追放
私ことリリカ・ハーデスは、ハーデス侯爵家の末娘である。
そんな私は、第二王子との婚約も決まり、誰からも羨まれる存在だった。
――今日までは。
今日は、私の十五歳の誕生日。
十五歳の誕生日はこの国で生まれ育つ者にとって、重要な意味を持つ。
十五を迎えるその日、この国の人々は魔力の量を計測する儀式を行うのだ。
魔力――それは、神からの祝福とされている。
そんな魔力は多ければ多いほど、いい。
体面を重んじる、貴族ならなおさら。
そんな魔力量は十五歳で確定し、それ以降、測定した魔力量が変わることはないと言われている。
だからこそ、この魔力測定の儀式は、あと一年で成人する前の重要な通過儀礼として行われていた。
お父様やお母様は、貴族であるということを差し引いても、大量の魔力を持ち、魔法もたくさん使える。それはお兄様たちも同様で――だから、私もそうだと信じて疑わなかった。
「も、もう一度おっしゃっていただけますか?」
震える声で、お母様が測定士に尋ねる。
その声を呆然と、どこか遠くで聞いていた。
お母様は縋るように、魔力測定士を見たが、彼は微かに目を伏せただけだった。
「ええ、ですから――残念ながら、お嬢様に魔力はありません」
言われた言葉を頭の中で反芻する。
私に、魔力が、ない……?
「――……」
沈黙が、部屋を支配する。
屋敷中を私の誕生日を祝うため、使用人たちが豪華に飾り付けていた。
お母様が、まだ中身は秘密よと言って、置いたたくさんのプレゼントもいたるところにあった。
お父様が十五を迎える私のために手配した楽団も、扉を挟んだ向かい側で待っていた。
長兄以外のお兄様たちだって、わざわざ私の誕生日を祝うために帰ってきてくれていた。
「――の子よ」
沈黙を破ったのはお母様だった。
小さく呟かれた言葉にはっとする。
――この国で、貴族でありながら魔力を持たないと、どうなるのかというと。
端的に言う。
――死、だ。
「悪魔の子よ! お前なんて、産まなければ良かった!!」
お母様はわあわあと叫びながら、泣き崩れた。
魔力とは、神に与えられた祝福だとするならば、魔力のない私は、悪魔の子といっても差支えがないのかもしれない。
まるで現実味のない頭で、そう思う。
お母様よりは幾分か落ち着いて見えるお父様。
陰で氷の侯爵様と呼ばれながらも、家族にはどこまでも甘かったお父様の行動は、迅速だった。
「悪魔の子は、我が侯爵家には必要ない。お前をハーデス家から、追放する」
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