第十二話:上野~秋葉原ユウマがゆく
池袋での取材を終え、一行は山手線のホームに立っていた。ユウマは意気揚々と次の目的地を告げる。
「よーし、視聴者さん!『山手線メイド巡り!守護八犬士に会いにいこう!』ツアー、次は上野だ! 上野の【礼】の宝玉の守護者、犬坂碧毛さんに会いに行くぜ!」
「上野って、この間の決戦の場所じゃない。大丈夫なの?」玲奈が心配そうに尋ねる。
「だからこそ、だよレイナ」健太がドローンをケースにしまいながら答える。
「あの激戦の後、街がどうなってるか、碧毛さんがどうしてるか、視聴者さんも気になってるはずだぜ」
彩花はオカルトノートを片手に目を輝かせる。
「上野公園は歴史と芸術の宝庫!それに【礼】の宝玉…礼儀や秩序を司る力! 伊達星夜との戦いで乱れた霊的秩序がどう回復したのか、この目で見られるなんて!」
「碧毛さん、元気だといいけど…」桜親が少し心配そうな顔で呟いた。
■上野:【礼】の宝玉の守護者 犬坂碧毛
上野公園は、激しい戦いが嘘のように、穏やかな日常を取り戻していた。
一行が向かったのは、緑豊かな公園の一角に佇む博物館。
そこで彼らは、知的で落ち着いた雰囲気の女性が、子供たちに歴史を解説している姿を見つけた。
彼女こそ、【礼】の宝玉の守護者、犬坂碧毛だった。
「…このように、この刀は江戸時代の武士の魂が込められているんですよ。礼を重んじ、主君に忠義を尽くした彼らの生き方が、この美しい刃文に表れているんです」
穏やかで、聞き取りやすい声。来館者を魅了する礼儀正しい立ち居振る舞い 。戦場で薙刀を振るっていた姿とは全く違う、柔らかな表情だ。
「碧毛さん!」ユウマが声をかけると、彼女はにっこりと微笑んで一行を迎えた。
「皆さん、よくいらっしゃいました。上野での戦いでは、本当にお世話になりました」
ユウマは早速カメラを回し、インタビューを始める。
「視聴者さん、見てくれよ! この人が上野を守る戦乙女、犬坂碧毛さんだ! 普段はこうして博物館のガイドをされてるんだって!」
「碧毛さんって、普段から歴史に囲まれてるんですね」彩花が興奮気味に尋ねる。
「ええ。歴史を知ることは、礼節を知ることにも繋がりますから。この仕事には誇りを持っています」
碧毛は穏やかに答える 。
彼女の武器である薙刀『蓮華薙』は、楊神流薙刀術という流派に基づいているという 。それは、礼儀作法を重んじ、流れるような動きで敵を制する、優雅かつ強力な武術だ。
「礼の心は、争いを鎮める力。でも、秩序を乱す者には、断固として立ち向かいます」碧毛の瞳に、強い意志の光が宿る。
「伊達星夜との戦い、本当に大変でしたよね」玲奈が思い出すように言う。
「ええ。でも、ユウマさんの共鳴の力と、皆さんの助けがあったからこそ、上野の平和を守ることができました」
「いや、レイナは寝てただけだからな…ケンタは頑張った」ユウマはちょっと調子よく言う。
「何ヨ…でも、守ってくれたんでしょ?」
「いや…レイナを守ってくれたのは桜親だよ…僕はアヤカを背負って精一杯」
背負った時の感触を思い出してニヤつきながら健太が事実を告げる。
「ユウマのバカ…」
「さ、桜親さんの提案だったんだよ…オレは撮影…と共鳴者としての役目があったんだってば…」
「ふふ…仲が良いのですね。とても素敵な事です…今回の襲撃を守り抜けたのも、皆さんの協力があったればこそでした」
碧毛はそう言って、ユウマの手をそっと握った。その瞬間、温かい光が二人を包み、【礼】の宝玉とユウマの胸の紋章が強く共鳴した。ユウマの中に、上野の持つ歴史の重みと、人々が育んできた秩序の力が流れ込んでくるのを感じる。
「うおっ! これが【礼】の力…! 視聴者さん、なんか俺、背筋が伸びる気分だぜ!」
ユウマの軽口に、すこしばかり和やかな雰囲気が流れて取材は終了する。
…だが、玲奈はやや納得しかけている表情を隠しきれていない。
ユウマは気づいているのか気づいていないのか分からないが、元気に次に行こうという。
■秋葉原:【智】の宝玉の守護者 犬山雷道
一行は上野を後にし、電気と文化の街、秋葉原へと向かった。
「次は【智】の宝玉の守護者、犬山雷道さんだ! あの電脳バトルはマジでヤバかったよな!」ユウマが車内で興奮気味に語る。
「視聴者の皆さんの協力で逆ハッキングに成功した回ね。ユウマの共鳴者としての力が、一番わかりやすく発揮された戦いだったわ」星荘が冷静に分析する。
秋葉原の中央通りから一本入った路地にあるコンビニ。そのレジカウンターに、ツインテールが特徴的なスレンダーな女性が立っていた。犬山雷道だ。彼女は夜勤の傍ら、ハッカーとしても活動している 。
「いらっしゃいませー」
気だるそうな声で迎えてくれた雷道だったが、ユウマたちに気づくと、少しだけ口角を上げた。
「なんだ、あんたらか。休憩取るからだから、裏に来いよ」
バックヤードは、無数のモニターとキーボードが並ぶ、まるで秘密基地のような空間だった。
「うわー、すげえ! ここで敵のサイバー攻撃を防いだんすね!」健太が目を輝かせる。
「まあな」雷道はコーヒーを啜りながら答える。「【智】の力は、情報を制する力。敵の意図を読み、先手を打つ。それが私の戦い方だ」
彼女の武器である『雷鳴弓』は、物理的な矢だけでなく、情報の矢を放ち、敵のネットワークを破壊することもできる 。
「視聴者の助けがなきゃ、あの時は危なかった。あんたの配信、バカにしてたけど…民衆の知恵を集めるっていう意味では、理にかなってるのかもな」雷道は少し照れくさそうに言う。
「だろ!? 俺の配信は、東京を救うんだよ!」ユウマが胸を張る。
「調子に乗るな」玲奈の冷たいツッコミが飛ぶ。
ユウマが雷道と握手を交わすと、再び共鳴の光が二人を繋いだ。今度は、膨大な情報と知識が、稲妻のようにユウマの脳を駆け巡る感覚がした。
「ぐわっ! 頭がパンクしそうだ! これが【智】の力…! 視聴者さん、俺、明日テストだったら100点取れる気がするぜ!」
「残念だけど、あんた休学中じゃない」桜親がくすくすと笑った。
こうして、新宿、池袋、上野、秋葉原と、四人の戦乙女との絆を深めたユウマと東京ミッドナイト。
ツアーはまだ半ば。東京駅の【忠】、品川駅の【信】、渋谷駅の【孝】、そして目黒駅の【悌】の宝玉を守る、まだ見ぬ戦乙女たちが彼らを待っている 。
一行が次の目的地、東京駅へ向かおうとしたその時。彼らの様子をビルの屋上から監視していた服部夜刃のイヤホンに、鋭い警告音が鳴り響いた。
「……これは。強力な霊気の反応。だが、既知のどの勢力とも違う…?」
夜刃は空を見上げる。東京の空に、新たな戦いの予兆が、黒い雲となって渦巻き始めていた。
ユウマたちの「山手線メイド巡り」は、ただの顔合わせでは終わらないのかもしれない。




