第百十一話:新宿最終決戦・日ノ本、総反撃
「―――玲奈!」 「―――はい!」
ユウマの叫びと、玲奈の共鳴が、奇跡の引き金となる。 地に立ち、再び鬼神と対峙した八犬士。彼女たちの矜持は、残された最後の霊力を、一つの目的のために集束させていた。
「我らが【絆】の力、そしてこの国の【歴史】の力!その全てをもって、汝が理不尽なる武を、今、封じる!」
八犬士が、呂奉仙を囲むように、完璧な八方位の陣形を組む。 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌。八つの徳が、中華の占術理論である「八卦」と共鳴し、日本の神道における「封神」の儀式へと昇華される。
「「「―――八掛炉・封神撃滅陣!!」」」
放たれたのは、攻撃ではない。絶対的な「理」の書き換え。 陣の中心に囚われた呂奉仙は、目を見開いた。 「なっ…力が…!」 彼女を護っていた金剛不壊の加護が、日輪の炎を纏う赤兎馬の神性が、方天戟に宿る魔性が、八つの徳によって、一つ、また一つと、強制的に削ぎ落とされていく。
中華の英雄を護っていた、あらゆる「特殊効果」が解除され、彼女は、ただの「武」のみを極めた、一人の武人へと引き戻されたのだ。
「―――今じゃ!うつけ共!」 この、千載一遇の好機を、第六天魔王が見逃さない。 織田焔が、その身に天魔のオーラを最大まで高める。 「『天下布武・三千世界』!」
「応!」 奥州の覇者・伊達政宗もまた、その隻眼に北斗七星を宿らせた。 「『奥義・独眼竜咆哮』!」
武田、上杉、そして日本中から集った武将たちが、自らの最強の奥義を、一斉に、丸裸となった呂奉仙へと叩き込んだ!
凄まじい霊力の爆発が、新宿の夜空を真昼のように照らし出す。 だが、その爆炎の中心から、呂奉仙は、なおも立っていた。 「…面白い。面白いぞ、日ノ本の英雄たちよ…!」 全ての加護を失ってもなお、彼女の武は、その全てを受け止めていた。
だが、その足は、確かに大地に縫い付けられている。 その、最後の瞬間を、八犬士の二人のエースが、見逃すはずもなかった。
「―――今、ここで、終わらせる!」 犬川星荘(ほしな)が、砕け折れた槍の穂先を握りしめ、自らの【義】の霊力を、黄金の槍へと変えて突き出す。 「あなたの振るう無慈悲な暴力!私の【義】が、それを断ち切る!」
「―――もう、誰も傷つけさせない!」 犬江桜親(さくら)もまた、その身に【仁】の光を纏い、柳生と仲間たちから受け継いだ、慈愛の剣を構える。 「あなたの魂を縛る、戦いの連鎖!私の【仁】が、それを解き放つ!」
八犬士の先鋒にして、その絆の象徴。 【義】の槍と、【仁】の剣。
ほしなの槍が、呂奉仙の理不尽なまでの「武」を、そのまっすぐな正義で、正面から打ち破る。 さくらの剣が、その守りを失った霊核へと、殺すためではなく、救うための刃として、深く突き刺さる。
「「―――届けぇぇぇぇぇ!!」」
【義】と【仁】、二つの徳の光が、ついに、中華最強の鬼神の胸を、完全に貫いた。
「…見事、なり…」
呂奉仙は、満足そうに、そう呟くと、その巨体から光の粒子を放ちながら、静かに、消滅していった。
「…馬鹿な。わたくしの…最強の駒が…!」 司令室でその光景を見ていた諸葛孔明は、初めてその表情を崩し、撤退を余儀なくされる。 戦場に残っていた孫尚香も、呂奉仙の敗北を悟り、即座に戦線から離脱した。
最後に、紅蓮の龍女・朱麗の、怒りに満ちた声だけが、戦場に響き渡った。 『おのれ、おのれ島国の蛮族どもが!この屈辱、必ずや、倍にして返してやりますわ…!』
その捨て台詞を残し、中華英雄たちの気配は、完全に東京から消え去った。 後に残されたのは、崩壊した新宿の街と、そして、傷つきながらも、確かに勝利を掴み取った、日ノ本の英雄たちの姿だった。




