第十九話:東京決戦・蝦夷共和国対第六天布武~焔と氷華
「くわっはっはっは! うぬら氷の小童どもに、ここから先へは一歩も進ませんぞ!」
その姿に、土方美鈴が目を見開く。「お前は…織田焔! 秋葉原で犬山雷道たちに撃退されたと聞いていたが!」
「わしが、そう易々と引き下がる天下人に見えるか?ちいと前回はな…わしが怠慢こいてタイマンで制圧を試みたけどな…まあ『虚け』の戯言よ!」焔は炎の刀を抜き放つと、高らかに宣言した。
「うぬらに見せてやろうぞ、我が『第六天布武』の真髄を! 出でよ、我が忠臣たち!」
焔の呼び声に応え、虚空から四人のメイドが姿を現す。
巨大な棍棒を軽々担ぐ「鬼の佳月」こと柴田佳月。
茶器を手に優雅に微笑む「雅なる才媛メイド」明智光。
柔和な笑みを浮かべる「万能なる古参メイド」丹羽撫子。
そして、スナイパーライフル型の特殊な火縄銃を構える「機知に富んだ技巧派メイド」滝川梓。
焔の背後には、愛刀「不動行光」を携えた忍者姿の森蘭丸が控えている。
「逆本能寺…貴様、我らを裏切るか!」氷華が冷たく言い放つ。
「勘違いするな、氷の姫。わしは、わしの信念で戦うだけじゃ! この東京は、いずれこの織田焔が天下布武の礎とする場所。貴様ら蝦夷の田舎者に好き勝手されては、わしのプライドが許さんのでな!」
「全軍、かかれぃ!」
焔の号令一下、第六天布武のメイドたちが躍り出る。
「鬼の佳月の通り道じゃあ!」柴田佳月の巨大戦槍が横薙ぎに振るわれ、氷の狼の群体が落ち葉のように吹き飛ばされる。
「あなたの策、甘すぎてお茶も淹れられませんわ」明智光が氷華の陣形を分析し、的確な指示を飛ばす。
「土方美鈴は、わたくしが抑えます」
滝川梓のスナイパー火縄銃が火を噴き、突撃しようとした土方美鈴の足元を正確に撃ち抜く。特殊な粘着弾が彼女の動きを阻害した。
「小賢しい!」土方は粘着弾を力尽くで引き剥がすが、その一瞬の隙が致命的だった。
「第六天魔王、織田焔、推して参る!」
焔自身が炎の翼を広げ、氷華へと真っ向から激突する。東京駅の上空で、炎と氷が乱舞する壮絶な戦いの幕が切って落とされた。
蝦夷共和国の精鋭、氷の狼を相手に、第六天布武の戦乙女たちは一歩も引かない。数の上では不利なはずが、個々の戦闘能力と明智光の的確な指揮によって、戦況はむしろ第六天布武に傾きつつあった。新選組隊士を分散させて八宝玉の守護戦乙女を分散させたまでは良かったが、ここでの織田との決戦ではそれが仇となった。
追い詰められた氷華は、歯噛みしながら撤退を命じた。
「…引くわよ! だが覚えておけ、織田焔! この借り、必ず返す!」
■第六天魔王の貸し - 都心掃討戦
東京駅上空で蝦夷共和国を退けた織田焔は、屋根の縁に立ち、眼下に広がる東京を見下ろした。健太のドローンが、その威厳に満ちた姿を間近で捉えている。
「ふん、いつでも来い。それより、あの小僧に伝えておけ。『貸しは作った』とな!」
その言葉は、池袋で死闘を繰り広げるユウマたちの耳に確かに届いた。だが、焔の目はすでに別の戦場を捉えていた。
「まだ氷の残党が都心で暴れておるようじゃな。良いだろう、この貸し、さらに高くつけてくれるわ! 光、梓、佳月! そなたらはそれぞれの戦場へ向かい、八犬士に助力せよ! この東京で、わし以外の者が好き勝手に振る舞うこと、断じて許さん!」
焔の号令を受け、明智光、滝川梓、柴田佳月は一礼すると、瞬時にその場から姿を消した。第六天魔王の軍勢による、都心掃討戦の火蓋が切って落とされた。
■銀座の戦い:【智】の雷 vs 天然理心流の「剛」
夜の銀座。高級ブランド店のショーウィンドウが、氷の刃で切り裂かれている。その中心に立つのは、新選組局長の化身、近藤花蓮。彼女の振るう長曽祢虎徹の一撃は、重く、鋭い。
「その程度の知恵で、我らの『誠』の旗は揺るがんぞ!」
近藤の圧倒的な剣圧の前に、【智】の守護者・犬山雷道は防戦を強いられていた。電脳空間を駆使した戦術も、近藤の純粋なまでの武力の前には決定打を欠いていた。
「くっ…ハッキングが追いつかない…!」
その時、雷道の背後にふわりと「雅なる才媛メイド」明智光が舞い降りる。
「犬山雷道殿。あなたの弓、お貸しいただけますか? あの者の剣筋、見切りましたわ」
明智は冷静に近藤の動きを分析し、その情報を雷道と共有する。一瞬の呼吸の乱れ、踏み込みの癖。軍師の眼は、猛将の僅かな隙を見逃さない。
「そこです!」
明智の言葉に合わせ、雷道は雷鳴弓を最大まで引き絞った。
「お前の電脳攻撃、最期はこの雷道ライカが阻止する!
