第六十五話:崩壊の裏側
「…言い訳はしない…お前の父親に、会った…」
土方美鈴の最後の言葉が、ユウマの脳内で木霊する。彼女の瞳から光が失われ、その場に崩れ落ちた。仲間だったはずの新選組が、まるで操り人形のように倒れていく。
その悲劇的な光景を、紅蓮の龍女・朱麗と月影の舞姫は、丘の上から芝居でも鑑賞するかのように静かに見下ろしていた。
「そいつらを逃がすな!裏にいるのは八咫烏だ!」
我に返った服部夜刃の絶叫が響く。
その声に、八犬士たちは最後の力を振り絞って立ち上がろうとするが、豊臣軍、そして新選組との連戦で、もはや彼女たちの霊力は完全に尽きていた。
「くっ…体が…!」
星荘が膝から崩れ落ちる。連戦による疲労と体の酷使は既に限界だ。
悔しさに涙が滲む。
「伊賀九曜衆、かかれ!」
夜刃の号令一下、これまで影に潜んでいた精鋭忍者部隊「九曜衆」が、一斉に朱麗と舞姫へと襲い掛かる。分身、幻術、奇襲。影の軍団が誇る全ての術が、二人を捕らえるべく殺到する。
だが―――
「では、我々はこれにて」
朱麗は、広げていた扇子を静かに閉じる。ただそれだけの動作で、殺到していた九曜衆の忍術が、まるで陽炎のように掻ききえた。
「ごきげんよう」
月影の舞姫・瑞賢は、その場でくるりと一度、舞うようにターンする。青と白のハンボクがふわりと広がり、幻の月光と花の香りが戦場を満たした。そして、光と香りが消えた時、二人の姿は、跡形もなく消え失せていた。
刃を交えることも、法術をぶつけ合うことさえできずに。
「…報告します。…完全に、気配が消えました」
九曜衆筆頭、百地三奈美が、悔しさを滲ませながら報告する。
唖然とする服部夜刃と安倍星華。次元が違う。これまで戦ってきたどの敵とも、格が、そして余裕が、全く違っていた。
その光景を、ユウマはただ、呆然と見つめていた。
仲間同士が傷つけ合い、倒れていく。その間に、本当の黒幕は、指一本汚すことなく悠々と去っていく。自分の共鳴が、配信が、仲間を救うどころか、この悲劇を引き起こすためだけに利用されたのではないか。
(これしか…なかったのか…?)
守るべき仲間は傷つき、倒すべき敵は嘲笑って消える。
あまりにも無力で、あまりにも残酷な現実に、ユウマだはただ、ひたすらに落ち込んでいくのだった。




