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第四話:秋葉原に燃える焔の第六天魔王

 ■秋葉原、電光の迷宮


 電気街口を出た瞬間、ネオンの奔流が視界を支配した。

 巨大なビジョンスクリーンから流れるVTuberのライブ配信が、往来する人々の顔を虹色に染め上げる。

 メイド喫茶の呼び込み声と、アニメショップの主題歌が混ざり合い、まるで「二次元と三次元の境界が溶ける」ような雑踏が広がっていた。


「ここは、欲望と夢想が交差(ドリームフォージ)する聖地(・エデン)だ」


 歩道には痛車が並び、ガレージキットの露店が軒を連ねる。

 オタクたちの会話が飛び交う

 ──「今期の推し活どう?」「コミケの整理券、取れた?」──

 その言葉の裏には、熱狂と孤独が同居している。


 アキバの路地裏に足を踏み入れると、雰囲気が一変する。

 古びた同人ショップの棚には、20年前の美少女ゲームの巨大な箱が未開封で眠り、隣ではVR機器を装着した客が仮想世界に没頭している。

 時代の層が積み重なった、まるで「オタク(オタク・)文化の地層(セディメントゥム)」のようだ。


「現実逃避のパラダイス、それが秋葉原の本質かもしれない」


 そして──


 とあるビルの4階にある謎のカフェ。入り口には「2.5次元推奨」と書かれた看板が掲げられ、中ではコスプレした店員が客に「ご主人様」と呼びかける。窓の外には、アキバの街並みが広がり、無数の欲望が光の粒のようにきらめいていた。


 秋葉原は、現実を忘れさせてくれる、夢の坩堝(るつぼ)だった。


 ミッドナイト基地は、秋葉原へ向けた準備で熱気に包まれていた。

 ユウマの配信は、すでに熱狂的なフォロワーを生み出し、「東京魔法陣」の噂は都市伝説として定着しつつある。


「よーし、視聴者さん! ユウマのミッドナイト・トーキョー、今夜は秋葉原の電脳街を攻めるぜ! 『怪しい電波』のタレコミが来てんだ! 敵メイドか? それとも…新メイド登場か!? コメントで予想してくれ!」

 ちなみに、未だこの時点ではタレコミより安倍星華の情報の方が当然精度高いのだが、ユウマとしては視聴者参加型こそが盛り上がる…それがそのまま力になると共鳴者として確信している。

 ユウマのスマホ画面には、「#アキバの電脳メイド」「アキバメイドがバトったら何人参加?」「またバトル!?」「モレの推しが勝つる」「ユウマ、今度は何に巻き込まれるんだw」といったコメントが高速で流れる。

視聴者数は2万人を突破し、「#東京ミッドナイト」はついに日本のトレンド1位に輝いた。


 玲奈が疲れた顔で言う。「ユウマ、本当に懲りないね。新宿であんな目に遭ったのに。秋葉原は電気街だよ? 電波系妖怪とか出てきたらどうするのさ!」


 健太は最新のドローンとタブレットを操作しながら自信満々に答える。「レイナ、心配すんなって! 俺の最新ガジェットは、電脳空間の異変もバッチリキャッチするぜ! 秋葉原のオタク文化と超常現象、最高にバズる予感!」


 彩花はさらに分厚くなったオカルトノートを抱え、目を輝かせている。「秋葉原は【智】の宝玉のエリア!【智】は『知恵』の意味を持つんだよ! もしかしたら、今までとは違う知的なバトルが見られるかも!」


 そこに、犬川星荘(いぬかわ・ほしな)が、ジーンズに星柄Tシャツという私服姿で現れる。背中にはいつもの槍ケースがある。


「ユウマ、準備はいいか? 秋葉原は危険だ。今回の敵は『第六天布武(ヘキサ・ドミニオン)』の織田焔(おだ・ほむら)。織田信長の力を継ぐ炎魔を率いて、【智】の宝玉を狙っている。彼女は電脳知略戦も得意だから、お前の配信が狙われる可能性が高いぞ。」


 ユウマは胸の星型紋章を触り、真剣な顔で頷く。

織田焔(おだ・ほむら)…また強そうな奴だな。星荘(ほしな)、もっと詳しく教えてくれよ! 視聴者さんも気になってるはずだ!」


 星荘(ほしな)はため息をつきつつも、説明を始める。

織田焔(おだ・ほむら)尾張(おわり)(愛知)を拠点に天下布武(てんかふぶ)の野望を抱く若きリーダー。草薙剣(くさなぎのつるぎ)を奪い、将門の力を信長の霊に融合させようとしている。彼女の炎魔は火縄銃と炎の刀を使い、破壊的な突撃を仕掛けてくるだろう。」


