第三十二話:渋谷の煩悩寺の変
三つの勢力が睨み合う、一触即発の渋谷スクランブル交差点。その均衡を、最も予測不能な人物が、最も過激な形で破壊した。
「ええい、ままよ!わしの種子島三千丁で、有象無象まとめて粉砕じゃ!」
第六天魔王・織田焔は高らかに笑うと、その身に宿る全ての霊力を炎魔に変え、無数の火縄銃を虚空に召喚する。それはまさに、戦場を制圧する炎の軍勢。だが、その銃口は敵味方の区別なく、戦場全体に向けられていた。
「ちょっ!味方関係なしか、あんたは!?」
味方であるはずの八犬士たちにも火線が及び、ユウマは思わずカメラを揺らしながら絶叫する。
「ガッハッハ!知ったことか!日頃の鬱憤、ストレス解消じゃ!悪いが八つ当たりじゃ!」
焔を中心に三千丁の火縄銃が美しく舞うが、吐き出される光線の様な曳光弾は必殺の炎を纏う弾丸だ。
悪びれる様子もなく、焔は炎の弾丸を三連掃射する。戦場は対決の構図を失い、ただただ荒れ狂う炎から逃げ惑う、カオスな状況へと変貌した。
「もう、相変わらず無茶苦茶でんな、あの人は…」
黄金扇から繰り出す金の花弁で配下を守りながら、豊臣華織は呆れたように呟いた。
だが、その狂乱の弾幕は、突如として止んだ。
何事かと、誰もが動きを止める。視線の先、高笑いを上げていたはずの織田焔が、驚愕に目を見開いてよろめいていた。彼女の黒いメイド服の脇腹には、一本の懐刀が深々と突き刺さっている。
武技礼装が強制解除されて、焔は又してもその肢体を晒す羽目になった。
ユウマは慌ててカメラからフレームアウトさせる。
「♯メイドアウト」「ふおおおお…焔ちゃんリタイア!?」「ソコ映して」「よりによって裏切り!?」
そして、その柄を握っていたのは――彼女が最も信頼していたはずの軍師メイド、明智光だった。
「お主…光…」
信じられないものを見る目で、焔はその場に崩れ落ちる。光は、涙を流しながら、震える声でその動機を叫んだ。
「お館様…ずるいです…。光だって…光だって、あの者と共鳴して、力を頂きたかったのです!お館様だけ、ずるいです!」
その悲痛な叫びと共に、光の首筋に張り付いていた一枚の金色の花びらが、きらりと光って消えた。
それを見て、豊臣華織が勝ち誇ったように扇子を広げた。
「どないです?共鳴者の坊や。これが私の人身掌握術…人の心の隙間に入り込む、うちの真の天下統一の力や。奇しくも、煩悩寺の再演でしたな!」
「それ言うなら本能寺」「煩悩寺www」「コレどう収拾すんだ〜」「焔ちゃん葬られるぅ」コメントが大喜利状態に。
光の嫉妬心と、ユウマへの憧れ。その心の隙を、華織は的確に見抜き、利用したのだ。
「貴様ぁ!よくもお館様を!」
主の裏切りに、最も忠実な小姓・森蘭丸が絶叫する。愛刀「不動行光」を抜き放ち襲い掛かる。
「わ、私は…」華織の術が解けた光は、心の奥底に秘めた想いを曝け出してしまった自分を受け入れられず呆然としたまま蘭丸の太刀を受け入れた。
明智光、霰も無い姿を晒して行動不能。
「明智三日天下」「三日どころか三秒」「思ってたよりメリハリ体型」「通報しますた」コメント盛り上がるが、コレは追い風なのか?と言う流れだ。
八犬士は、目の前で起きた裏切り劇に立ち尽くす。豊臣軍は、好機と見て再び攻勢に出る。
ユウマは、目の前で起きる目まぐるしい状況の変化に、言葉を失う。
「何が…何がどうなってんだ、これ…!現場は、もう大混乱だ!」
彼の呆然とした呟きだけが、混沌を極める渋谷の空に、虚しく響き渡っていた。




