第五話:秋葉原電脳戦決着
■ 暴走する電脳空間と共鳴者の力
織田焔が炎の刀を振るう。炎魔が火縄銃を撃つ。
灼熱の炎が秋葉原の街を包み込み、電光掲示板や自動販売機が爆発する。
星荘の槍が星光を放ち、雷道の弓から放たれる雷光が炎を打ち消す。
しかし、織田焔の攻撃は苛烈で遠近で隙が無い。星荘と雷道は押され気味だ。
織田焔が不敵に笑う。「炎魔銃! 電脳空間を焼き尽くせ! この街の情報を混乱させ、【智】の宝玉を機能不全に陥れるのじゃ!」
ユウマは配信のカメラを向けつつ「萌とか言ってる場合じゃなかったぜ!焔つえぇ」とピンチを煽る。
「口調が年寄り臭いの鉄板」「もっと近寄れハアハア」「モレは尾張に引っ越す」「ライカ推し!」「ホシナ踏ん張れ」
織田焔の宣言と共に、炎魔たちは空間に広がり、更に奥行き三列で一斉に動き出した。まるで火縄銃がドローンのように飛来し焔を中心に広がり銃口を四方に向ける。
炎魔火縄銃からは、灼熱の弾丸が飛び出す。それはただの物理的な弾丸ではなく、電脳世界を焼き尽くすウィルスを内包していた。
「三千種子島千発三連一斉整射!」
織田焔の号令とともに、無数の炎の弾丸が秋葉原のネットワークに撃ち込まれる。街の至る所に設置された大型ディスプレイは赤と黒のノイズに侵食され、まるで巨大な炎に包まれているかのように揺らめいた。商店のレジシステムが停止し、通信網は寸断され、秋葉原全体がデジタルデッドゾーンと化していく。
「ユウマ! 電脳世界が焼き尽くされようとしている! 智の宝玉が危険だ!」雷道が焦燥の声を上げる。彼女の雷鳴弓から放たれる解析の矢も、次々と現れる炎のウィルスに阻まれ、有効打を与えられない。
ユウマの胸の紋章が激しく光を放ち、脳裏に炎に包まれるラヂオ会館のビジョンが浮かび上がる。ラヂオ会館こそ、【智】の宝玉が鎮座する場所だ。「くそっ!このままじゃ、秋葉原の情報が全部消えちまう!」
ユウマは意を決し、スマホを構えて叫んだ。「視聴者さん達! ユウマのミッドナイト・トーキョー、絶体絶命のピンチだ! 織田焔の電脳攻撃で、秋葉原のネットが落ちてきてる! みんなの力が必要だ! ホワイトハッカーの視聴者さん! セキュリティのプロの視聴者さん! 今こそ、その知恵と技術を貸してくれ! 逆ハッキングだ! この炎のウィルスを止めてくれ! 任せろって人、コメントくれ! #アキバを救え #逆ハッキング協力 で拡散だ!」
コメント欄が瞬く間に爆発した。「任せろ!」「俺はセキュリティエンジニアだ!」「闇のハッカー参上!」「ユウマのために一肌脱ぐぜ!」「みんなでアキバを守ろう!」
数えきれないほどの「任せろ」コメントが流れ、視聴者数は瞬く間に5万人を突破。世界中のホワイトハッカーやセキュリティ専門家、そして秋葉原を愛する無数のオタクたちが、画面の向こうでキーボードを叩き始めた。彼らの放つデータパケットが、まるで光の奔流となって秋葉原の電脳空間へと流れ込んでいく。
「なっ…何事だ!?」織田焔が驚愕の声を上げる。彼女の炎魔が放つ炎のウィルスが、突如として別のデータによって上書きされ、消滅していくではないか。炎で赤く染まっていたディスプレイは、次第に青や緑のコードに塗り替えられ、正常な表示を取り戻していく。
「まさか…民衆の知恵が、ここまでとは…!」雷道が信じられないものを見るように呟く。ユウマの呼びかけに応えた無数の「知」が、智の宝玉と共鳴し、織田焔の電脳攻撃を無効化していったのだ。
健太のドローンも再び安定した映像を映し出す。「ユウマ! ネットワーク、復旧したぜ! 視聴者さんの力、マジパネェっす!」
雷道が頷き、弓を構え直す。「織田焔、お前の電脳攻撃、最期はこの雷道が阻止する! 雷鳴弓・聖なるコード:浄化の矢!」
雷道の弓から放たれた矢が、残った赤い炎のウィルスを貫き、電脳空間の残ったノイズ情報が全て正常に回復する。
