袋とは異なる時の層を纏い、

 上野は静かに、しかし確かに東京の記憶を刻む。


 広大な上野公園に広がる深い緑は、春には桜が咲き誇り、風に舞う花びらが過去と現在をつなぐ。

 不忍池(しのばずのいけ)はその名のとおり、沈黙(ちんもく)の中に佇み、浮世を映す鏡のように静謐(せいひつ)を湛える。


 歴史ある動物園には、今やパンダは不在でも、子どもたちの笑顔と都会の安らぎが息づいている。


 美術館と博物館は、芸術と歴史の対話の場。

 数百年の声が、静かに耳元で囁く。


 アメ横に足を運べば、そこには喧騒と人情が交差し、魚の匂い、果物の声、値引き交渉のリズムが街を生かす。


 そして、上野駅。

 それは、東京の北の玄関にして、地方へと繋がる希望のレールが集う、鉄道の心臓。


 華やかではないが、どこか懐かしく、重みと誇りを内に秘めた都市――それが、上野である。


 ユウマの胸の紋章は、秋葉原での激戦の時と同じように、チリチリと熱を帯びていた。


「上野かぁ…パンダとか美術館とか、平和なイメージだけどな」ユウマはカメラとスマホを構えながら呟く。

 今日の配信は「古都上野のメイド伝説を追え!」と題され、既に多くの視聴者が集まっていた。


 健太はタブレットを操作しながら真剣な顔で報告する。

視聴者さん(ウィッチャー)情報(・インテル)だと、上野着の常盤線で隻眼(せきがん)のメイドが乗っていたって話だから、ここで間違いないと思うぜ!」

「そんなに目立つ格好で…何なの?自意識過剰なんじゃ…」あきれる玲奈。

「おい、やめて差し上げろ…気合入ってんだろ…多分」健太は苦笑。

「メイド服で指定席に座って来るって絵面…なんか萌えるよな?」とユウマ。


 彩花はオカルトノートを広げ、興奮気味に付け加える。

「伊達政宗! 独眼竜! 隻眼(ドラコ)北斗龍(セプテムステレス)! 仙台のロマンだね! 彼女の家紋は『竹に雀』…もしかしたら、雀を操る能力があるのかもしれない!」


 玲奈はため息をつきながら言った。

「雀なら可愛いけど…また厄介な相手じゃない?今度はどんなメイドが出てくるのさ…」


 桜親(さくら)は優雅な笑みを浮かべ、彩花のノートを覗き込む。

「伊達家は奥州の雄。その力を継ぐ者ならば、一筋縄ではいかないでしょうね。特に、奥州は情報戦にも長けていたからね~。」


 星荘(ほしな)は、いつものように冷静な口調で忠告する。

伊達星夜(だて・セイヤ)は、一気に攻めかかるような真似は恐らくしない。搦め手を使って、我々の足元を崩しにかかるだろう。【礼】の宝玉を守る結界は、上野公園、あの広大な敷地のどこかに巧妙に隠されているはずだが…油断するな。」


 雷道(ライカ)がスマホを操作しながら言う。

「伊達星夜の部下は、『陸奥三人衆』と呼ばれるメイドたちだって…星華さんから!それぞれが独自の戦術と能力を持っている。…情報戦に長けたメイドたちか!厄介だな…私の解析能力が試されそうだ。」


 ユウマは、ゾクゾクと武者震いを感じていた。

「よし! 視聴者さん、今回は戦略的なバトルになりそうだぜ! みんなの知恵と推理力も貸してくれ!

#上野のメイド戦術 で、敵の動きを予想しようぜ!」


 ■上野公園の奇妙な異変と結界の境界


 上野公園に足を踏み入れると、いつもと違う奇妙な空気が漂っていた。

 公園内は通常通り賑わっているように見えるが、どこか違和感がある。

 鳥のさえずりが不自然に途切れたり、木々のざわめきが妙に大きく聞こえたりする。


 ユウマの胸の紋章が脈打ち、スマホの画面にノイズが走る。

「視聴者さん、なんか変な感じだぜ、上野公園。鳥の鳴き声がバグってるとか、マジで怪しいんだけど! コメントで、なんか変化に気づいたら教えてくれ!」


 健太のドローンが上空を旋回するが、なぜか映像が途切れ途切れになる。「ユウマ、ドローンが安定しない! 電波干渉か? でも、何か違う気がする…」


 彩花が目を凝らし、オカルトノートを握りしめる。

「これは…呪詛? あるいは、人の意識を誘導する類のもの…?」


 その時、公園内のあちこちで異変が起き始めた。噴水の水が不自然に逆流したり、美術館のポスターの人物が瞬きをしたり、売店のパンダのぬいぐるみが一斉にユウマたちの方を向いたりする。


