第二十五話:星荘(ほしな)の過去
■星荘の過去
「それで…星荘が抱えてるもんって、なんなんだ?」
ユウマの真っ直ぐな問いに、星荘は少し俯き、自分の過去を静かに語り始めた。
「私の実家、結構な田舎でね。古くから続く神社の家系だったんだ」
その言葉に、ユウマは少し驚いた。
「私の実家がある村ではね、そういう『見える』っていうのは、吉事じゃなくて、むしろ不吉なことだって思われてたんだ」
星荘は、遠い目をして続ける。
「子供の頃、クラスメイトの背中に、いつもどんよりとした眠そうな狸が憑りついてるのが見えたことがあって。その子はいつも怠そうで、授業中も居眠りばかりしてた。だから、私は親切心で言ったんだ。『あなたの背中にいる灰色の妖怪(魔魅)、払ってもらった方がいいよ』って」
「…妖怪って教えたの…言い方わるくない?」ユウマは思わず声を漏らす。
「まあね…嘘はいけないじゃん? 結果は最悪。その子には泣かれるし、周りからは『星荘ちゃんは呪いをかける子だ』って気味悪がられて、完全に孤立した。良かれと思ってしたことが、全部裏目に出ちゃう」
それだけではなかった。村で何か悪いことが起きるたび、その原因は星荘のせいにされた。
「例えば、お祭りの御神輿が、本番前に壊されたことがあった。私はその前から、御神輿を保管してた蔵に、悪戯好きの悪鬼がいるのが見えてたから、『あの蔵、危ないよ』って言ってたんだ。でも誰も信じてくれなくて…案の定、御神輿は壊された」
「それで、星荘の言った通りになったんだから、信じてもらえたんじゃないのか?」
「逆だよ」星荘は力なく笑う。「『星荘が不吉なことを言ったからだ』『あの子が鬼を呼んだんだ』って。いつの間にか、私が全ての元凶ってことにされてた。真実を口にすればするほど、私は独りになっていった」
家族でさえ、彼女の味方ではなかった。神社の家系として、その能力を理解はしていても、世間体を気にする親は「見えるものも見えないフリをしなさい」「余計なことは言うんじゃない」と、星荘のありのままを封じ込もうとした。
「…辛かった。誰も私のことを見てくれない。田舎の社会ってさ、一度噂がたっちゃうともうその張られたレッテルを書き換えるのは難しい…ましてや、子供の本当の私を誰も分かってくれない…」
悲しく目を伏せる星荘だが、すぐに顔を上げて笑顔になって言う。
「そんな時に出会ったのが、深夜に放送されてたアニメだったんだ」
彼女の瞳に、初めて力強い光が戻る。
「そこでは、私みたいな特殊な力を持った子が、仲間と助け合って、ヒーローになってた。力が、呪いじゃなくて、絆になってた。…憧れた。私も、あんな風になりたいって」
アニメの強い女性に憧れた星荘は祖父から武術の手ほどきを受けることにした。フィクションの世界に憧れた彼女は、逃げられない現実に実力をつけて対抗しようとしたのだ。
「おじいちゃんは武芸百般のスゴイ人だったんだ。で、女の子だった私は最初は剣道から入ったんだけど、背がそれほど高い方じゃなかったから、リーチの差を埋めるためには薙刀や弓術が良いんじゃないかって話だったけど、槍が一番しっくりきた。中学から高校にかけて槍術を学んだ。十字槍は突いて払う、刈り取るって所作が気に入ってる。剣道で勝てない人にも槍相手って慣れてないから一方的に勝てたし」
ユウマは感心して言う「戦乙女になってから身に着けた技じゃなかったんだな…長い間ちゃんと修行して身に着けた技が基本にあるのか…カッコイイな星荘」
星荘は少しはにかんで満足そうに笑う。
「ユウマはそういうところいいよね。この話すると、大体『女だてらに』とか『喧嘩で買っても仕方ない』とか、否定的な人多いから…」
■星荘と東京ミッドナイターズの絆
「そうなの?でも、ネットでもみんなの戦いっぷりみてみんな応援してくれているぜ?…そりゃ、人によってはその…見方は違う人もいそうだけど、現にみんなの力になっている…んだよな?」
