第二十四話:戦乙女のプライベート交流・池袋編
「心の繋がりが、そのまま強さに繋がるってことならさ…」
伊達たちの面会も終わり、一同解散となって緊張が緩んだミッドナイト基地で、一人残った地元池袋の宝玉守護戦乙女の|犬川星荘《いぬかわ・ほしな》がふと呟いた。「私たち、お互いのことをもっとよく知れば、もっと強くなれるんじゃないかな?」
その提案に、ユウマはポテトチップスをかじりながら、きょとんとした顔で答えた。
「へえ? なんだそれ。この前山手線ゲームよろしくインタビューはしたじゃないか…それに加えてお互いにプロフィールの乗った履歴書でも交換すんのか?」
「「はぁ……」」
その場にいた女性陣から、盛大なため息が漏れる。
「あんたの頭の中って、ほんとどうなってんのよ…」
玲奈がこめかみを押さえていると、星荘は爆弾を投下した。
「ねえ、ユウマ。玲奈と恋人として付き合ってるの?」
「ぶっ!?」
ユウマが盛大にポテチを噴き出した。
ついでに玲奈の顔は一瞬で沸騰した。
「なっ、ななな、何言ってんのよ星荘! こ、こいつと私が付き合うわけないでしょ!?」
ユウマにされた質問を勝手に先行して応じる玲奈だが、まあ、周囲はみなお察しである。
「まあ、そうだよな…、別に…付き合ってないけど?」
当のユウマは、噴き出したポテチを拾いながら、全く意に介していない。
「なんで? 俺たち、ずっと一緒にいるから家族みたいなもんだろ?」
「そ、それは…そうだけど…!」
あまりに純粋な瞳で言われ、玲奈はそれ以上怒れずに、真っ赤な顔でそっぽを向いた。
「ま、そういうのがユウマだからなー」
健太がやれやれと肩をすくめると、その隣でオカルトノートを見ていた彩花が、さらなる爆弾を投下した。
「ちなみに、私は健太と付き合ってるけどね」
「「「ええええええええ!?」」」
今度はユウマ以外の全員が驚愕の声を上げた。
健太は「あ、いや、えっと、まあ、はい…」と照れながら頭を掻いている。
彩花は「上野で私と玲奈が敵メイドの策にハマって昏倒した時、ケンタは撮影任務もそこそこに私を助けてくれたんだよね…只のドルオタじゃないってちょっと感心しちゃったんだ…だから、この前ユウマと玲奈が不在の時に告った…そしてOKもらった」
健太は「大切な仲間だからな!」とか言っているが、実際に背負ったときに当たった彩花の胸の感触に欲情していたなんて言えない…とヒア汗をかいている。
「へえ、そうだったんだ! やるじゃんケンタ! 結婚式には呼んでくれよな!」
全く動じていないユウマと、部屋に漂い始めた甘い空気に耐えきれない玲奈。
その対照的な二人を見て、星荘は悪戯っぽく笑い、ユウマの腕を取った。
「ねえ、ユウマ。せっかくなんだから今から私とデートしない?」
「で、で、で、デート!?」玲奈が椅子から転げ落ちそうになる。
そこは動揺するのはユウマのはずだよな…と冷静に突っ込む健太。
「デートって、具体的にどうすんだ?」ユウマはまだ状況が飲み込めていない。
「言ったでしょ?」星荘はユウマの顔を覗き込むようにして微笑む。「一緒に時間を過ごして、共感して、お互いのことをもっとよく知るの。それが、私たちの力を強くするんだよ」
「おお、なるほど! 宝玉の強化合宿みたいなもんか! それならいいぜ、行こう!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよユウマ! 私も行く!」
嫉妬に狂った玲奈が立ち上がるが、ユウマは不思議そうな顔で返す。