「うわっ! パンダがこっち見てる!?」玲奈が悲鳴を上げた。

 さらには自然史博物館から巨大な恐竜の化石標本が飛び出して闊歩し、桜の木が花びらをまき散らしながら徘徊している。


「これは…幻術の類か。それとも…」星荘が槍を構える。


 西郷隆盛像が犬を連れたまま目の前に現れる。その上に人影が三人。

 一人は妖艶な振袖姿で、花魁の様な姿。裾は短く帯の後ろは大きなりぼん結びでメイド服と言えなくはない…手には扇子と香炉持っている。

 もう一人は忍者のような装束で超絶ミニスカート網タイツ、鋭い視線を向けて口元をスカーフで隠している。

 そして最後の一人は、西洋甲冑の様な金属プレートがメイド服になったような衣装身につけ、巨大な槌を構えていた。頭部のカチューシャには角がついている…鬼がシチュエーションなのか?


「ふふふ…我が名は『陸奥三人衆』が一人、茂庭環(もにわ・たまき)。伊達様の命により、貴様らの精神を弄(マインド・)んでやろう(ドミネーション)。」

 扇子で覆うメイドの口元の真っ赤な口紅が妖艶に微笑む。先程からむせ返るようなお香の香りが辺りに充満している。扇子で仰ぐと更に香りが強くなる。


「この香り…なんだか…甘くていい気持ち…」玲奈がふわっとして足元がおぼつかなくなる。

「ユウマ、はやく下がれ!訓練を積んでいないお前たちではこの状況はマズイ」星荘(ほしな)はが油断なく構えつつ、ユウマ達を下がらせようとする。


「我は伊達様の影、片倉影(かたくら・えい)。貴様らの情報を全て掌握している。一歩たりとも動かすものか。」忍者のメイドが冷たい声で呟く。


 彩花が玲奈につづいて「伊達正宗が戦国の豊臣から徳川の治世で生き残ったのは…武力だけでなく知略でも優秀な部下が…ふわぁぁ…」倒れかかる。

 慌てて二人を支えるユウマと健太だが、こんな時でも撮影は止めない。


「我は剛勇、鬼成実(おに・なるみ)。我の前に立つ者は、全て砕け散るのみ!」甲冑のメイドが西郷像から飛びりつつ巨大な(つち)を地面に叩きつける。地面が揺れ、ユウマたちの足元にひびが入る。


「ユウマ! 後ろに下がれ! これは幻覚攻撃と物理攻撃の二方面作戦だ!」星荘(ほしな)が叫ぶ。

 雷道が弓を構える。「精神攻撃に物理攻撃…厄介な組み合わせだ。だが、この雷道(ライカ)が解析してやる!」


 ユウマはカメラを構え、玲奈を抱えながら興奮を隠せない。

「うおおっ! 来たぜ! 伊達政宗の部下たち! 陸奥三人衆! 視聴者さん、こいつらの攻撃、なんか変だぜ! みんなの知恵で、この奇妙な現象の正体を暴いてくれ! #上野奇妙な現象 #陸奥三人衆 で情報交換だ!」


