第三話:氷狼と豪剣、新宿の激戦
新宿はネオンと混沌の迷宮だ…スクランブル交差点を抜け、新宿アルタの巨大スクリーンが視界を支配する。
最新アイドルのCMが流れるディスプレイの下では、スーツ姿のサラリーマンとコスプレイヤーがすれ違う。香水とたこ焼きの煙が混ざり合い、街全体が一種の異世界入り口のような匂いを放っている。
「ここは、欲望の坩堝(ヴォルテクス・デジデリウム)だ」
アルタ裏の路地に入ると、ネオンの光が途切れ、代わりに赤提灯がぶら下がる飲み屋街が広がる。
店先では客引きの声が飛び交い、「いらっしゃい!安いよ!」「美女多数在籍!」という言葉が、まるで呪文のように繰り返される。
通りすがりの外国人観光客はスマホを片手に戸惑い、地元の常連は慣れた足取りで奥のバーへ消えていく。
歌舞伎町のアーチをくぐると、光の洪水が襲ってきた。
巨大シネコン屋上からの大怪獣像が威嚇するように睨みを利かせ、その足元ではストリートミュージシャンのエレキギターが轟く。商業施設がサンドイッチの様に積み重なってカルトと王道を挟み込んでカオスなカルチャーを生み出す。
ビルの谷間から漏れるクラブのベース音が、地面ごと震わせている。
「この街では、誰もが何かを求め、何かに溺れる」
路地裏のゲーセンからは無機質な電子音、パチンコ店からは玉の跳ねる音が聞こえる。ふと横目をやると、女装した「男の娘」たちが笑いながらタバコをふかし、その隣では酔っ払ったサラリーマンが号泣している。全てが矛盾し、全てが調和する──新宿の夜は、現実と幻想の境界を溶かす魔境だった。
今晩の新宿は、まるで凍てつく戦場だった。
歌舞伎町のネオンが冷たく輝き、異常な寒気が路地を包む。
高梨悠真はスマホを手に、配信のテンションを上げていた。
「よーし、視聴者さん! ユウマのミッドナイト・トーキョー、絶賛配信中! 新宿のタレコミ、『怪しい光と寒気』を追うぜ! 戦乙女か? 妖怪か? それとも…敵メイド!? コメントで予想頼む!」
コメント欄が瞬時に埋まる。高速で流れる…「#新宿の光、ガチ!」「メイドバトルキター!」「ユウマ、生きて帰れよw」「歌舞伎町キタコレ」「大怪獣より大怪奇」「モレも参加キボンヌ」「メイドさんローアングルハアハア」
視聴者数は1万2000人を超え、Xで「#東京ミッドナイト」がトレンド3位に急上昇。
佐藤玲奈が後ろで震える。
「ユウマ、アンタほんと無謀だよ! 池袋の雷ドラゴンで懲りなかったの? 今度は氷の怪物とか出てきたらどうすんのよ!?」
田中健太がドローンを操作しながら叫ぶ
「レイナ、ビビりすぎじゃん?! 俺の最新ドローン、通常、赤外線、超常現象今度は現場でバッチリ撮るよ!…ところでユウマ、星荘はどこ?」
山本彩花がオカルトノートを手に興奮。
「新宿は【仁】の宝玉のエリア!【仁】は『慈悲』の意味を持つんだって!…でもこんな頻繁に敵ッて来るもんなの?…もしかして私たちが知らないだけで日々行われてるバトルなの?」
犬川星荘が現れる。大学生らしいパーカー姿だが、背負った星嵐槍のケースが異様な威圧感を放つ。「ユウマ遅い。敵は蝦夷共和国の北条氷華。どうやら【仁】の宝玉を狙ってる。分かっていると思うが共鳴者として、異変を感じたらすぐ報告しろ。」
ユウマが胸の星型紋章を触る。「ガチ戦闘? 星荘、氷華ってどんな奴? 知っているなら視聴者さんに紹介してよ!」
星荘がため息。「配信バカ…。北条氷華は蝦夷共和国のリーダー。榎本武揚の独立の夢を継いで、北海道を独立国家にしようとしてる。海狼メイドを率い、氷の魔法で結界を凍らせるに違いない。いいか、気をつけろ…お前の配信、敵にバレてるぞ。」
ユウマがニヤリ。「それが作戦! 視聴者さんの目で敵を炙り出す!」
玲奈が叫ぶ。「ユウマ、本気で命かける気!?」
