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第4話 居場所

 「アンリッ何をしているんだ!!」


 お父様の焦りと戸惑いが入り混じった声が聞こえる。当然だろう。

 魔族にとってツノは命よりも大事な部分だ。ツノは魔力を生み出し魔力を制御するあってはならない大事な部分であり、魔力の塊のようなものだ。


 「アンリお前、まさかその男にそれを渡す気ではないだろうな!!!」

 「その通りです。お父様」

 「ならんッ!それは魔族にとっての禁忌だ!!」


 お父様は私に向けて魔法で作り出した槍を向けた。

 その通りだった。ツノをいや魔族の一部を相手に渡すことは我々魔族にとっては禁忌とされてきたものでそれをやった者は魔族の仲間へと戻ることは出来なくなる。


 「それをやるだけの事をこの男は私にしてくれたのです」


 それに、私はまだ。


 「お前の名前、聞いてないんだぞ?」


 ツノを男の元に近づけた瞬間、アンリと男の周りには緑色の巨大な魔力がたち登り始めた。

 ゾロディーンですら近づけないその魔力の渦はアンリ達を中心に周囲を次々と大地に草花を作り出した。

 そして、アンリのツノは男の体に入っていき、そのまま一体となった所で、渦巻く魔力は消えていった。


 「・・・んっ、・・・あれ?アンリさん??」

 「目覚めたか。寝坊助だなお前は」


 何も聞こえない暗闇の中を歩いていた時に突然、一筋の光が現れ、それに手を差し伸べたら目の前でアンリさんが大粒の涙を流して泣いていた。


 「あの、なん、」

 「どうしてだ!」

 「え?」

 「どうしてお前は私を助ける為に、こんな、自分を犠牲にする事をやったのだ!?」


 どうやら俺のやり方が彼女を怒らせてしまったらしい。それに少し離れた所にゾロディーンがいる。どうやら俺の力は届かなかったようだ。

 

 「あの、すみません。アレしか魔王を倒す方法が思いつかなかったんです。でもそれでもダメだったみたいですけどね?」


 それに彼女がこれから人間を知る為に俺はそこまで重要じゃないと思った。だからこそ、俺が死んでもあの魔王を倒せたらそれでいいと思った。

 だからこそこの力を使えた。


 「大馬鹿者だお前は!」


 その筈だったのにな。

 どうやら俺は彼女を怒らせて泣かせてしまったらしい。そんなつもりはなかったのだけどな・・・


 「ごめんなさいアンリさん・・・」

 「本当だ馬鹿。私はお前がいないと楽しくないんだ。もし私が助かったとしてもそこにお前がいないのなら死んでいるのも同然なんだ!」

 「あっはは・・・俺、そんなに思って貰える程のこと、何かしましたっけ?」


 冗談めかしにそう言って俺は笑った。


 「お前は私を特別扱いしなかった。それにお前が作る料理は美味いからな」


 料理かい。なんてツッコミも出来ない程、体は重たかった。

 アンリさんは俺の両頬をつねって引っ張った。

 

 「もう二度と、二度とこんな真似するなよ!!」

 「わ、分かりました。分かりましたから」

 「話は済んだようだな」

 「お父様・・・」


 これまで黙っていた魔王ゾロディーンは口を開き、俺とアンリさんはそっちの方を向いた。

 しかし、何故だか分からないが、先程まであったあの威圧感が消えていた。


 「アンリよ。お前は二度と我らの陣営に戻る事は許されない。分かっているな」

 「はい。勿論ですお父様。今までお世話になりました」


 アンリさんを見るゾロディーンの表情はどこかせつなくて、それでいて悲しそうな目をしていたが、直ぐに威厳のある雰囲気と顔立ちを作った。


 「・・・人間」

 「は、はい?」


 まさか自分が呼ばれるとは思わなかった俺はびっくりして思わず声が高くなってしまった。


 「お前の勝ちだ。約束通り娘を頼んだぞ」

 「・・・はい」


 そう言ってゾロディーンは俺達に背を向け何処かへ消えていった。

 これでひと段落、何て呑気に思っていると、突然、アンリさんの身体中から大量の煙が噴き出した。

 そして、


 「アンリ、さ、ん???」

 「ふむ。どうやらツノが無くなった反動らしいな」


 煙が晴れ、そこにいたのは九歳くらいの見た目をした幼い少女だった。

 俺は驚き、説明を求めた。


 「簡単だ。お前を助ける為に魔族の命であるツノを一本折っただけだ。ほれ」

 

 アンリさんに見せられた頭のツノが生えていた部分には確かに一本折れたようの跡が残っていた。

 

 「そんな、何で!?」

 「んっ・・・お、おいっ」


 跡を触ってみたが、ツノは人為的に折れており、先程ゾロディーンがいった陣営に戻るなと言うのはこれのせいなのかと理解した。

 すると突然、アンリさんからキツめのボディーブローを溝内に放たれ、俺はその場でしゃがみ込んだ。


 「ハァ…ハァ…お前!ここは魔族にとってはとても敏感な所なんだぞ!?もっと丁寧に扱わんか!!」

 「そ、そうだったんですか。じゃなくて!何で俺なんかの為にそんな事をしたんですか!!」


 ツノを折ってまで俺には助けられるような価値はない。それなのに何で彼女は俺を助けたのか意味がわからなかった。


 「お前が命をかけて私を助けたんだ。ならば私も命をかけてお前を救おうとするのは道理だろ?」

 「でもッ!」


 それでは余りに理不尽じゃないか。アンリさんはただ俺の事を助け出そうとしてくれただけなのに。


 「安心しろ。どの道私もあそこに戻るつもりはなかった。だが、そこまで気にしてくれるというのなら、そうだな・・・私に居場所を作ってくれ」

 「居場所、ですか?」

 「うむ。私が父様の陣営に戻りたいと思わせないくらいの居場所を私に作ってくれ。手助けしてくれるのだろう?」


 彼女はそう言って無邪気に笑った。

 その笑顔は今まで見てきたどんな物よりも美しく、愛おしいと思えた。

 

 「全く・・・貴方は勝てませんよ。分かりました作ってみます」


 だから俺もそう言って彼女に笑い返した。

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