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バトル・メイド・サーヴァントII~大東京八宝玉魔法陣編  作者: 黒船雷光


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第五十三話:北の大地の暗躍する鴉

 東京がメディアミックス戦略の喧騒に包まれている頃、日本の霊的秩序のさらに深い闇では、影が静かに動いていた。


 場所は不明。古びた神社の地下深くに設けられた、最新鋭の設備と古来の呪術が融合した八咫烏の拠点。無数のモニターが壁を埋め尽くし、世界中の霊脈の動きや情報の流れを映し出している。その中央で、一人の男が静かにモニターを見つめていた。高梨幸太郎――ユウマの父親である。


 彼の前に、二人の戦乙女(バトル・メイデン)が恭しく膝をついていた。北海道での戦いに敗れ、満身創痍のラスプーチナとアナスタシアだ。


「…申し訳ありません、幸太郎様。我らの力及ばず…」

 ラスプーチナが悔しげに報告する。だが、幸太郎の声は穏やかだった。


「いや、君たちの働きは十分だった。高梨ユウマの共鳴が、あれほどまでに増幅されるとは…『家族の再認識』という予測外の触媒が、我々の計算を上回ったに過ぎん。貴重なデータが取れた」


 彼は二人に手を差し伸べる。「今は傷を癒すがいい。氷帝の悲願は、まだ潰えてはいない。君たちには、いずれ再び舞ってもらう」


 ラスプーチナとアナスタシアが下がると、幸太郎は部屋の奥にある、霊的結界が張られた一室へと視線を移した。そこには、武技礼装(メイド・コス)を解かれ、私服姿で座る土方美鈴、近藤花蓮、沖田雪菜、斎藤葵の姿があった。彼女たちは捕虜ではなく、客人として扱われているようだった。


「…どういうつもりだ、高梨幸太郎」

 土方は、鋭い瞳で幸太郎を睨みつける。

「我らは蝦夷共和国(エゾレガリア)のために戦っていた。貴様らは、我らを救助したと言ったが、これは監禁ではないのか」


「監禁ではない。保護だ」

 幸太郎は静かに答えた。「君たちは、あのままでは北の地で無駄死にしていた。君たちの主君である北条氷華は、君たちを見捨て、東京の共鳴者に助けを求めた。君たちの忠義は、踏みにじられたのだ」


「なっ…!」

 その言葉に、新選組の面々は息をのむ。


「今の日本は、腐敗している。君たちのような本物の『誠』を持つ武人が、その力を正しく振るう場所はない。だが、我ら【八咫烏(やたがらす)】が新たな天を戴く時、君たちの剣は、真にこの国のために振るわれることになるだろう。今は、その時を待てばいい」


 幸太郎の言葉は、悪の囁きというより、歪んだ救国の理念に満ちていた。彼は力でねじ伏せるのではなく、彼女たちの忠義の拠り所を、静かにすり替えようとしていた。


 一同が退出した後、幸太郎は再び中央のモニターに向き直った。そこに映し出されていたのは、星荘(ほしな)桜親(さくら)が笑顔で視聴者の悩み相談に答える、ユウマのチャンネルの録画映像だった。


 彼は、画面の中の息子に、まるで語りかけるように、静かに呟いた。


「それでいい、悠真。メディアを使い、人々の心を一つに束ねろ。…散り散りの願いでは、世界は変えられん。だが、一つに集められた強大な想いは、それを導く、強固な『器』を必要とする。それこそが、父の役目だ」


 モニターに映る息子の活躍を見つめる高梨幸太郎の背後に、すっと影が寄り添った。音も気配もなく現れたその人物は、赤と金を基調とした絢爛なチャイナドレスに身を包んだ、怜悧な美貌の女性だった。龍の角を模した精緻な髪飾りが、彼女の長い黒髪を留めている。


「幸太郎様。ロシアの駒は、思ったよりも脆かったようですわね」


 その声は、涼やかな鈴の音のようでありながら、戦場の全てを見通す軍師の深みを持っていた。彼女こそ、中国古来の思想と最新技術を操る戦乙女、「紅蓮(ぐれん)龍女(りゅうじょ)(ホンリエン・ロンニュイ)」。三国時代の天才軍師・諸葛孔明の魂を現代に継ぐ者。


 幸太郎は、モニターから目を離さずに答える。

「ああ、だが彼女たちも役割は果たした。息子の共鳴の、新たなトリガーを特定できたのだからな」


「『絆』、ですわね…」


 龍女は幸太郎の隣に立ち、細い指でそっと彼の肩に触れる。その仕草は、絶対的な信頼と、それ以上の親密さを感じさせた。


「古来より、この国の者はその曖昧な力に固執する。ですが、それこそがあの東京魔法陣…いえ、『古の盟約』を破りし、忌まわしき結界の最大の弱点」


 彼女は、手に持った扇子を静かに開く。そこには、龍が舞う水墨画が描かれていた。

「高梨悠真の心が折れた時、東京の守りもまた、砂上の楼閣の如く崩れ去りましょう」


 幸太郎は、初めて彼女の方へと顔を向け、穏やかに微笑んだ。

「全ては、お前の描く策の通りに進んでいるよ、朱麗しゅれい


「ええ」

 朱麗と呼ばれた龍女は、幸太郎の瞳をうっとりと見つめ返した。

「次の策は、既に。この扇が示す先に、彼の『絆』では決して届かぬ絶望をご用意してございますわ」


 二人の視線が、再びモニターの中のユウマへと注がれる。父と、その傍らに寄り添う天才軍師。最強にして最悪の敵が、今、静かに次の一手を指し示そうとしていた。

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