第二十一話:東京魔法陣サミット:混沌の円卓
池袋での激戦から数日後。高梨悠真のオカルトサークル「東京ミッドナイト」の基地は、かつてないほどの人口密度と緊張感に包まれていた。
狭い部屋に、東京を守る八犬士——星荘、桜親、碧毛、雷道、聖乃聖乃、凪角、雫文、華信——が勢揃いし、その傍らには天皇家直轄「星詠司」のリーダー・安倍星華と、政府直轄「影刃」の服部夜刃が壁際に佇んでいる。そして、部屋の隅のソファには、腕を組んだ織田焔が、我関せずといった顔で座っていた。
「…というわけで、緊急作戦会議を始めたいと思います!」
議長席(という名のパイプ椅子)に座ったユウマが、ホワイトボードをパンと叩いた。
「まず、俺たち東京ミッドナイトの見解からだ!」ユウマは自信満々に語り始める。「今回の武田と上杉、それに蝦夷共和国の同時多発テロ…いや、襲撃。これって、今の政治状況と無関係じゃないと思うんだ」
健太がノートPCの画面を指し示す。「ユウマ先輩の言う通りっす。ネットの匿名掲示板じゃ、『現政権は頼りない』『いっそ戦国武将に日本を立て直してほしい』みたいな書き込みが、ここ最近で爆発的に増えてる。それに呼応するように、各勢力が動き出したんじゃないかってのが、俺たちの立てた仮説です」
「つまり、今の政府がグダグダだから、俺たちが日本を支配してやる!って、昔の武将の魂を継ぐ奴らが一斉に立ち上がったってこと?」玲奈が要約する。
「シンプルだけど、一番しっくりくるわよね。動機としては分かりやすいもの」彩花も頷く。
しかし、その現代的な分析を、安倍星華は鼻で笑った。
「…甘いわね。おままごとじゃないのよ」
星華の冷たい声が、部屋の空気を凍らせる。「武田と上杉が手を組む? 蝦夷の北条がそれに乗じる? 歴史を少しでも学べば、それがどれだけあり得ないことか分かるはず。彼らは何百年と続く宿敵同士。その矜持を曲げてまで連携するなど、自発的に起こるとは到底考えられない。これは、彼らの背後で糸を引く、もっと大きな存在がいる証拠よ」
服部夜刃も、影の中から静かに同意する。「星詠司の言う通りだ。我ら影刃の諜報でも、各勢力間の通信で、我々の知らない暗号が使われていることが確認されている。まるで、共通の上官がいるかのように、統率された動き…。これは内乱などという生易しいものではない。日本の霊的中枢、三種の神器を狙った、外部からの侵略と見るべきだ」
「外部からの侵略…」星荘が息をのむ。
雷道が腕を組む。「確かに、あたしが傍受したデータにも、国内のものとは思えない、奇妙な信号が混じっていた。まるで、海外の魔術結社が使うような…」
「でも、それじゃ話が大きすぎません? 陰謀論みたいで…」ユウマが反論しようとするが、聖乃が静かに首を振った。
「いいえ、ユウマさん。私も感じていました。東京駅を狙った蝦夷共和国の攻撃…それは、単なる拠点制圧以上の、明確な『殺意』が、結界の中枢に向けられているのを感じました。あれは、日本の霊脈そのものを破壊しようとする動きです」
話が、どんどん深刻な方向へ進んでいく。ユウマたちは、自分たちの考えが浅はかだったのかと戸惑い、一方、星華や夜刃は、現代っ子たちの危機感のなさに苛立ちを隠せない。
「政治の混乱が引き金になったのは事実かもしれない。でも、それを利用して、もっと大きな目的を果たそうとしてる奴らがいるってことだ」星華の見解を述べる。
「そもそも、お前たちのその『配信』とやらが、敵に情報を与え、事態を悪化させているという自覚はあるのか?」夜刃はそもそも現政府下位組織なので、そこを庇う話にはなる。
夜刃の指摘に、ユウマがカッとなる。「なんだと! 俺たちの配信があったから、みんなの応援で結界が強まったんだろ!」
夜刃は動じない。
「結果論だ。危険極まりない賭けに過ぎん」
一触即発の空気になった、その時。
