表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バトル・メイド・サーヴァントII~大東京八宝玉魔法陣編  作者: 黒船雷光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/168

第百六話:八陣図・絆の道標

 脇腹の痛みに顔を歪めながら、ユウマは桜親(さくら)の肩を借りて、無機質な石造りの回廊を彷徨っていた。

「こっちだ…微かに、玲奈の宝玉の力を感じる…」

「うん、私も感じるよ…信じよう、ユウマ君」


 だが、二人がどれだけ進んでも、景色は変わらない。

 ユウマは、最後の頼みの綱であるスマートフォンを掲げ、必死に実況を続けていた。それが、視聴者という、この迷宮の外にいる唯一の目との繋がりだったからだ。


 コメント欄は、もどかしさと苛立ちで溢れかえっていた。


『何でそっちに行くんだ!逆だ逆!』

『さっきから同じとこぐるぐる回ってるだけじゃねーか!気づけよ!』

『玲奈ちゃん、すぐ近くの通路にいるぞ!壁一枚挟んでるだけだ!』

『馬鹿野郎!声出せよ!叫べば聞こえる距離だろ!』


「…なんだって?」

 コメントを読んだユウマは、ハッとした。自分たちは、孔明の術中に嵌り、すぐ近くにいるはずの玲奈に、気づくことすらできずにいたのだ。


「―――玲奈ァァァァァ!!どこだ!返事をしてくれ!」

 ユウマは、ありったけの声を張り上げた。


 その声は、確かに玲奈に届いていた。だが、幻覚に囚われた彼女の耳には、それは最も聞きたくない、裏切りの声となって響いていた。

『…もう、お前のことなんか、気にしない…』

『うるさいな…あっちへ行けよ…』

 優しかったはずのユウマの声が、冷たく突き放す刃となって、玲奈の心を突き刺す。


「ひどい…」

 玲奈の瞳から、涙が溢れ出す。


「ユウマなんか…嫌い…!大嫌い!!」


 その、悲痛な叫び声は、幻覚ではなかった。本物の、玲奈の魂の叫びだった。


「…今、聞こえたか?」

「うん…玲奈ちゃんの声!」


 その声がした方向へ、二人は最後の力を振り絞って走る。壁を回り込むと、そこに、うずくまって泣いている玲奈の姿があった。


「玲奈!」

 ユウマが駆け寄る。だが、顔を上げた玲奈の瞳は、まだ絶望の幻に囚われていた。

「…ユウマ…。私のこと、もう、キライなの…?」


 その、あまりにもか弱く、悲しい問いに、ユウマの中で、何かが弾けた。


「んなわけあるか!」

 彼は、玲奈の両肩を掴む。

「く…っ…好きに決まってんだろ!目を覚ませ、玲奈!」


 ユウマは、迷わず、その唇を玲奈の唇へと重ねた。


 その瞬間、玲奈の全身を、温かい光が包み込んだ。彼女の瞳から、悪夢の幻影が消え去り、現実のユウマの姿が、はっきりと映る。

 そして、彼女の胸で、完全に覚醒した【伏】の宝玉が、太陽のような輝きを放った。


 ユウマと玲奈の絆が生み出した【伏】の宝玉の光は、絶対的な知略の迷宮「八陣図」を、暖かく、そして優しく照らし出していった。その光は、悪夢に囚われた仲間たちの魂へと、直接語りかける。


「お前の正義は、自己満足なんだよ」

 幻影のユウマが突きつけた、最も聞きたくなかった言葉。犬川星荘(いぬかわ・ほしな)は、その場に膝から崩れ落ち、自らの槍を見つめていた。私の【義】は、ただの独りよがりだったのか。親友を苦しめ、想い人を遠ざけるだけの、重たいだけの力だったのか。

 彼女の心は、完全に折れかかっていた。


 その、冷え切った心に、ふわり、と温かい光が差し込んだ。

 それは、玲奈の、そしてユウマの、絆の光。

『―――ほしなちゃん』

 幻聴ではない。魂に直接響く、玲奈の声。

『―――あなたの正義が、いつも、私たちを護ってくれてたよ』


(…ああ、そうか)

 ほしなは、ゆっくりと顔を上げた。

(私の【義】は…ユウマ君に認められるためのものじゃない。桜親(さくら)ちゃんより、上に立つためのものでもない)


 彼女は、強く、槍を握りしめた。その穂先に、再び、義の星の輝きが宿る。


「―――私の【義】は!仲間を、この国を護るための、私の誓いだ!」


 その魂の叫びと共に、彼女の全身から、迷いを断ち切る金色のオーラが迸る。目の前にいた、ユウマとさくらの冷たい幻影は、その気高き光の前に、悲鳴を上げる間もなく霧散した。


「待っていて、みんな。今、助けに行く…!」

 彼女の瞳には、もはや一片の迷いもなかった。



「我が二天一流の名を汚す、出来損ないよ」

 憧れの祖、宮本武蔵その人から突きつけられた、存在そのものの否定。宮本飛鳥(みやもと・あすか)は、完全に自信を失い、木刀を握る力さえも失っていた。孤高こそが、最強への道。仲間と群れる自分は、ただの弱者でしかないのか。


 その、凍てついた孤高の世界に、玲奈の光が、そっと触れた。

 それは、誰かと繋がるという、飛鳥がこれまで感じたことのない感覚。一人ではない、という温もり。

(…なんだ、この感覚は)


 その温もりは、彼女に、巌流島での戦いを思い出させた。

 確かに、自分一人では、あの妖猿には勝てなかった。だが、八犬士と共闘した時、自分の剣は、決して鈍ってはいなかった。むしろ、護るべき仲間を得て、その一振りは、これまで以上の鋭さを増していたはずだ。


(そうだ…)

 飛鳥は、目の前の武蔵の幻影を、真っ直ぐに見据えた。

(御先祖様。あなたの歩んだ道は、確かに一つの極地。だが、道は、一つではない!)


 彼女は、再び、木刀を拾い上げる。その構えは、もはや武蔵の模倣ではない。仲間との共闘を経て、進化した、彼女自身の「二天一流」。


「兵法は、千変万化!我が剣の道は、わし自身が切り拓く!我が剣に、迷いなし!」


 彼女から放たれる闘気は、もはや幻影が作り出した偽りの「武蔵」が太刀打ちできるものではなかった。幻は、その圧倒的なまでの武威の前に、静かに消え去った。


「…行くか。我が新たな弟子たちの元へ」

 その口元には、孤高の剣士ではない、頼れる「師」としての、不敵な笑みが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