第六十八話:絆の結束強化と戦乙女
犬川星荘が、顔を真っ赤にして絶叫する。
「わたしとの絆の結束は、遊びだったんですね!」
「ちょっ!ソレなんか色々誤解を招くからやめて!」
「否定はしないんですね…でも、だとしたら」
星荘は、まだ納得がいかない顔で、しかし真剣な目でユウマに迫った。
「玲奈さんとの接吻で伏姫の力が覚醒したのなら、私たち八犬士とも、そうした『絆を深める行為』を行えば、より強固な連携ができるのではないでしょうか!」
「えええええ!?」
あまりにストレートすぎる提案に、ユウマは完全にビビり上がった。
「ほ、星荘、あんた何言ってんのよ!そ、そんなこと、ユウマは私としかしちゃダメなんだから!」完全に浮気を許さない奥さんポジションである。
「…論理的な提案です!」
一歩も引かない星荘と、「そういう問題じゃない!」とユウマを庇う玲奈。二人の間で板挟みになったユウマが、完全にパニックに陥っていた、その時だった。
「星荘ちゃんの言う通りだよ!」
明るい声で会話に参戦してきたのは、親友の犬江桜親だった。
「北海道で、ユウマ君の『みんなを護りたい』っていう、すっごく熱い気持ちが流れ込んできたもん!あれが、星荘ちゃんをあんなに強くしたんだよね?だったら、もっともっと仲良くなって、絆を強くすれば、私たちはもっと強くなれる!私も、協力するよ!」
悪気なく、純粋な笑顔でとんでもないことを言う桜親に、ユウマは青ざめる。
「――肯定します」
続いて、基地の隅でノートパソコンを操作していた犬山雷道が、顔も上げずに冷静に分析結果を告げた。
「先の北海道での戦闘における犬川星荘の霊力増幅率は、通常時の340%増。これは、高梨ユウマと佐藤玲奈の『接吻』という事象をトリガーとした、精神的ショックによる共鳴のブレイクスルーと推測される。最も効率よく全戦力の底上げを図るなら、この事象を全八犬士に適応するのが論理的最適解。私も協力に異存はない」
「ええ。歴史的、民俗学的観点からも、理にかなっていますわ」
今度は、おっとりとした口調の犬坂碧毛が、微笑みながら口を開いた。
「古来より、力の源となる存在と、その力を行使する巫女との間には、何らかの『契約儀式』が不可欠でした。現代において、その儀式が『接吻』という形に変化したと考えるのは、ごく自然な流れかと」
「司令官の命令とあらば、私は任務を遂行するまでです」犬飼聖乃が、忠誠の瞳でユウマを見つめる。
「あらあら、司令官様も大変ねぇ。ちゃんと、全員に責任、取ってくれるんでしょ?」犬村凪角が、悪戯っぽくウインクする。
「え、マジ!?キスでパワーアップとか、超アツいじゃん!列とかできてます!?」犬塚華信が、スマホを構えて目を輝かせる。
「わ、わわ、私なんかで、お役に立てるなら…が、頑張ります…!」犬田雫文が、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
次々と、それぞれの立場で「絆を深める行為」に賛同し、詰め寄ってくる八犬士たち。
彼女たちは、共鳴を通じて、ユウマの激情を、勇気を、そして仲間を想う深い愛情を、肌で感じ取っていた。だからこそ、自分もその絆の中心に、もっと近づきたいと願ってしまったのだ。
「ちょ、ちょ、待って、みんな!落ち着いて!」
完全に包囲され、後ずさるユウマ。
「だーかーらー!そういうのは、ちゃんと順序とか、色々あるでしょ!バーゲンセールじゃないんだから!」
玲奈が一人で全員を止めようと奮闘するが、もはやカオスは止められない。
日本の命運を賭けた戦いの合間に訪れた、甘くて、少しだけ切実な恋の修羅場。
共鳴者ユウマの受難は、まだ始まったばかりだった。