 コメント欄は「何が起きてるん?!」「幻覚?」「ノイズ酷くね?」「メイドさんたち、みんな美人!」ネットを介しては幻覚は見えていないようだ…

「絶対お香がヤバイ」「催眠のカホリ」「香具師を呼べ」「誰がどう見てもお香だろ」


 桜親(さくら)が太刀を抜き一歩前に出る。「まあ、この手の攻撃手段はソレだよね…桜新陰流…秘剣!「桜花絢爛(おうか・けんらん)」――!!」

 桜親(さくら)が脇構えから横一文字一閃すると、そこから桜吹雪が立ち上がり周囲に立ち込める香の煙を吹き上げる。


 先ほどまでの天地が捻じれるような幻覚は緩和したが、ユウマ達はそれまでに吸ってしまったお香の効果で足元がおぼつかない。彩花と玲奈は完全に気を失っている。

「マズイ!…実況ができない―」

「心配はそっちかーい!」…とツッコむ玲奈は昏倒中。健太はさすがに彩花を背負って公園の隅まで退避し始めている。


「ユウマ、共鳴者(レゾネーター)としてお前の実況は電波に乗って魔法陣の効果を高めるために必要だ…玲奈は私に任せろ」桜親(さくら)が玲奈を背負って健太を追う。

 ユウマは「わかった!ありがとうサクラさん!…さあ、視聴者さん!盛り上げていこうぜ!」

「おおおおおおおおo×おお◆おお」「萌えるシ×ュ〇◇◆ン!じゃ×か△た燃え!」「上野の専属メイドハ■〇した×」「ムツムツ■◇×△萌え萌え萌え」「ローアン×△キボン☆」…


「何だコリャ?!ノイズがさらに酷くなった…文字も見えない…?!ジャミングされてるのか?!」


 弓の斉射で敵の動きを封じつつも雷道(ライカ)が何かに気づく「マズイわね…この三人、堂々と出てきたからおかしいと思ったけど…さっきの香炉といい、用意周到!…伊達星夜が目立って行動することで上野におびき出されたけどすでに罠が仕掛けてあった…?!このままでは…」

 星荘(ほしな)は星嵐槍を駆使して鬼成実(おに・なるみ)の剛腕の攻撃を凌いでいる。

 巧みに矛先を返して槌の一撃を躱しながら手首を狙い、払う突くを繰り返すが片倉影(かたくら・えい)の苦無の投擲に邪魔されてあと一歩攻めきれない。


 茂庭環(もにわ・たまき)が扇を振るとお香の効果とは別にフォログラムの様な幻覚が放たれる…星荘(ほしな)の槍、雷道(ライカ)の矢が当たればフワっと消えるのだが、視界を邪魔するのは間違いない。桜親(さくら)が居ないと人数的にも不利である…


「おいケンタ!ドローンで何か上から見つけられないのか?!」ユウマは叫ぶが、健太はひいひい言いながら彩花を背負って逃げている最中で「む、無理だぜ!ドローンは飛ばしているけど精密な操作はできない…くそ!彩花…意外に胸あるな」顔はにやけている…


 ■壬生の狼再び


「たのむぜケンタ!トウキョー・ミッドナイトのピンチだぞ!」

「わーってるぜ!電波捕まえられるところまでとりあえず撤退する!」

 その横を玲奈を肩に担いだ桜親(さくら)が駆け抜ける。


 だが!茂庭環(もにわ・たまき)の扇子から放たれた幻影が、ユウマたちの視界を一瞬覆う。幻影が晴れた時、桜親(さくら)の前に、見慣れた新選組のメイド服を着た女性が立ちはだかっていた。


「久しぶりだな、桜親(さくら)。今度こそ、我らの決着をつけようぞ!」


 そこにいたのは、鬼の副長土方美鈴(ひじかた・みすず)。前回の戦いとは異なる、鋭い殺気を放ち、刀を構えている。

「土方…! なぜ貴女がここに…!?」桜親(さくら)が驚きと警戒の表情を浮かべる。


茂庭環(もにわ・たまき)の策略だ。貴様をここで足止めするために…だが、北辰と蝦夷の独立のため敢えてて乗った。どのみちお前とは決着をつけねばならぬ」

 土方美鈴(ひじかた・みすず)は冷静に言い放つ。


「北辰の竜『 隻眼(ドラコ)北斗龍(セプテムステレス)』に助太刀いたす…我が新選組の力、見せてやろう。」


 サクラは、玲奈を下すと覚悟を決めたように刀を構え直す。

「その殺気…これは幻覚ではないな…ならば、受けて立つ! 新宿の【仁】の力、侮るなかれ!」


「ヤバイ!そこかしこでメイドバトルが勃発しているのに実況の手が足りねぇ!」ユウマは何処にフォーカスすべきか悩みながらも決してカメラを手放さない。

「サク△さん×△るな」「土方〇×■イイ」「ホシナさん■けるな」電波悪くも視聴者たち(ウィッチャーズ)は諦めない


 だが、本命はそのどちらでもない中で静かに進行していた。

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