「え? なんで? レイナのことは、もう家族みたいに知ってるから別にいいだろ?」
「ぐっ……!」
あまりに無慈悲で、的確な一言に、玲奈は撃沈した。
「じゃ、行こっか」
「おう!」
こうして、強くなるための「デート」と称し、ユウマと星荘は二人きりで池袋の街へと繰り出すことになった。
池袋の雑踏の中、ユウマと星荘は並んで歩いていた。
星荘はさすがに街中では武装解除して普段着だ。アニメキャラのプリントされたパーカーとホットパンツ。ショートブーツというファッションは、やや肉感のある脚が良く見える。
「ここ、覚えてる?」
星荘が指さしたのは、サンシャイン60の裏手に続く薄暗い路地。初めてユウマが、メイド姿の彼女と妖獣の戦いを目の当たりにした場所だ。
「忘れるわけないだろ。あんたがバケモノ相手に槍振り回してて、マジでビビったんだから」
「あの時は、一般人を巻き込むわけにはいかないって必死だったんだよ」
星荘は少し懐かしそうに目を細めた。
次に二人が向かったのは、通称「乙女ロード」。アニメグッズや同人誌を扱う店が軒を連ね、平日の昼間にも関わらず多くの女性で賑わっていた。
「へえ、星荘もこういう所に来るんだな」
「当たり前でしょ。私の庭みたいなものだよ」
普段の戦乙女としての凛とした姿とは違う、年相応のオタクとして目を輝かせる星荘の横顔を、ユウマは新鮮な気持ちで眺めていた。
歩き疲れた二人は、サンシャイン60が見える喫茶店に入り、窓際の席に座った。
「…あんたと宝玉を通じて結んだ絆から、力を貰っているのを感じるんだ」
コーヒーカップを両手で包みながら、星荘がぽつりと語り始めた。「戦う時に、みんなが応援してくれてるって分かるんだよ」
「そりゃよかった」ユウマはクリームソーダのさくらんぼを口に放り込む。「俺も配信しながら、視聴者さんたちの応援が力になってるのを感じるよ。…まあ、主に同時接続者数の数字だけど」
相変わらずのユウマの物言いに、星荘はくすりと笑う。
「あなたの、そういう裏表のない純粋な気持ちが、流れ込んでくる力の中に感じられて…それって、なんだか気持ちいいんだよね」
「そうか…」ユウマは少し照れくさそうに頭を掻く。「絆を感じるってやつか。…悪くないな」
不意に、星荘はテーブルに乗り出すようにして、ユウマの目をじっと見つめた。
「ねえ、ユウマは私のこと、魅力的に感じてくれたりする?」
突然の問いに、ユウマは一瞬言葉に詰まったが、すぐにいつもの調子で答えた。
「そりゃ…もう、強いしカッコいいし、メイド服も似合ってるよ。それに、アイドル並みに可愛いしな」
「…それって、撮れ高に変換して考えてる時のセリフだよね?」
星荘がじとーっとした目で見つめると、ユウマはバツが悪そうに視線を逸らした。
「あ、ごめん。バレた?」
「ずるいよね、ユウマは」
星荘は頬杖をつき、少し拗ねたように唇を尖らせる。
「そうかな? よくわかんないけど…でも、あんたの力になりたいってのは、本気で思ってるぜ?」
その真っ直ぐな言葉に、星荘の表情がふわりと和らぐ。
「…ありがとう。…ねえ、さっき言ってた、お互いのことを知るって話なんだけど…」
「おう。そうだな」ユウマは姿勢を正す。「なにか、抱えていることがあるなら聞くぜ? 仲間だろ」
その言葉に、星荘は満足そうに微笑むと、再び悪戯っぽい表情を浮かべた。
「ふふ、どうしようかしら…」
そんな二人の後ろにしれっと座って様子をうかがう玲奈と健太と彩花。
「何で俺たち迄…」「静かに…何話してんだろ?」…とヒソヒソ。
池袋の昼下がり、星荘は自分語りを始める。