■歌舞伎町の氷嵐
歌舞伎町の路地に踏み込むと、異常な寒気がユウマたちを襲う。胸の紋章がチリチリと疼き、スマホのカメラにノイズが走る。「うわ、視聴者さん、ヤバい気配! カメラ、ノイズってる! これ、超常現象だろ!?」
コメントが「ガチ!」「メイド来い!」「歌舞伎町アイスバーン」「滑って転んでパンチらヨロ」…相変わらずカオス。
健太のドローンが上空で旋回。「ユウマ、温度センサー、マイナス5度! 歌舞伎町、めっちゃ寒い!」
彩花がノートをめくる。
「【仁】の宝玉は新宿駅のどこかにあるなら、全部凍らせるには広い…けど、場所がバレるとマズくない?」
気が付くと、ユウマ達が踏み込んだ歌舞伎町シネシティ広場に人気は無い…おそらく結界が張られているのだ。人気の途絶えた広場は普段の喧騒からは隔離されたのが分かる。
金属音が響く。キンッ! 氷の結晶が地面を這い、ユウマたちの足元を凍らせる。星荘が槍を構える。同時に瞬時にメイド服に変わる。「来たぞ! ユウマ、カメラと一緒に下がれ! 戦乙女の戦いだ!」
広場に現れたのは、青み掛かった銀髪ロングの女性、北条氷華。
船長帽をかたどったカチューシャに深くて濃い青いメイド服、銃剣を手に氷のオーラをまとう。スリットの入ったロングスカートの隙間からレースの文様が入った白いガーター付きのストッキングが覗く。
背後には氷の狼—海狼メイドの妖獣—が唸る。
「犬川星荘、【義】の戦乙女。ここ新宿の【仁】の宝玉は、蝦夷の正義のためにいただく!」
星荘が槍を振り、星光が地面を照らす。「氷華、北海道の怨念はわかる。でも、結界を壊せば将門の怨霊が暴れる。東京は私が守る!」
突然、桜の花びらが舞い、ピンクのメイド服の少女が現れる。明るいショートヘア、短いフレアスカートは大きく広がりその下にフワフワなパニエが幾重にも重なるなかから美しいハイニーソの足が伸びている。メイドというよりアイドルみたいな衣装である。
「犬坂桜親、新宿の【仁】の宝玉の守護者只今見参!」
桜嵐刀を手に、笑顔で言う。
「星荘、おまたせ! 新宿は私のエリア。氷華、【仁】の宝玉はお前に渡さない!」
氷華が冷笑する。「【義】と【仁】の連携? 無駄よ。東京魔法陣は、蝦夷の犠牲の上に成り立ってる。魔神大戦の傷、関東大震災の怨念…三種の神器と首塚の力で、札幌を新たな首都として国家独立して見せる!」
広場の端に陣取ったユウマがカメラを構える。
「うおっ、今回もメイド対メイド! 視聴者さん、氷華、めっちゃカッコいい! でも、星荘と桜親さん応援だぜ!」
コメントが「#氷華クールビューティー」「桜親、星荘、頑張れ!」「新メイド・サクラちゃん萌!」で盛り上がる。
■鬼の土方の化身
氷華が銃剣を振り、氷狼が咆哮。地面やゴミ箱、ネオンが凍り、星荘と桜親が応戦する。星荘の槍が星光を放ち、桜親の刀が花びらの嵐を巻き起こす。
たちまち氷の狼が砕け散る。
しかし、氷華が不敵に笑う。「二対一 なら、こちらも援軍を呼ぶわ。壬生の狼顕現!」
空気が裂け、青い炎が渦巻く。白地に水色の三角の模様が入ったメイド服に身を包んだ女性が現れる。
「土方美鈴見参…」
「誠」と刻まれた鉢金の付いたカチューシャをはめた、黒髪オールバックショートの目つきが鋭い女性が立っている。
蝦夷共和国の新たな戦乙女だ。手に名刀・和泉守兼定を握り、天然理神流の構えを取る。鋭い瞳と青い炎のオーラが、かつての「鬼の副長」を彷彿とさせる。
「新選組の魂、蝦夷の誇り! 桜親、お前の【仁】など、俺の豪剣で斬る!」
桜親が目を細める。
「土方歳三の化身!?…天然理神流… 相手にとって不足なし! でも、新宿は私の街。私の桜新陰流負けないよ!」
