第六十七話:ユウマと玲奈と八犬伝
再び、重い沈黙がミッドナイト基地を支配していた。
先の戦いで倒れた新選組の肢体は、安倍星華たち「星詠司」が丁重に回収していったが、仲間同士で刃を交えたという事実は、八犬士の戦乙女たちとユウマの心に、深い傷跡を残していた。
霊核を破壊された強制武技礼装解除は、戦乙女としては完全に死を迎えたと同義だ。根源となった魂の死だった。
「…八咫烏が、諸外国と連携して引き入れて、この国に混乱を招こうとしている」
玲奈が、ホワイトボードに書き出された情報を整理する。
「蝦夷を襲ったロシア。大阪の豊臣を裏から操った中国と韓国…。そして、その全ての背後にいるのが、八咫烏…」
「けど、なんでだよ…」ユウマの声は、か細く、力がない。「なんで、親父が…?ただの歴史研究家だった親父が、なんで八咫烏の幹部なんてやってるんだ…」
その問いに、答えられる者はいない。「星詠司」、「影刃」も総力を挙げて高梨幸太郎の足取りを調査しているが、彼の失踪後の5年間は、まるで神隠しにでもあったかのように、一切の手がかりがないという。
謎は、それだけではなかった。
「玲奈…君の力もそうだ」
星荘が、静かに玲奈へと視線を向ける。
「確かに、南総里見八犬伝では、伏姫は自らの命と引き換えに八つの宝玉をこの世に遣わし、平和をもたらしたはず。だというのに、なぜ姫の力が、このタイミングで、あなたに宿ったのか…」
「ユウマの共鳴者としてのレベルアップと、玲奈がずっと側にいた影響、そして二人の覚悟が重なった…考えられる理由はいくつかあるけど…」
彩花は、オカルトノートをめくりながら首を捻る。
「でも、やっぱり『どうして今』なのか、っていうのが最大の謎だよね…」
その時、彩花の指が、ノートのあるページでピタリと止まった。
「…今の東京を中心とした日本の文化は、近代化の前に、この関東の地を二百年以上治めた徳川家の歴史を無視することはできないと思うんだ」
唐突な言葉に、一同は顔を上げる。
「一回目の豊臣との戦いの時、豊臣華織が徳川の名を出して挑発したでしょ?あの時、服部さんが、ものすごく逆上したのを覚えてる?まるで、自分の主君を貶されたみたいに」
彩花の視線が、部屋の隅で沈黙を保っていた服部夜刃へと突き刺さる。
「江戸と、徳川家には、何か秘密があるんじゃない?今の私たち、そして玲奈ちゃんの覚醒にも関わる、重大な秘密が」
全員の視線が、夜刃へと集まる。彼女は、困ったように顔を歪めると、やがて、静かに口をつぐんだ。
「…すまない。今はまだ、それを説明することはできない」
その言葉は、肯定でも否定でもなく、しかし彩花の推測が的を射ていることを、何よりも雄弁に物語っていた。
「さっすが、彩花…伊達に歴女でオカルトマニアやってるわけじゃないよな」ユウマは感心したように言う。
「茶化さないで…でも、私感じるの。伏の宝玉を得て、ユウマの共鳴者としての力が流れ込んでくるのと同時に、皆に力を分け与えているのって、これまで守っていたと思っていた東京魔法陣なんだけど…」
玲奈が語るとすかさず安倍星華が口止めをしてきた。
「まて、それに気づいたとて今語るべきではない…」
「どういう…」文句を言おうとする玲奈に
「高梨ユウマ…お前への裏陰陽師「八咫烏」の繋がりは未だ嫌疑が晴れた訳では無い」やはり服部夜刃が鋭く切り替えす。
「それが理由かよ…でも、みんな分かってんだろ?共鳴して繋がっているんだからな!」
ユウマも上がったり下がったりという自分の気持ちの整理が追い付かないが、共鳴者としての自覚は確かに確実に理解しているという感じであった。
「はい、よくわかります…ユウマさんが玲奈さんのことを家族…身内として受け入れることの覚悟をされていることも…」犬塚華信が十手を弾いて共鳴波動を出しつつ爆弾発言を突っ込んでくる。
「えっ?!」
「た、他人で幼馴染の彼女が…か、家族と改めてなるなんて…結婚しかないじゃないですか!」
星荘が絶叫する。「わたしとは遊びだったんですね!」
「ちょっ!ソレなんか色々誤解受けるからやめて」
陰謀渦巻く東京魔法陣界隈の暗い雰囲気の中に、少しだけ差し込む明るい話題…
だが、それは、茶化して誤魔化さないとならない程の予見できない未来への不安の裏返しなのかもしれない。




