第十四話:山手線沿線魔法陣目黒~渋谷
品川駅前の緊張感が冷めやらぬ中、ユウマたち「東京・ミッドナイト」と同行の星荘一行は、再び山手線の車両に乗り込んでいた。安倍星華と服部夜刃は同行しているはずだが、周囲にいるとは思えないくらい気配がない…。
「いやー、マジでビビったぜ! 武田の赤メイド、いきなりすぎだろ!」ユウマは興奮冷めやらぬ様子でスマホの録画映像を確認している。「でも、凪角さんと聖乃さんの連携、めっちゃ撮れ高あったな! 視聴者さん達も大盛り上がりだったぜ!」
「呑気なこと言わないでよ!」玲奈がユウマの腕を叩く。「あれはただの偵察なんでしょ? 次はもっとヤバいのが来るってことじゃない!」
「その通りだ」星荘が窓の外を流れる景色を見ながら、静かに頷く。「武田嵐花は『風林火山』の名の通り、一度狙った獲物は逃さない。本格的な侵攻は時間の問題だろう」
「次の駅は目黒…か。桜並木が有名な、落ち着いた街。どんな戦乙女がいるんだろうな」健太がタブレットで情報を確認しながら呟く。
彩花はオカルトノートをめくり、目を輝かせた。「目黒は【悌】の宝玉の地! 悌】は兄弟や仲間を思いやる心。協調性を司る力よ!武田みたいな軍勢に対抗するには、一番大事な力かもしれないわ!」
一行の会話を聞きながら、星荘は「目黒のしずくちゃんは、とても優しい子だよ」と微笑み、「彼女の持つ調和の力が、これからの戦いで重要になるきがするね」と穏やかに続けた。
山手線が目黒駅のホームに滑り込む。都心でありながら、どこか穏やかな空気が一行を迎えた。
■目黒:【悌】の宝玉の守護者 犬田雫文
目黒駅からほど近い、大きな総合病院。その一角で、一行は白衣の天使を見つけた。患者に優しく寄り添い、その声に耳を傾ける看護師。彼女が【悌】の宝玉の守護者、犬田雫文だった。
「大丈夫ですよ。ゆっくり呼吸しましょうね」
穏やかで、全てを包み込むような優しさを持つ雫文しずく。彼女の胸ポケットには、自身の武器である棒を模したペンが挿してある。
「皆さん、お待ちしていました」雫文は、休憩室で一行を静かに出迎えた。
「雫文さん、お仕事お疲れ様です! ここが目黒ですね!」ユウマがカメラを向けると、彼女は少しはにかんでお辞儀をした。
「私の宝玉は【悌】。患者さんとそのご家族、そして共に働く仲間たち。皆が支え合う心、その絆が私の力の源です」
ナース姿の雫文さんは快活で明るい素敵な女性だ。明るい茶色の髪の毛を後ろでまとめている。体格は比較的しっかりしていて看護師という職業柄か体幹が強そうである。
「私の武器は『桜風杖』。神道桜風流杖術で脈々と伝えられている古武術です。争いは、何も生み出しません。でも、大切な絆を壊そうとする者がいるなら、私はこの杖で、全力で守ります」
「桜風杖は昭和の時代に警察でも採用されて、機動隊創設時に伝えられた人を傷つけず、制圧するための武術として伝えられたって聞いてます」彩花のウンチクが語られると、嬉しそうである。
「普段から人々を救う仕事に就きながら、東京の魔法陣と平和を守っているんですね!カッコイイです!!」ユウマに持ち上げられてか、雫文は更に照れ臭そう笑っている。
玲奈は「なんかユウマの癖に女性の扱いが慣れてきているのがムカつく」と、少し拗ねている…
そんな玲奈を星荘が横で慰める。「私たちには乙女ロードがある」「それな…」
「それでいいのか…」健太が少し複雑な顔をする。
そんな東京ミッドナイトメンバーの微妙な反応さて置きユウマのテンションは高い。
「これまでお会いできずに、共鳴者やって来てますけど、改めてこれからよろしくお願いします!」
「はい、勿論です!もしケガしちゃったら私のところにきてね!」
雫文がユウマの手を取ると、柔らかく、澄んだ光が溢れ出した。それは、仲間を信じ、支え合う「悌」の心。孤立しがちな現代社会において、最も必要とされる温かい力が、ユウマの全身を巡った。
「すげえ…これが【悌】の力…。なんだか、ここにいるみんなが、本当の兄弟みたいに思えてきたぜ…!」
「兄弟?」「おーよろしくブラザー」「お前との血縁は断る」「別の縁が良いな…」「人類皆兄弟だ」
ユウマの言葉に、それぞれのメンバーの反応はちょっと微妙な雰囲気が漂ったが、団結しようという気持ち事態に偽りはなかった。
■渋谷:【孝】の宝玉の守護者 犬塚華信
目黒の穏やかな空気から一転、一行は最後の目的地、渋谷へと向かった。
「よーし、ラストは渋谷だ! 若者の街、流行の発信地!」ユウマが意気込む。
「渋谷は【孝】の宝玉の地ね!親を敬い、先祖を大切にする心。若者文化の最先端の街が、伝統を重んじる【孝】の力で守られているなんて…ロマンがあるわ!」彩花が再びノートを広げる。
