第五十一話:共鳴者ユウマの覚醒
ラスプーチナとアナスタシア、「氷帝の幽姫(レジャナーヤ・プリズラーチナヤ・プリンツェッサ)」との激戦は、辛うじて日本の勝利に終わった。
今回のロシア勢の戦術は、攻撃のラスプーチナ、防御のアナスタシアという完璧な布陣に加え、前回同様に中華ネットを利用したゲリラ的な配信で視聴者の「気」を力に変えるものであった。だが、彼女たちには大きな誤算があった。
それは、ユウマが率いる「東京ミッドナイト」チャンネルの、そしてそれに呼応した視聴者たちの「熱量」である。「伊達さんのエロコス」や「ロシア美少女」といった刹那的な欲望を煽る中華チャンネルに対し、ユウマは魂を込めて叫び続けた。「俺たち日本を、俺たちの手で守りたいんだ!」と。その純粋でまっすぐな想いが、国境を越えて多くの人々の心を打ち、結果として中華ネットの視聴者数を上回り、共鳴の力でラスプーチナたちのそれを圧倒したのだ。
しかし、勝利の代償は大きかった。
リーダーの北条氷華を始めとする蝦夷共和国の戦乙女たちは、後に駆け付けた安倍星華たち「星詠司」の捜索隊によって救助されたものの、その霊核は深く傷つき、戦線への復帰は絶望的な状況であった。
そして、土方美鈴以下、新選組のメンバーたちは、その後の徹底的な捜索でも発見されず、消息不明のままとなった。北の大地を守るという強い意志を掲げた彼女たちの行方は、誰にも分からなかった。
北海道での激戦を終え、帰還した一行を待っていたのは、安堵ではなく、次なる問いだった。一同が臨時で設けた作戦室で疲れた体を休めていると、服部夜刃が音もなくユウマの背後に立ち、その肩を掴んだ。
「高梨ユウマ。説明しろ」
その声は、怒りではなく、純粋な探求心と、わずかな畏怖に満ちていた。
「北海道での貴様の共鳴…前回の渋谷とは比較にならんほどの増幅率だった。一体何があった?…あの……幼馴染との接吻は、それほどまでに効果があったのか?」
夜刃のあまりに率直な問いに、ユウマは言葉を詰まらせる。そして、玲奈とのキスを接吻と言い換えて恥ずかしそうに聞く夜刃に少し萌えた。
その横で、お茶を淹れていた犬川星荘が、聞こえるか聞こえないかの声でぽつりと呟いた。
「…私だって、少し羨ましい、かも」
「え?なんか言った?」ユウマは本当に何も聞き得てない感じで聞き返す。
「何でもありません!…いきなり休憩中に召喚されて連れてかれた私にも感謝してほしいです~」
「その節は御免…呼び出すときは気を付けるよ…」
「だ・か・ら…そういうこと言ってるんじゃないってば」
「そうだ、その件も聞きたい…法術が使えるはずもない素人のお前がなぜ星荘を召喚できたのだ?あのような高度な法術は、星詠司でも使える人間が何人いるのか…」
「その件も含めてちゃんと話すよ…」
ユウマは、二人の視線から逃れるように、自分の手のひらを見つめながら、途切れ途切れに語り始めた。
「玲奈は…俺にとって、ずっと家族だったんだ。当たり前に隣にいて、何でも話せる、兄妹みたいな…。でも、違った。彼女にとって、俺はそうじゃなかった…。もちろん、それを知って、嬉しいって思った部分もあった。けど、それ以上に、こんなに長く一緒に居て、何も通じてないことがあったんだっていうのが、ショックで…」
ユウマの脳裏に、玲奈の必死な表情と、唇の感触が蘇る。
「彼女とのキスは、その決定的な違いを、無理やり俺に思い知らせるためのものだったんだと思う。まあ、俺がバカで、鈍感だったからなんだけど…。それに、親父が秘密結社にいるとか、もう意味が分かんないことばっかりで…」
彼は、一度言葉を切り、深く息を吸った。
「一番ショックだったのは、俺が『家族』だって思ってる人間たちのことさえ、俺は実は何も分かってなかったんだってことだ。理解し合うなんて、無理だったんじゃないかって…。でも…」
ユウマは、顔を上げた。その瞳には、迷いを振り切ったような、強い光が宿っていた。
「でも、それでも、彼女は俺の『家族』だったんだ。分かってなくても、守らなきゃいけない、たった一人の。そう思ったら、なんか、吹っ切れたんだ」
「なんだその惚気話は?私が利きたいことはそうじゃないぞユウマ…誤魔化すな」夜刃がやや怒りながら詰め寄る。
「え?俺の中では一大事で認識の広がりとか理解の度合いとか、そういうものが革命的に変化した瞬間だったんだぜ?」
「つまり、何だ?人の想いは人それぞれにあり、互いに認識しあっていても考えていることは違うという事に気づいたってことが、今回の覚醒に繋がったっていう事なのか?」安倍星華が乱入して結論に結び付けようとする。
「うーん…そういうのもあるんだけど…」
「そこからは私が説明します」玲奈がそこに現れる。
「お、元気になったのか?」と聞くユウマに「おかげさまで」と返す玲奈が奥の部屋から出てきて言う。
「ユウマとのキスで私、ユウマと『共鳴』したの…そしたら…」シャツのボタンを外し始める
「え?ここでユウマと既成事実を?」星荘がはわはわしだす。
「違います…コレです」少し控えめだけどきれいな形のブラに包まれた乳房の上、鎖骨よりすこししたの彼女の胸の中央に水晶が光っている。
中に【伏】の文字が浮かぶ。
「何だこれは…八犬士と同じような宝玉の契約?!しかし9つめなど…」驚く夜刃。
「これはたぶん伏姫…つまり、八犬士の母としての支配の宝玉」星華は理解したようにつぶやく。
歴史的にそのような事例は聞かないが、彼女が宝玉の中央珠としての力を持つなら、彼女と最も近く共鳴するユウマと共に東京魔法陣の力をどこででも使えるという事に他ならない…
「ユウマとキスで私、自分の立場と考えとユウマとの関係を見つめなおせた。そしたらこれが現れた」
「玲奈の共鳴で、俺は自己肯定感と多様性の公定をすることを自覚して…戦乙女との絆がこれまでとは比較にならないくらい強くなったことを自覚できた」
「未完成の人間が覚醒するとかくも変わるものなのか…?ユウマの父もこれが分かっていたから敢えてあのような突然の告白を?…いや、まだわからん断定する情報が足りない」星華は事態の把握と整理が追い付いていないのと、ここからいったいどう変化するのかも真剣に検討をするが、読めないことばかりであった。




