第四十話:戦乙女アイドル化計画
■緊急会議
池袋のミッドナイト基地に、重い沈黙が垂れ込めていた。北海道での戦いから生還したものの、ユウマは深く項垂れていた。
「俺の…俺のせいだ…」
北条氷華に意気込んで共鳴を仕掛けたものの、「効果が薄い」と断じられた言葉が、彼の胸に突き刺さっていた。中華チャンネルの介在があったとはいえ、配信こそが自らの唯一にして最大の武器であっただけに、その無力さを痛感させられた事実は重い。
「…時代に合わせた、しかるべき変化だったのですよ。高梨ユウマ」
安倍星華が、珍しく慰めるような言葉をかける。
「敵もまた、我々と同じように学び、進化する。今回の敗北は、次なる勝利のために必要な試練だったと、そう捉えるべきです」
だが、その隣で腕を組む服部夜刃は、冷ややかだった。
「…見たことか。我ら『影刃』が、どれだけ裏で暗躍しようと手に余る状況だ。貴様のような素人が表で騒ぎ立てたところで、結果は同じ。いや、より事態を悪化させただけかもしれんな」
嫌味とも本音ともつかぬ言葉に、ユウマは顔を上げることさえできない。
その重い空気を振り払うように、ユウマは顔を上げた。
「…だから、改めて提案したい。豊臣華織の乱入で有耶無耶になってしまった、俺たちの次の一手を」
「まさか、本気で戦乙女のみんなをアイドル化するなんて言わないでしょうね?前も言ったけど、私は反対よ」
玲奈が即座に釘を刺す。しかし、彼女も認めざるを得なかった。
「…配信のコメント欄で、『#星荘推し』とか『#桜親しか勝たん』みたいな論争が起きているのも、事実だけど」
その言葉に、これまで黙ってPCを操作していたドルオタの健太が、待ってましたとばかりに立ち上がった。
「だからこそ、公式チャンネルを作るんです!」
「は?」となる周囲をよそに、健太は熱弁を始める。
「ミッドナイトのメインチャンネルに、戦乙女一人一人の公式個別チャンネルをリンクさせるんです!戦いがない時間にも、本人が許可する範囲で、好きなことや得意なことを発信する。そうすれば、公式にファンとしてサポートしたいっていう固定ファンが付きます!固定ファンが育てば、いざという時の視聴者数も安定する。これは、視聴者数確保の第一歩なんです!」
健太の勢いは止まらない。
「コラボ配信とか、得意な一芸とか…日常とバトルのギャップを見せることで、彼女たちの人間的な魅力が伝わる!そうすれば絆も深まる!ついでに握手会やグラビア撮影なんかも…」
「「そこまで!」」
玲奈と彩花に、同時に羽交い締めにされる。
だが、ユウマはその提案に、光を見出していた。
「…なるほどな。本人たちが嫌がることは絶対にさせない。けど、個人の意思でやってもらえるなら、それは新しい力になるかもしれない」
「アンタ本気で言ってんの?」玲奈はかなり訝しんだ顔をしてユウマを見ている。
「星荘達も、身命を賭して戦う契約をしてこれまでも人知れず戦ってきてくれている。だが、その活躍を褒められることもなく認められることもなくこれまで来ているが、それが認められることで得た力もあると思う。少なくとも俺がこうして共鳴者として使命を受けたという事は、それが望まれていることだと思うんだ…だからこそ、俺たちが出来ることはしなきゃいけない…星荘はどう思う?」
いきなり話を振られた星荘は、少し戸惑いながらも「以前も言ったけど、ユウマの協力は私にとっての力になっていることは実感しているよ。アイドルになりたいとは…正直今は思わないけど、負けられないという想いは強いよ。だから、頑張れると思う」
ユウマは、星華と夜刃に向き直った。
「…という訳なんですが」
星華は、やれやれと肩をすくめた。
「…ここまで来たら、ご本人たちが了承するなら、好きになさい。もはや、手段を選んでいる余裕はありません」
夜刃は、ふいと顔をそむける。
「申し訳ないが、我ら『影刃』が、そのような表立った活動に協力することはできん」
「じゃあ、裏からなら支えてくれるんだな?」
ユウマのツッコミに、夜刃は「…拒否はしない」とだけ、小さく呟いた。
最後に、星華は厳しい表情で釘を刺す。
「ですが、警告はしておきます。政府として、海外からの侵攻は、表側の政治も含めて極めて深刻な問題です。あなた方の行動が、国際情勢にどう影響するか、常に考慮しなさい」
そして、もう一つ。彼女はさらに付け足して警告する。
「今はまだ、真偽不明のエンタメとして世間は見ていますが、これが『事実としての戦争』だと認識が広まりすぎれば、大規模なパニックを引き起こす。その塩梅は、あなた自身が考え、守りなさい。よろしいですね?」
新たな課題と、重い責任。ユウマは、ゴクリと唾を飲むと、力強く頷いた。ただ配信するだけの日々は、もう終わったのだ。




