第三十八話:怪僧ラスプーチナ
「やっぱりか…」
ロシアからの新たな刺客、ラスプーチナの登場に、ユウマは爆上がりする実況の再生数とコメント欄を見て、ある種の納得を得ていた。
視聴者の反応は、驚くほど正直だった。伊達星夜の、大事なところは隠しつつも、その自慢のボディーラインを惜しげもなく見せつける挑発的な武技礼装が画面に映るたび、視聴者数は露骨に跳ね上がる。
コメント欄は彼女のプロポーションを称賛する言葉で埋め尽くされ、そのむき出しのリビドーが、ユウマを通して共鳴し、戦乙女たちの力へと変換されていたのだ。
「相変わらず挑発的な衣装よね〜」
隣で配信画面のスイッチングをしていた玲奈が、呆れたように呟く。彼女は、ユウマのチャンネルが規約違反でBANされないよう、過激すぎるアングルを必死に修正してくれていた。
「にしても、あのラスプーチナ?って、一体何者なんだ?」
ユウマが素朴な疑問を口にすると、モニターの片隅に表示されたチャットウィンドウに、ミッドナイト基地の彩花から怒涛のメッセージが飛び込んできた。
『怪僧ラスプーチンだよ!ユウマ、知らないの!? ロマノフ王朝を影で操ったと言われる、あの有名な!不死身だとか、聖なる力を持つとか、色々ヤバい逸話が残ってる、ロシア史最重要人物の一人だよ!』
彩花のスイッチが入ってしまった様だ。
『1869年、シベリア生まれ: ポクロフスコエの農民出身。グリゴリー・ラスプーチン、若い頃から酒と女好きの「放蕩者」で有名だったんだけど、巡礼で宗教に目覚め、催眠術みたいな目力で民衆を魅了。神の使者オーラ全開!』
「な、なあ、これ一生分続くの?」ユウマが控えめに聞くが、彩花は止まらない。
『1900年代、宮廷に侵入してサンクトペテルブルクでロマノフ朝に接近。何と!皇太子アレクセイの血友病を「祈祷で癒す」チート能力で、皇后アレクサンドラの心をガッチリ掴む!リアルに神秘の奇跡を起こせた人物だったんだよ!
その後権力のダークヒーローとして 皇帝に影響与え、閣僚任命に口出し。階級超えの傍若無人に貴族ブチギレ、民衆は「国を操る魔人」と揶揄されるけど本人意に介さずスキャンダル祭り!酒、乱痴気、貴族の奥様との噂で「魔性の誘惑者」にアビリティ追加して無敵状態の破戒僧!!
そこから凄くて1916年、壮絶な暗殺: 貴族に毒盛られ、撃たれ、ボコられ、ネヴァ川に沈められるも、溺死まで生き延びた不死身伝説!
もう、ラスプーチン、闇とカリスマの塊!中二病全開の歴史のダークヒーローなんだよ!』
チャットは止まらない。彩花は、怪僧ラスプーチンの波乱に満ちた生涯を、まるで見てきたかのように得意げに語り尽くしていた。
その熱のこもった解説は、戦場のラスプーチナ本人にも届いていたようだった。
「ふふ…わたくしのこと、随分とよくご存じのようで、ありがとう存じますわ」
ラスプーチナは優雅にお辞儀をすると、その深紅の瞳でユウマたちを見据え、冷たく言い放った。
「そういうわけで、この蝦夷地は、わたくしたちが貰い受けるといたしますわ」
その言葉に、誰よりも早く反応したのは、蝦夷共和国と共に北の地を守ることを決めた者たちだった。
「させないよ!」
土方美鈴、近藤花蓮、沖田雪菜。解放され、新たな使命を帯びた新選組の戦乙女たちが、ラスプーチナの前に立ちはだかる。
その瞳には、かつての東京侵略による独立国家としての野心ではなく、守るべき場所を得た者の強い決意が宿っていた。
「我らが主、北条氷華様との約定がある限り、この地に指一本触れさせるものか!」
土方の言葉に、近藤と沖田もそれぞれの得物を構える。北の大地で、誠の旗が、氷帝の使者と対峙する。戦いの火蓋は、まだ切られたばかりだった。




