第六十一話:第五戦線:【悌】の慈愛 vs 【狙撃】と【支援】の非情
戦場から少し離れた、高層ビルの屋上。そこに、八犬士たちにとって最大の脅威が潜んでいた。
「…ターゲット、ヒーラーの犬田雫文。補足完了。いつでもいけます」
滝川梓が、ライフルのスコープを覗き込みながら、冷静に告げる。彼女の得物は、モップに偽装された特殊狙撃銃。その銃口は、遥か彼方で味方の支援に徹する犬田雫文の心臓を、寸分の狂いもなく捉えていた。
「了解しました。梓さんの射線が通るよう、わたくしが援護しますわ」
その隣で、丹羽撫子が優雅に一礼する。彼女は、あらゆる業務をこなす万能メイド。その支援能力は、戦場において絶対的なアドバンテージを生み出す。
「では、始めましょうか」
ヒュッ!
風切り音さえ置き去りにする、不可視の弾丸が放たれる。それは、第一戦線で柴田佳月と激闘を繰り広げる星荘と桜親に向けた、雫文の治癒術を妨害するための牽制射撃だった。
「…っ!」
雫文は、背筋を凍らせるような殺気を感じ、とっさに身を翻す。彼女がいた場所のアスファルトが、数瞬遅れて弾け飛んだ。
(危なかった…!それに、今の射撃、私を狙ったものじゃない。他の皆への回復を、的確に邪魔してきてる…!)
雫文の役割は、ただ傷を癒すだけではない。戦場全体に治癒と防御の結界を展開し、仲間たちが全力を出せる環境を維持すること。敵の狙いは、その生命線を断ち切ることにあった。
「撫子さん、敵ヒーラーの動きが止まりました。次弾、装填します」
「ええ。彼女が動けぬよう、わたくしから『贈り物』を差し上げましょう。――『支援術式・重圧結界』」
撫子の指先から放たれた霊力が、雫文の周囲に重力結界を展開する。動きが鈍り、杖を振るう速度が著しく低下した。そこへ、滝川梓の非情な一撃が再び迫る。
絶体絶命。だが、雫文の瞳に、絶望の色はなかった。彼女の胸に輝くのは、【悌】の宝玉。兄弟姉妹を想う、慈愛の心。
(私は、一人じゃない…!)
彼女は、重圧の中でゆっくりと、しかし確実に杖を構える。
「私の兄弟は、私が護る…!桜風杖・守護方陣『天蓋の慈母』!」
雫文の杖から、桜の花びらを伴った光のドームが展開される。梓の狙撃弾は、その光の天蓋に触れた瞬間、勢いを失い、無力化された。それどころか、その結界は戦場全体へと広がり、傷ついた仲間たちの体力を、わずかずつだが回復させていく。
「…なんて防御力。それに、あの重圧結界の中で、これだけの広範囲術を…!?」
狙撃手・梓の顔に、初めて驚愕の色が浮かぶ。
「彼女の霊力の源は、自己犠牲の精神…仲間を想う心ですわ。こちらの攻撃が激しくなればなるほど、彼女の守りもまた、強固になる。厄介ですわね」
万能メイド・撫子は冷静に分析するが、その表情は険しい。
八犬士の生命線である彼女を打ち破らない限り、勝利はない。しかし、彼女を攻めれば攻めるほど、その守りは鉄壁と化していく。
第五戦線は、派手な打ち合いこそないものの、戦局の全てを支配する、最も静かで、最も過酷な我慢比べとなっていた。雫文の慈愛が尽きるのが先か、狙撃手の集中力が途切れるのが先か。その答えは、まだ誰にも分からなかった。
「レイナさん、狙撃を受けています…雷道さんの援護お願い出来ますか?」
「まって…了解!雷道ちゃん!行けますか?」
「大丈夫!任せて!!」
玲奈が彩花の知識と共に、揺さぶりをかける「滝川梓!滝川家は織田の家臣としては有能だったが、豊臣の味方にはならなかった!むしろ敵対していた…主君を失って血迷ったのか?!それとも線の腕も受けたか?!」
「な…!滝川家は…嗚呼、柴田家と共にその後を歩んだのだ…佳月は倒れた…だが未だ諦めるわけには
…!」歴史的背景を考えれば、織田焔と共にあった野望を失った梓…戦線で闘う柴田佳月が落ちることで、戦意を失っていた。
「ま、待て梓!諦めるのはまだ早い」撫子が焦るが、元々豊臣側になびいていた丹羽家の判断に対して強い抑止力は無かった。
「雷鳴弓・聖なるコード:浄化の矢」雷道の必殺の光の矢の雨を受けて丹羽撫子も行動不能に陥った。




