第五十六話:決戦の火蓋
「我ら八犬士の絆、そして、私たちを信じてくれるみんなの想い!それこそが、この東京を守る力!」
星荘の叫びに、八犬士たちのオーラが一斉に燃え上がる。
だが、豊臣華織は不敵な笑みを崩さない。
「絆、ねぇ。ええやん、青春やんか。けどな、そんなもんより、もっと確かなもんがあるんやで」
彼女が扇子を振るうと、その背後に控える紅蓮の龍女・朱麗の隣に、見知った顔が現れた。
「なっ…!お前たちは…!」
ユウマが絶叫する。そこに立っていたのは、かつて織田焔を裏切った
明智光、そして柴田佳月、丹羽撫子、滝川梓の四人だった 。
※ただし、最後まで焔への忠義を貫いた森蘭丸の姿はない 。
「野心ある者が、より大きな野心を持つ者の下に集うんは、世の常やろ?」
華織は高らかに宣言する。
「うちの野望は、この国盗りだけに留まらへん。この日本を足掛かりに、アジア全域を支配する。その中心に立つんは、もちろんこの大阪や!」
そのあまりに壮大な構想に、服部夜刃が冷たく言い放つ。
「…その時、日本が中心であり続ける保証は、どこにもないがな」
安倍星華も頷く。「大陸の強国を、本当に御せるとでも?」
「器が小さいわぁ」
華織は二人を嘲笑う。
だが、その時、これまでユウマの半歩後ろにいた玲奈が、静かに一歩前に出た。彼女の瞳には、【伏】の宝玉の母なる光が宿っている。
「…大陸列強を自分の力と過信した、愚かな太閤は」
玲奈の声は静かだったが、戦場の誰の耳にも、鋭く突き刺さった。
「将軍を名乗らず、その責務を未来へ繋ぐこともせず、ただ己の代の栄華を夢見たがゆえに、徳川に滅ぼされた。あなたも、その過ちを繰り返すというの?」
「…だまれや、小娘がぁ!」
玲奈の冷徹な歴史評価に、豊臣華織の霊力が怒りで爆発的に膨れ上がった。彼女は扇子を玲奈に突きつけ、これまでとは違う、本気の熱を込めて叫んだ。
「よう聞いとき、そこの巫女もどき!あんた、うちの初代のこと、なんも、なーんも分かっとらへんな!」
華織の熱弁が、戦場に響き渡る。
「信長公は夢半ばで倒れ、徳川の狸はその後片付けしただけや。この戦国乱世を、ホンマの意味で、ゼロから戦い抜いて、初めて日本を一つにまとめあげたんが、うちの秀吉公やっちゅーねん! この国で、それを成し遂げたんは、後にも先にもあの方、ただ一人や!」
彼女は胸を張り、誇らしげに続ける。
「生まれやない、家柄やない!ただ己の才覚一つで、足軽から天下人のてっぺんまで駆け上がったんや!これ以上の立身出世が、この国の二千六百年の歴史にあったか!?ないやろ!民の気持ちが分かるからこそ、民のための国が作れたんや!」
「太閤検地に刀狩り…あんたらはそれを力による支配や言うけど、ちゃうわ!あれこそが、この国を最も効率よく、豊かに治めるための大改革やったんや!経済を回し、民をそれぞれの場所で活かし、文化を花開かせた!それこそが、ほんまの『統治』っちゅーもんやろが!」
華織の言葉は、単なる怒りではない。それは、彼女が信じる絶対の正義、揺るぎない信念のほとばしりだった。
「あんたらが崇める古臭いだけの武士道やない。現実を見て、誰よりも早く、誰よりも鮮やかに結果を出す!うちの初代こそ、この日本で唯一無二、最も優秀な天下人やったんや!その魂を継ぐうちが、この国を、いや、アジアの全てを背負うんは、当たり前やろがい!」
鼻息荒く興奮してまくしたてる華織の演説は、その信念と共にその場を一瞬で黙らせる。
その後ろで朱麗はフと笑い後ろに下がって姿を消した。
「全員、かかれぃ!あの小娘を、八犬士ごと叩き潰したれ!」
華織の絶叫を合図に、裏切りの元・織田家臣団と、豊臣が誇る猛将メイドたちが、一斉に八犬士へと襲い掛かった。
激しい戦闘の火蓋が切られようとする中、ユウマのインカムに星華の冷静な、しかし非情な声が響く。
『ユウマ、分かっているな。今回は追い返すだけでは済まさんぞ。裏で糸を引く紅蓮の龍女、そしてその先にいる黒幕まで引きずり出す。…殲滅が、今回の任務だ』
ゴクリと、ユウマは息をのんだ。だが、彼の瞳に迷いはなかった。
「ああ、分かってる!」
彼はカメラに向き直り、その向こうにいる数十万の視聴者に、魂を込めて叫んだ。
「この戦いは、ただ東京を守るだけの戦いじゃない!今後の俺たちの、いや、この国そのものの行く末を決める、最後の戦いだ!視聴者のみんなも、ありったけの力を貸してくれ!」
ユウマの共鳴が、玲奈の増幅を経て、八色の光となって戦乙女たちに降り注ぐ。日本の未来を賭けた、総力戦の火蓋が、今、切られた。