「うん…ユウマとの繋がりから得られる力は強いと思う。私、ユウマの応援でものすごく胸が熱くなるんだ…ドキドキする」星荘は少し顔を火照らせてうるんだ目でユウマを見ている。
「お、おう…よかったよ…俺も何かよくわからないまま共鳴者とか言われて、まあ特に何も変わらず配信しちゃいるけどよ…いつもすげー戦いしている星荘達みてて、なんか声上げて実況しているだけでいいのかな?って最近思うんだよな…」ユウマは星荘の目線に少しだけ真面目な顔をして答えた。
「ありがとう。でも、ユウマ今のままでいいんじゃないかな…私も分からない」
星荘は現状に満足していると付け加えた。
「まあ、今後の東京ミッドナイトの方針は別途考えないとだけどな…で、話戻るけど、星荘はそのあとその地元でどうしてた?どうやって池袋の宝玉守護戦乙女になったんだ?」ユウマは話の続きを促す。
「以前…コミティナに付き合ってもらった時に少し語った気がするけど…槍をやっていても息苦しさを感じてた私は、高校の夏休みに上京して初めてコミティナに参加したんだ…乙女ロードも行ったし、最高の思い出…なはずだったんだけど、この境界で見えちゃったんだよね…田舎で見てきた様な野良の突発的なヤツじゃなくて明らかに悪意を持った妖魔って奴…見えない人には関係ないけど、私も油断してたんだよね…ばっちり目が合っちゃってさ」
「そこでアレ…か、宝玉に選ばれた…?」
「うん…まあ、条件揃っちゃってるよね…今考えれば。笑っちゃうでしょ…昔憧れた変身ヒロインに自分が成るって…私舞い上がっちゃって」
「その後どうなったんだ?今は大学で近くに独り暮らししているの?」
「そうだね…すぐに星詠司が来て、田舎の親なんか全然上の組織からスカウトって感じで話されたら一発でOK出ちゃうよね…私も二つ返事でこっちに来たわけさ…大学にも行かせてもらい、普段は好きにさせてもらっている代わりに戦乙女で必要なら戦う」
「これまでは人知れず戦ってたって訳か…」
「うん、だからユウマと出会って共鳴者として力を貰っていることに本当に感謝しているんだよ。
以前は妖魔の類は力を使って戦うと本当に大変で…義務感で戦っていたけど、すごく辛かったんだ…ここだけの話、安倍星華さんや服部夜刃さんにも結構助けてもらっていたんだけど、それはそれで感謝を伝えても『もう、しんどいです』とか言えなくて…でも」
星荘は、まっすぐにユウマの目を見て言った。
「やっと見つけたんだ。玲奈や、サークルのみんな…そして、ユウマ。あんたみたいな、私の力を気味悪がらずに、信じてくれる仲間を。だから、絶対に守りたい。この繋がりこそが、私の【義】だから」
その告白は、どんな必殺技よりも強く、ユウマの心を打った。彼女が背負ってきた孤独と、仲間にかける想いの深さを知り、ユウマはただ、黙って頷くことしかできなかった。
彼女はユウマに向き直り、優しい笑顔を見せた。
「ユウマが、東京ミッドナイトの仲間をすごく大切にしてるの、見てて分かるよ。私も同じだから、とても共感できるんだ」
その時だった。
「ほじなぁ……!」
突然、喫茶店の奥から、嗚咽交じりの声が聞こえた。見ると、店の隅の席で、変装用のサングラスをかけた玲奈が、号泣しながらこちらに駆け寄ってくる。近くで監視していたが耐えられなかったようだ。
「れ、玲奈!? なんでここに!?」
「だっで…! そんな、そんな壮絶な過去があったなんて…! 私、知らなくで…! うわーん!」
玲奈は星荘に抱きつき、子供のように泣きじゃくる。
「え、ちょ、やめてよレイナ、恥ずかしいって!」
「だって、友達でしょぉ!」
ユウマはやれやれ…と苦笑するしかない。
「ほら見ろ、だからレイナは来なくていいって言ったんだ…」
呆れるユウマの横で、二人の少女は泣いたり笑ったりしながら抱き合っている。
ロマンチックな雰囲気は霧散してしまったが、【義】を重んじる戦乙女と、仲間を想う共鳴者の間には、確かに以前より少しだけ強く、温かい絆が結ばれた気がしたのだった。