美鈴の和泉守兼定が唸り、青い剣気が桜親を襲う。桜親の桜嵐刀が花びらで防ぐが、天然理神流の猛攻に押される。星荘が星嵐槍で援護し、氷華の氷狼を牽制するが、2対2の戦いは一進一退。
ユウマの胸の紋章が激しく脈打つ。頭にビジョンが閃く—新宿駅の地下、仁の宝玉が氷に閉ざされ、青い炎が結界を焼き始める。「うわっ、星荘! 桜親さん! 宝玉がヤバい! 駅の地下、氷と炎で封じられてる!」
星荘が叫ぶ。「ユウマ、共鳴者の感知!? 桜親、地下だ!」
桜親が頷き、花びらの嵐で美鈴を押し返す。「星荘、行くよ! ユウマ、配信で民衆の気を集めて!」
■ユウマの介入
ユウマがカメラを構える。「視聴者さん、新宿のメイドバトル、ガチで熱い! 『#仁の戦乙女』で桜親さんと星荘を応援だ! 気合入れろ!」 コメントが「#仁の戦乙女」「桜親、星荘、最高!」「氷華、鬼メイド、ヤバい!」で爆発。視聴者数が1万8000人に急上昇。
ユウマの胸の紋章が光り、視聴者の熱気が結界に流れ込む。【仁】の宝玉が輝きを取り戻し、氷華の氷狼が弱る。ユウマは咄嗟に叫ぶ。「氷華! 美鈴! 視聴者さんが見てんだ! 結界壊したら、将門の怨霊が東京を呪うぞ! それでもいいのか!?」
氷華が一瞬、動きを止める。
「共鳴者…民衆の気を操るのか。だが、蝦夷の怨念は深い。魔神大戦、震災、空襲…東京は私たちの犠牲で栄えた!」
美鈴が剣を構え直す。「新選組の魂は、蝦夷の正義に捧げる。だが…民衆の目は無視できん。」
桜親が刀を構える。
「我が一閃、桜と共に舞え。《桜嵐・零式》――刹那にして千の刃!」
花びらが氷と炎を押し返す。
「氷華、美鈴、東京はみんなの街!【仁】の心で、守ってみせる!」
星荘の槍が星光を放ち、必殺技を放つ。
「天より来たれ、断罪の閃光――《星槍審断》! 滅せよ、星の名のもとに!」
天から無数の光の矢が降り注ぎ、氷華と美鈴を後退させる。ユウマの配信が視聴者の「気」を結界に注ぎ、仁の宝玉が完全復活。氷華が歯噛みする。「撤退よ!壬生の狼。だが、いずれ神器は我々のものになる!」 美鈴が一礼し、「次は斬るぞ、桜親」と言い残し、二人とも霧に消える。
■戦いの後
ミッドナイト基地に戻り、ユウマたちは興奮と疲労で騒然。
配信は2万ビューを突破し、Xで「#仁の戦乙女」が世界トレンド2位。
玲奈が呆れる。「ユウマ、氷のメイドと鬼メイドに狙われたのに、まだ配信続ける気?」
健太がドローン映像をチェック。「あの氷狼と青い剣気、センサーぶっ壊れそうだったよ…鬼の土方、マジで怖え…でも、俺様のテクニックで余裕で回避だぜ!」
彩花がノートに書き込む。「土方歳三の化身! 蝦夷共和国、ガチで強い! 魔神大戦や震災の怨念…結界の歴史、深すぎ…でも歴女の血が騒ぐ!!」
星荘が紅茶を飲み、言う。
「ユウマ、お前の共鳴が宝玉を救った。視聴者の気、結界の力になったよ。…でも、調子に乗るなよ。」
何気に付いてきた桜親が笑う。
「ユウマ、最高! 配信で新宿守れたね。 でも、氷華と美鈴、絶対また来るよ…」
そしてどこからともなく安倍星華が現れ、冷たく言う。
「高梨、よくやったが、敵は増える。今は政治の腐敗が我ら組織の力を削いでいる…政府側の御庭番から情報がもたらされている…第六天布武の織田焔が上京してきているという話だ。海外の紅蓮や氷帝も神器を狙ってる。お前の配信、結界の鍵だ。しくじるな。」
ユウマがニヤリ。「次は秋葉原! 視聴者さん、準備しろよ! 東京魔法陣、俺らが守るぜ!」
彩花もゴリゴリノートにメモをしている「上杉に五稜郭、織田の軍勢迄…も、燃える…ふひひ」
それを見て玲奈がドン引いている…「ホント、この人たち…」
ユウマの胸の紋章が脈打つ。次の戦いは近い。新宿の夜を越え、東京の戦いは新たな局面へ。
■参考文献
荒俣宏「帝都物語」
加門 七海「大江戸魔方陣」「東京魔方陣」