渋谷駅ハチ公口を出た途端、スクランブル交差点の圧倒的な人の波が一行を飲み込んだ。巨大な街頭ビジョンが目まぐるしく映像を流し、あらゆる言語が飛び交う。まさに現代のバベルの塔だ。
「うっひょー! これぞ渋谷! 人多すぎだろ!」ユウマは人の波に揉まれながらも、カメラを回し続ける。
一行が向かったのは、スクランブル交差点の喧騒から少し離れた場所にある、小さな宝くじ売り場だった。そこに、満面の笑みで客に宝くじを手渡している少女がいた。彼女こそ、【孝】の宝玉の守護者、犬塚華信だった。
「はい、どうぞ! 大きな幸運が舞い込みますように!」
客一人ひとりに丁寧に声をかける彼女の周りには、自然と明るい空気が生まれている。若者らしいファッションに身を包み、腰には十手をイメージしたキーホルダーが揺れていた。
「はなちゃーん!」ユウマが声をかけると、はなはパッと顔を輝かせた。
「あ、ユウマさん! それに皆さん! よく来てくれました! 噂のツアーってやつですね!」
「視聴者さん、見てくれよ! この子が渋谷を守る戦乙女、犬塚華信さんだ! めっちゃ元気でカワイイ!」ユウマがインタビューを始めると、はなは「えへへ、照れますね」と笑った。
「はなさんの宝玉は【孝】なんですよね? 親孝行の『孝』?」玲奈が尋ねると、華信は力強く頷いた。
「はい! 宝くじを買いに来る人って、家族のためとか、誰かのためにって人が多いんです。そういう人たちの『想い』が私の力になります! みんなに幸運を届けるのが、私の役目ですから!」
彼女の武器は『華音手』と呼ばれる十手。その戦闘スタイルは、渋谷の雑踏の中でも的確に相手を制圧する、俊敏でトリッキーな動きが特徴だという。
「伝統を守ることも『孝』の一つ。だから、古くから伝わる渋谷一伝流十手術で、渋谷の平和を守ってるんです!」
「ちなみに、宝くじって当たるんですか?」何気にユウマは聞く。
「あはは…あたりとはずれがあるよ!ぶっちゃけハズレが多いよ!だからこそ当たったときの嬉しさはひとしおですよね?買った宝くじを元に、もし…って妄想したり楽しい気分になるし、いろいろ夢を持てるじゃないですか!そういう未来に対する展望に投資するって考え方もあると思います!」
華信はよく聞かれるのかもしれない…でも、ユウマは「わくわくを買う」という考え方がとても気に入った。
「いいですね!未来に投資するって考え方!ボクも華信さんたちと繋がることで、未来を護るお手伝いができるわけですし!素敵です!」
ユウマが華信と手を合わせると、温かく、懐かしい光が二人を包み込んだ。それは、親や先祖を想う、感謝と敬意の心。人の繋がりが生み出す、力強い「孝」のエネルギーが、ユウマの胸に流れ込んできた。
「うおお…なんか、実家に帰りたくなってきた…! これが【孝】の力か! 視聴者さんも、たまには親に電話しろよな!」
ユウマが軽口を叩くと、華信は「それ、すっごく大事なことです!」と満面の笑みで返した。
■八犬士集結、そして新たなる戦雲
「山手線メイド巡り!守護八犬士に会いにいこう!」ツアーは、ついに終わりを告げた。ミッドナイト基地に戻った一行は、達成感と、確かな手応えを感じていた。
「仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌…八人の戦乙女、全員と会えたな!」ユウマは満足げに言う。「俺の共鳴者としての力も、前よりずっと強くなった気がするぜ!」
「あなたの訪問と配信のおかげで、民衆の『気』も安定し、結界は確実に強化されました」いつの間にか現れた安倍星華が、珍しく評価の言葉を口にした。
しかし、その隣に立つ服部夜刃の表情は硬い。
「だが、敵も動いている。武田だけではない。奴らが連携して攻めてきた時が、本当の決戦だ」
夜刃の言葉通り、東京の空には、品川での戦いとは比較にならないほど、濃密で巨大な暗雲が渦巻き始めていた。
ユウマはカメラを構え直し、ニヤリと笑う。その瞳には、恐怖ではなく、決意の光が宿っていた。
「上等だ! 視聴者さん、見たよな? これが東京を守る八犬士、八人の戦乙女だ! どんなヤツらが来たって、俺たちと、そして応援してくれるみんながいれば、負けるわけがねえ!」
ユウマの胸の紋章が、八つの宝玉と共鳴し、力強く輝く。
「東京ミッドナイト、次なる戦いに備えろ! 東京魔法陣の本当の戦いは、ここからだぜ!」
「あ、ソレ打ち切り漫画の最後のページ煽りと同じだからNG」健太が笑う。
八犬士との絆を力に変え、ユウマと東京ミッドナイトの、そして無数の視聴者たちの戦いが、今、本格的に始まろうとしていた。




