第十七話:反撃の五重奏(クインテット)
「行くぜ、みんな!」
ユウマの叫びが号砲となった。
後顧の憂いを断ち切った五人の戦乙女たちの反撃は、まさに圧巻の一言だった。
「【忠】の鎖が敵を縛り、【礼】の薙刀が道を拓く!」
犬飼聖乃の星鎖鎌が変幻自在に透波鷹たちを絡め取り、動きを封じた一瞬を、犬坂碧毛の蓮華薙が流麗な一閃で切り裂く。
「【孝】の想いが隙を作り、【仁】の剣がそれを断つ!」
犬塚華信が渋谷の雑踏で鍛えたトリッキーな動きで敵陣を撹乱し、生まれた僅かな綻びを犬江桜親の桜嵐刀が見逃さず切り裂く。
そして、その中心で犬川星荘が星嵐槍を天に掲げた。
「みんなの想い、この【義】の槍に集え! 五星集結・八犬陣!」
五人の宝玉が共鳴し、放たれた光は巨大な星となって武田軍の頭上に降り注ぐ。炎虎は悲鳴を上げて消滅し、透波鷹たちは次々と地に伏した。
「馬鹿な…! 我が軍勢が、これほどまでに…!」
軍師・山本霞幸が驚愕に目を見開く。猛将・真田幸も、五人の完璧な連携の前に一歩も踏み出せない。
「おのれ、おのれ…! 小癪な!」
武田嵐花が自ら騎馬槍を振るい、巨大な炎の虎を生み出して突撃するが、それすらも五人の連携技の前にたやすく打ち破られた。
「これで、終わりだ!」
星荘が槍の穂先を、満身創痍の嵐花へと突きつける。池袋の戦いは、ついに決着がつくかと思われた。
■越後の龍、降臨
その瞬間、戦場に氷のように冷たく、凛と響き渡る声が落ちた。
「そこまでよ、甲斐の虎。随分と無様な姿を晒しているわね」
空間が雷光と共に裂け、一人のバトルメイドが姿を現した。白髪に、龍の紋様が刺繍された黒いメイド服。手に持つ長刀からは、青白い電光が迸っている。
「上杉…聖流!」
星荘が、因縁の敵の名を叫ぶ。
聖流の背後には、屈強な四人のバトルメイドが控えていた。巨大な盾を構える者、二刀を携える者、大砲のような銃器を担ぐ者、そして無数の呪符を宙に浮かべる者。彼女たちこそ、越後の龍・上杉聖流が率いる最強の精鋭部隊「龍神毘沙門天四天王」だ。
「上杉…! なぜ貴様がここに…!」
武田嵐花が、憎々しげに聖流を睨む。
「ふふ、貴女一人にこの東京をくれてやるつもりはないのよ…まあ『敵に塩を送る』ってヤツ」聖流は嵐花を一瞥すると、視線を八犬士たちへと移した。「それに、神器と将門公の力を手に入れるには、少し駒が足りないと思っていたところだわ」
敵対組織同士の、悪夢の共闘。その事実に、戦乙女たちの間に緊張が走る。
「嘘でしょ…敵の増援…!?」
玲奈が悲鳴を上げる。
ユウマの実況と健太のドローン中継をスイッチング配信していた彩花もミッドナイト基地のモニターの前で、その絶望的な光景に言葉を失う。
「武田軍だけでも手一杯だったのに…龍神毘沙門天まで…!」
再び、戦場は圧倒的な数の不利に傾いた。八犬士たちの勝利への道筋は、完全に断たれたかに見えた。
ユウマはカメラを新たな敵に向け、ゴクリと唾を飲む。しかし、その瞳には絶望の色はなかった。むしろ、この極限状況を面白がるかのような、不敵な光が宿っていた。
「視聴者さん、見てくれ! まだまだ祭りは終わらねえ! 武田に上杉、オールスター大感謝祭じゃねえか!」
彼はマイクに向かって叫んだ。
「どんなヤツらが来たって関係ねえ! 俺たちの絆と、みんなの応援があれば、負けるわけねえんだよ!」
その声に、うつむきかけた八犬士たちが顔を上げる。そうだ、共鳴者がいる。そして、画面の向こうで、数えきれないほどの仲間たちがこの戦いを見守っている。
「八犬士ガンガレ」「萌よ剣!」「八宝玉にモレたちの力を!」「上杉×武田歴史的共闘」
上杉聖流が、美しい顔に冷酷な笑みを浮かべ、長刀を静かに構えた。
「蹂躙せよ――!!」