「くわっはっはっは!」
織田焔の甲高い笑い声が響き渡った。
「内輪揉めとは、滑稽よのう。政の腐敗が原因だろうが、巨大な陰謀だろうが、やることは一つであろうが。目の前の敵を、叩き潰す。ただそれだけじゃ」
焔の言葉に、全員がはっと息をのむ。
そこに空気読まないユウマ「ところで、なんで第六天布武の織田焔がなんかメンバー然として居るんだ?」
「な!……おまえ…わしの純潔汚してあまつさえ契りも交わして他人扱いか?!鬼畜かお主は?!」
吠える焔の横を無言で近くの缶ジュースが飛んできてユウマに直撃する。
「ぐはぁ!」ユウマはそのままパイプ椅子ごと倒れる。
「ユウマ!!あんた!!!この子に手ぇ出したのか?!」修羅のごとき顔をしているのは玲奈だ。
健太と彩花が押さえるが、そのまま襲い掛かろうという勢いだ。
ユウマは額に缶の痣をつけ乍ら起き上がり…「ご、誤解だ…冤罪だ…織田焔が前回の武装解除した時にちょっとかわいいお尻を見ちゃっただけだ…」
「さ・い・て・ぇ~それで何を契ったっての?」二人掛かりで抑える玲奈はどのまま二人を引きずる。
「まて、良く聞け…ここに他に集まった八犬士の皆と同じ共鳴者としての力を分け与える契約をしただけだって…」
この突然の修羅場に他の八犬士の戦乙女は茫然と成り行きを眺めるばかりだ。
安倍星華と服部夜刃さえどうしたものかという顔をして見合わせている。
「まあ、わしとしても一回限りの逢瀬と割り切るつもりだったのじゃが…この共鳴…案外悪くないの…他の戦乙女たちもそうなんじゃろ?」
からからと笑いながら意味深発言を続ける焔…このタイミングでは完璧に火に油である。
「ねぇ…ユウマ?共鳴者としての契約ってどういう効果があるのかしら?」玲奈の目がヤバイ
「え?いや…何て言うのかな…魂の繋がり?みたいな感じなのかな…よく分かってないけど」
「え?!そんなシンプルな感じ?」突然星荘が突っ込んでくる。
「「「「え?」」」」という反応はその場にいる全員がしている。
「ご、ごめんなさい、そうじゃなくて…そ、そうです、魔法陣を狙う外勢力の意図です!」星荘は素早く話題を変える。
「まあ、取り敢えず今は再びお前たちに喧嘩を売るつもりはないという訳じゃ…積極的に協力もせんけどな…ついでに言っておくが…各勢力がこのタイミングで動いたのは…わしには分からん…単に思い付きで動いているからな!」
安倍星華が少し鋭い視線…というか眉間にしわを寄せて独り言ちる「思い付き…か…自覚がないのは最悪だな」
「…そう、だな!よし分からないけどよくわかった!」ユウマは頭をガリガリと掻き、全員に向き直った。「それ、某アニメのセリフじゃん…」と健太
「今の政府基盤の政治的ぐらつきが原因も、まだ分からない外部勢力の陰謀もどっちの可能性も捨てきれない。だったら、両面作戦で行こう!」
ユウマはホワイトボードに大きく書き出した。
「俺たち東京ミッドナイトは、ネットや足を使った情報収集で、今回の事件の裏にある社会的な動きや、陰謀論の発信源を徹底的に洗う! 健太、頼んだぞ!」
「え?……お、おう!任せとけ!」
「そして、星華さんと夜刃さん、あんたたちはプロのやり方で、霊的な動きや、海外勢力の諜報活動を探ってくれ!」
星華と夜刃は、不本意ながらも顔を見合わせ、小さく頷いた。
「そして、私たち戦乙女は、それぞれの守護エリアの警戒を強化。いつ、いかなる奇襲が来ても対応できるように備えます」
星荘の言葉に、七人の戦乙女たちが力強く頷いた。
「よし、決まりだな!」ユウマが拳を突き上げる。「それぞれのやり方で、黒幕の尻尾を掴んでやろうぜ!」
不格好で、ちぐはぐで、それぞれの思惑が渦巻く、史上最悪の作戦会議。
だが、東京を守るという唯一の目的の下に、彼らは確かに一つのチームとして、巨大な陰謀へと立ち向かう一歩を、今、踏み出したのだった。




