第四十八話:蝦夷共和国…北海道陥落
「親父は、大学で考古学や民俗学を研究していました。いつも研究室に籠って、古い本に埋もれてて…」
ユウマが父との思い出を語り、審問官が「その手紙は、今もあるか?」と核心に迫った、その瞬間だった。
【バァン!】
尋問室の重い扉が、凄まじい勢いで開け放たれた。そこに立っていたのは、血相を変えた服部夜刃だった。彼女の普段からの冷静さは完全に消え失せ、その顔には焦りと絶望の色が浮かんでいる。
「報告します!蝦夷共和国壊滅!」
夜刃の切羽詰まった声が、部屋に響き渡る。
「つい先ほど、『氷帝の幽姫』ラスプーチナが再び北海道に襲来!北条氷華は完全敗北し、戦乙女としての武技礼装は破壊されてしまいました。新選組は土方美鈴以下、全員が消息不明との報せです!」
「なんだと!?」
審問官も安倍星華も、驚愕に目を見開く。
「まずいぞ、北海道が落ちた!霊的守護が解けた今、ロシア軍は表からも本格的に攻め込んでくるぞ…!」星華が珍しく感情を表に出す。
すかさず夜刃は補足する「今は、前回同盟を組んだ隻眼北斗龍の伊達たちが、生存者の救助と敵への対抗のために向かっている。が…間に合ったとしていつまで持つか…」
夜刃は、呆然とするユウマへと視線を突き刺した。
「高梨ユウマ!お前の共鳴が、完全に途切れているぞ!彼女たち戦乙女は、自力だけでは地の利もない敵の本拠地で戦うことになる!それは絶望的だぞ!」
「審問会は即時中断だ!やむを得ん…!」
審問官が叫ぶ。だが、当のユウマは、その場で立ち尽くしていた。父親の件で心は千々に乱れ、共鳴者としての役目を果たせる状態では到底なかった。
「とにかく、ミッドナイト基地にもどるぞ!」安倍星華が問答無用でユウマを連れ出す。
少し前まですべての機関がおだてて共鳴者としての能力を期待していて支援もしてくれた。
しかし、手のひらを返して犯罪者のような扱いを受けて、拷問こそされなかったが審問会という場に急に晒されて、これまでのジェットコースターの様な戦乙女との関わり合い、変化した自身の環境と行動に求められる責任…様々なプレッシャーが何もかも、突然牙を自分にも向けてくるという立場の危うさと重さに今更ながら気づいたという…その状況が、ユウマの思考を途絶えさせていた。
基地に戻り、日常の風景を取り戻しても、そこは元々がユウマ達の戦場でもあった。
たのしく自分たちのコンテンツを無責任に配信し、ネタを時にはでっち上げてゲラゲラ笑いがながら徹夜で収録したりしていた。
それが、突然国営放送並みの重要度を持つコンテンツ配信となり、ユウマだけでなく玲奈や健太、彩花が手を尽くしてここまで支えてきた。世界の秘密を握る組織としては素人が過ぎるメンバーだったが、星詠司や影刃の下支えもあって、奮闘してきて無茶もしてきたが、使命感と自身の前向きな意思で進んで行っていた。
だが、今回の一件は、ずっと気にしていた父親の行方があらぬ形で関与し、よりによって国家転覆を狙う裏組織の最重要人物として登場し…と言うのは酷な話で合った。
北海道の一件は、前回の戦いで視野を世界に向ける必要まで出てきた。
最初は軽い気持ちで、協力したいと蝦夷共和国のメンバーとも絆を結んだ。自分が救世主になったような高揚感があった。
しかし、今はその共鳴に、彼女たちの反応はない…いや、今や誰とも共鳴できていないのではないかと思うくらい無力感に支配されていた。
「オレのせいなのか…」
その様子に、これまで黙って成り行きを見守っていた玲奈が、ついに堪忍袋の緒を切った。
「ユウマ!」
彼女はユウマの胸ぐらを掴み、涙を浮かべながら檄を飛ばす。
「あんたのお父さんのことも大事だよ!でも、今は日本の国土が、北海道がなくなっちゃうかもしれないっていう危機なの!悩んでる場合じゃないでしょ!?」
「でも、俺は…」
状況を整理しきれず、何も言い返せないユウマ。その煮え切らない態度に、業を煮やした玲奈は、思い切った行動に出た。
彼女はユウマの胸ぐらを掴んでいた手を離すと、その両手で彼の顔を包み込み、引き寄せた。
そして―――思いっきり、彼の唇に自分の唇を重ねた。
柔らかな感触と、玲奈の必死な想いが、ユウマの混乱した頭に流れ込んでくる。
「…っ!?」
唇が離れた後、玲奈は顔を真っ赤にしながらも、ユウマの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「…これで、少しは目が覚めた?行くよ、ユウマ。あんたがやらなきゃ、始まらないんだから」
玲奈の、覚悟を決めた瞳。その強さに、ユウマはただ、呆然と頷くことしかできなかった。
幼馴染で一緒にいつもいる玲奈…あまりに一緒にいる時間が長すぎて、以前も言ったように『家族』という認識しかなかった。いつも一緒に居て、くだらない上端にツッコミを入れてくれる存在…
「レイナ…ありがとう。ちょっとゴチャゴチャ考えすぎたかな?…俺バカだからさ…悩んでも解決しないわ…なので考えずに行動するぜ!星荘!」ユウマの胸の印が光る
そこには居なかった星荘が唐突に召喚される「召喚に応じ犬川星荘推参」
「この期に及んで新しい能力の発現か…」服部夜刃は驚愕する。
「あ、熱い!!」今度は玲奈が胸を押さえて倒れこむ。
「全く怒涛の展開だな…大丈夫か?」「しっかりレイナ!」健太と彩花がフォローに走る。
「ねぇちょっと…」星荘は少し不満顔だ…よく見ると髪の毛が濡れている「武技礼装含めていきなり召喚されたんだけど…これ、問答無用なのかな…」
「いや…緊急事態で…」「シャワー浴びてたんだけど…このドスケベ」「ええぇ…」
「何でもいいが、東京魔法陣の守護八犬士を連れて行くのは得策ではないぞ」安倍星華が冷静にツッコむが、ユウマはどことなく確信していた。
「いえ、たぶん大丈夫ですよ星華さん」そして振り向き
「すまんが、玲奈のことは頼む…おそらく彼女は大丈夫だ。今ならわかる」
「では、再び北海道に向かうぞ」急転直下の状況だが、決断したなら即行動。実働部隊は即断即決が必須なのだ。