更に雷光を纏った矢が織田焔を襲い、彼女を後退させる。
後方から飛び出した星荘が槍の星光を放ち、必殺技を放つ。
「天より来たれ、断罪の閃光――! 滅せよ、星の名のもとに!」
後退した焔たちに更に無数の光の矢が降り注ぎ、轟音と共に完全決着。ユウマの配信が視聴者の「気」と「知恵」を結界に注ぎ、智の宝玉が完全に復活する。
織田焔は爆心地にてあられもない姿で横たわっている。
「う、うわーコレは配信できないBANされる!」カメラを慌てて下げるユウマ。
「何だよ良いところだろ見せろ」「ホムラさんハアハア」「完全決着乙」「メイド服燃え萌」
コメント欄は荒れているが一旦画面オフ。
「焔さん大丈夫なんか?一体これからどうすんの?」
「ふおおお、焔タソお持ち帰り…しちゃダメだよね」
「やめとけケンタ…家燃やされんぞ」
「もーやだ…肌が荒れるわ…」
「泣き言言うなレイナ」
「織田焔の躰は我らが預かる」
安倍星華がまたしても唐突に現れて配下の巫女たちが手早く回収していく。
「死んで…ないよね?」ユウマは少し不安になって星荘に聞く
「まあ、武技礼装が破壊されたからな…暫くは何もできまいが死んではいない」
「よかった…じゃあ配信可能だな!」
「ユウマ…おまえタフだな」
ラヂオ会館の宝玉は守られ、秋葉原の街に再びネオンの光が戻る。
ユウマは息を整え、カメラに向かって深々と頭を下げた。「みんな! ありがとう! みんなのおかげで、秋葉原は救われた! 東京魔法陣は、みんなの力がなきゃ守れない! 本当にありがとう!」
コメント欄は感謝と興奮の嵐。「ユウマ最高!」「感動した!」「アキバを守ったぞ!」「俺たちも戦乙女の一員だ!」
安堵の息を吐く雷道が、ユウマに向かって微笑む。「高梨悠真…君の共鳴の力は、私が想像していた以上だ。民衆の知恵が、これほど強大な力になるとは…」
雷道は弓を収めて立ち去り際「ユウマ、ありがとう。君の配信がなければ、【智】の宝玉は危なかった。今回は敵を倒し切れたので良かったよ…だが、敵はまだいる。努々油断するなよ…」
■束の間の平穏
ミッドナイト基地に戻ったユウマたちは、興奮と疲労で騒然としていた。配信は6万ビューを突破し、「#智の戦乙女」が世界トレンド1位を獲得した。
玲奈が呆れた顔で言う。「ユウマ、今度は電脳街で火事騒ぎ起こしといて、まだ配信続ける気?」
「結界による人払いされているから基本的には安全だよ」
「私が心配しているのはそこじゃない!」
「何怒ってんだよ?」と、玲奈の心配を意にも介さない。
健太はドローン映像をチェックしながら興奮気味に報告する。
「あの炎と雷、センサーぶっ壊れそうだったけど でも、俺様の最新機材で全部撮ったぜ!」
彩花はノートに書き込みながら、さらに目を輝かせる。
「織田信長の化身! 第六天布武! 天下布武の野望とか、マジで歴史のロマンが止まらない! でも、草薙剣が狙われてるなんて…!火縄銃の使い魔とか領域展開燃え!」
星荘は紅茶を飲みながら、ユウマに言う。「ユウマ、お前の共鳴が宝玉を救った。視聴者の知恵と行動が結界の力になったよ。今回はとにかく有効だったな…でも、次はもっと危険になる。覚悟しておけ。」
その時、どこからともなく安倍星華が現れ、冷たい声で忠告する。
「高梨、よくやった。今回はお前の共鳴者としての力が最大限に発揮されて、一つの脅威が排除されたことは喜ばしい。この報はお前の動画配信も通じて全国に行き渡った…暫くは大きな動きは無くなるかもしれん…とはいえ、油断するな」
ユウマはニヤリと笑う。「次は分かんねえか!…でもよ視聴者さん達、準備しろよ! タレコミ上等!東京魔法陣、俺らが守るぜ!」
玲奈はそれを見て、深くため息をついた。「ホント、この人たち…」
■参考文献
荒俣宏「帝都物語」
加門 七海「大江戸魔方陣」「東京魔方陣」