 玲奈が青ざめる。「火縄銃に炎の刀!? 電脳街でそんなの使われたら、街が火事になっちゃうよ!」


 ユウマは逆に目を輝かせる。

「それがバズるんだろ!もちろん、俺たちでアキバの壊滅は止めないとな!視聴者さん(ウィッチャー)、秋葉原の電脳街で炎と刀のバトルとか、最高にロックだぜ!」


 ■秋葉原の炎と雷


 夜の秋葉原は人気が去るのは早い。メインストリートに足を踏み入れると、結界の有無も分からないが普段の賑やかさは影を潜めていた。電気店のネオンサインは不規則に点滅し、街全体がどこか不穏な空気に包まれている。ユウマの胸の紋章がチリチリと疼き、スマホのカメラに激しいノイズが走る。


「うわ、視聴者さん! 秋葉原、マジでヤバい気配! カメラ、ノイズやばいんだけど!? これ、電波系の超常現象だろ!」コメント欄は「アキバが電波に!」「メイドバトル、アツい!」「萌え萌えキュンキュン!」「頑張れユウマ!」で埋め尽くされる。


 健太のドローンが上空で奇妙な音を立てて旋回する。「ユウマ、電波干渉がひどい! 俺のドローンが制御不能になりそうだ!」


 彩花はノートを広げ、不安げに呟く。「【智】の宝玉は、中央通りにあるらしいけど…こんな電波状態じゃ、場所特定も難しいかも…」


 その瞬間、街のネオンがすべて消え、代わりに赤い閃光が秋葉原の空を走った。熱波がユウマたちを襲い、アスファルトから煙が上がる。星荘(ほしな)が即座にメイド服に変わり、槍を構える。


「来たぞ! ユウマ、カメラと一緒に下がれ! 戦乙女(バトル・メイデン)の戦いだ!」


 赤い閃光の中心から、燃え盛るような赤髪の女性が現れた。黒を基調にしたメイド服には金の甲冑の一部を身につけ、手には火縄銃と炎の刀を持つ。

「くわっはっはっは!!…我が名は織田焔! 六天魔王の意思を継ぐ者! 秋葉原の【智】の宝玉は、我が第六天布武がいただく!」

 彼女の背後には、炎を纏った悪魔のような「炎魔」が無数に控えている。

 熱気と迫力…だが、ユウマはちょっとだけ恐怖とは違う印象を持ってしまった…

「ちっちゃくてカワイイ?」

 織田焔は、どうみても身長150cm無さそうだ。体系もお子様体形で威厳をもって話しても、どこかに組めない見た目をしている。

 健太も「も、萌ぇ~」と呆けている…コイツロリだったか…とユウマは気づくが一旦無視する。

 玲奈まで「やだ、可愛い…」といつもなら死ぬ死ぬ言ってるのに…


 星荘(ほしな)が槍を振り、星光が地面を照らす。彼女は恐らく焔の実力を良く知っているのだろう。槍先を向けて隙無い構えで迎撃の体勢をとる。

「織田焔! お前の野望、この池袋の【義】の槍が打ち砕く! 東京は、誰にも渡さない!」


 その時、青い雷光が織田焔と炎魔メイドを打ち据える。


「織田焔! 秋葉原は私の領域だ!【智】の宝玉に手を出すことは許さない!」


 現れたのは、紺色のメイド服に弓を携えた、知的な雰囲気のツインテール女性。弓には雷光が走っている。弓をイメージしたヘアピンが特徴的だ。袖広の衣装は…有名ボーカリストの衣装を彷彿とさせる。

短いスカートから伸びる足にはハイニーソ。


犬山雷道(いぬやま・らいか)! 秋葉原の【智】の宝玉の守護者、只今見参!」


 雷鳴弓を構え、彼女は静かに、しかし確固たる意志を宿した瞳で織田焔を睨む。


 織田焔は高笑いする。「かっはっはっは!!義と智の連携か! 面白い! だが、私の炎の前には無力じゃ! 東京魔法陣は、もはや時代遅れ! 草薙剣の力で、この日本は私が統一する!」


 広場の端に陣取ったユウマはカメラを構え、興奮を隠せない。


「うおおっ! 今回もメイド対メイド! 織田焔、すげえ迫力…しかし、ちょっとカワイイ! でも、星荘(ほしな)雷道(ライカ)さん、応援だぜ! #智の戦乙女 で盛り上がろうぜ、視聴者さん達(ウィッチャーズ)!」


 コメントは「#織田焔萌燃え」「ライカさんカッコイイ!」「ネギは無いのか?!」「メイドさん萌え萌えビーム!!」「アキバこそメイドメッカ」で爆発的に増え、視聴者数は2万5000人を突破する。

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