第五十九話:第三戦線:【武】の猛攻 vs 【礼】と【信】の守り
第二戦線の静寂とは対照的に、第三戦線は絶え間ない爆音と閃光が支配する、最も激しい戦場と化していた。
「いっけえええ!うちらの武、見せたるわ!『奥義・虎退治・改』!」
「派手に行くで!『雷神降臨・賤ヶ岳七閃』!」
熱血の加藤清子が白虎のオーラを纏って槍を突き出せば、勝気な福島正乃が七匹の雷獣を召喚してそれに続く。炎と雷の化身となった二人の猛攻は、あらゆるものを粉砕する圧倒的な破壊力を持っていた。普通の戦乙女であれば、その勢いに呑まれ、一瞬で戦闘不能に陥っていただろう。
だが、彼女たちの前に立つ二人は、八犬士の中でも随一の「受け」の技に長けた守りの名手だった。
「――凪波扇・壱ノ型『水天の壁』」
「――蓮華薙・守ノ舞『無想蓮華』」
冷静沈着な犬村凪角の鉄扇が円を描くと、大気中の水分が凝縮し、巨大な水の壁が出現する。福島の雷獣はその壁に阻まれ、激しい水蒸気を上げてその威力を半減させる。
その背後で、犬坂碧毛の薙刀が、まるで舞うように流麗な軌道を描く。加藤の虎を宿した剛槍の突きを、最小限の動きで受け流し、その力をいなして大地へと逃がしていく。
「ちょこまかと!」
「じれったいわね!」
猛攻を防がれ、加藤と福島は苛立ちを募らせる。
だが、二人の守りは鉄壁だった。碧毛が薙刀の長いリーチで間合いを支配し、凪角が鉄扇で風と水の結界を張る。
決して前に出すぎず、しかし確実に敵の攻撃を捌き切る。それは、【礼】の宝玉がもたらす秩序と、【信】の宝玉がもたらす揺るぎない信頼関係が生み出した、完璧な連携防御だった。
玲奈から二人に指示が飛ぶ「加藤清正は秀吉の忠臣だったけど、関ヶ原は光成と肩を並べず東軍として徳川に付いた…だけど、豊臣家の存続に最後まで献身した…福島正則は石田三成の西軍についてそこでの連携は無かった!彼女の武は優れているけど、完ぺきではないわ!連携に吐かなずスキが出来る!」
「関ヶ原で袂を分けた理由は?!」
「な…?!」
(…今です!)
攻め疲れ、一瞬だけ二人の呼吸が乱れた好機を、碧毛は見逃さなかった。
「凪角さん!」
「心得ています!」
凪角の鉄扇が、今度は守りではなく、攻撃のために閃く。
「凪波扇・弐ノ型『逆巻く潮』!」
加藤と福島の足元から、渦を巻く激流が発生し、二人の体勢を強制的に崩す。
「しまっ…!」
体勢を立て直そうとする二人の頭上から、静かな、しかし凛とした碧毛の声が響いた。凪角が生み出した渦を足場に、高く跳躍した彼女が、月を背に薙刀を振りかぶっていた。
「楊神流薙刀術・奥伝――『蓮華之太刀』!」
それは、咲き誇る蓮の花のように、無数の斬撃が同時に放たれる必殺の一閃。加藤と福島は、そのあまりに華麗で、あまりに無慈悲な反撃の前に、なすすべもなかった。
加藤清子、福島正乃ともに武技礼装を破壊され、肢体をさらして散った。