雷鳴弓・聖なるコード:浄化の矢!」
浄化の光を纏った矢が、近藤の霊的オーラを貫く。一瞬、彼女の身体から力が抜けた。その隙を突き、明智の配下の炎魔たちが放った火縄銃が一斉に火を噴き、近藤花蓮は武器礼装を破壊されその肢体を晒す。
健太のドローンの一機がその様子を配信カメラで捉えているが、スイッチング配信している彩花が素早くカメラを切り替えて視界から外す。
だが、配信された映像見ていたネット民からの書き込みが相次ぐ「新選組近藤勇逝く~!」「虎徹は今宵~」「コレは来たな」「肝心なところ!!」
「あっぶな…彩花ナイス!近藤さん…良い体してるな…グラビア行けるよ!」と器用にドローンを追跡モードや定点観測モード、自身で操作モードなどを駆使してそれぞれの現場にドローンを飛ばして映像を収集する。
■霞が関の戦い:【信】の扇 vs 天才剣士の「迅」
官庁街、霞が関。静寂を切り裂くように、神速の剣戟が繰り広げられていた。
「あはは! 遅い、遅いよ! そんなんじゃボクには追いつけない!」
天才剣士・沖田雪菜の無邪気な声が響く。彼女の菊一文字則宗から放たれる凍てつく刃は、【信】の守護者・犬村凪角を翻弄していた。
「なんて速さなの…!」
凪角は凪波扇と十手を駆使し、必死に応戦するが、沖田の予測不能な動きに捉えきれない。
「沖田雪菜は、わたくしが抑えます」
ビルの屋上から、冷徹な声と共に一筋の閃光が走った。「機知に富んだ技巧派メイド」滝川梓のスナイパー火縄銃が、沖田の死角からその足を撃ち抜く。
「いったぁ! な、何これ!?」
特殊な氷結弾が、沖田の俊足を奪う。その一瞬の硬直を、凪角は見逃さなかった。
「仲間を信じる力が、私たちを強くするんだ!」
彼女は鉄扇を大きく広げ、渾身の力を込めて振り抜いた。
「風刃無音!!」
不可視の風の刃が、身動きの取れない沖田を襲う。滝川の容赦ない追撃の弾丸が降り注ぎ、沖田雪菜はその刃に武技礼装を破壊され力尽きる。
「うぇ~ん!酷いよぉ~」
座り込んで泣く姿は可哀そうな女の子である…
「うーん…織田焔も中々なツルペタ具合だけど…沖田ちゃんも…」
『ケンタ!そのヘンタイ音声間違っても配信すんなよな~』彩花のキツイツッコミが耳元のインカムに入る。
「ジュニアアイドル枠だよね…」と懲りない健太に『無事に池袋に戻れなくされるぞ?』と彩花が突っ込む。
■大手町の戦い:【孝】の音 vs 無言の暗殺剣「寂」
将門の首塚が眠る地、大手町。高層ビル群の谷間で、影と音の死闘が繰り広げられていた。
「……」
無言の暗殺者、斎藤葵。彼女の左利きの抜刀術は、音もなく【孝】の守護者・犬塚華信の命を刈り取らんと迫る。
「どこにいるんですかー!」
華信の放つ華音手の衝撃波も、気配を完全に消した斎藤には届かない。
「うおおおお! 鬼の佳月の通り道じゃあ!」
突如、地面を揺るがす轟音と共に、「鬼の佳月」柴田佳月が巨大な戦槍を振り回しながら乱入した。彼女の豪快な一撃は、ビル壁に潜んでいた斎藤を白日の下に晒す。
「ちぃっ!」
初めて舌打ちを漏らした斎藤の前に、忍者メイド・森蘭丸が立ちはだかった。
「好機です!」
柴田が作り出したチャンスを、華信は逃さなかった。
「伝統を守ることも【孝】の一つ! 私の音からは、逃げられませんよ!」
華信が華音手を打ち鳴らす。
「封音律・孝断ノ型!」
【孝】の心が込められた特殊な音波が、斎藤の三半規管を狂わせ、動きを完全に封じる。そこへ、柴田の情け容赦ない戦槍の一撃が叩き込まれた。
■蝦夷共和国、撤退
銀座、霞が関、大手町。各地で繰り広げられた戦いは、織田焔の介入によって、ほぼ同時に決着がついた。敗色撃退となった近藤、沖田、斎藤は、安倍星華の配下によって捕縛護送された。
こうして、東京魔法陣を狙った蝦夷共和国の二正面作戦は、第六天布武という予想外の勢力の介入により、完全な失敗に終わった。
健太のドローンが映し出す勝利の光景に、ユウマの配信コメント欄は祝福と賞賛の嵐に包まれる。
「#東京防衛成功」「#織田軍最強」「#八犬士と第六天の共闘アツすぎ」
東京駅の屋根の上で、織田焔は満足げに腕を組む。
「ふん、これで貸し一つ。覚えておくがよい、高梨悠真。次はないぞ」
彼女の言葉は、これから始まるであろう、さらに混沌とした戦いの序曲に過ぎなかった。東京魔法陣包囲網の一角は崩れた。だが、それは新たな勢力図の始まりを意味していた。




