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2話 美麗の緑魔

 美麗の緑魔。風の噂でだが、聞いた事がある名前だった。曰く、魔族どこか他種族さえも虜にする容姿を持った絶世の美女だとか。

 鼻につく偉そうな態度が気に入らないが、確かに噂に違わない容姿はしている。


 「それで貴様は誰だ?」

 「そんな事よりも、何で貴方がここにいるんですか?」

 「そんなもの決まっているだろ。私は人間を知りたくてここに来たのだ」

 「は?」


 人間を知りたい?魔族が?

 俺はこれでも今まで多くの魔族を見た方が、こんの事をいう人とは初めて出会った。

 

 「何で人間なんかを」

 「つまらん話だ。昔ある人間と共に過ごした事があってな、それから興味を持って属する陣営を飛び出してきたんだ。まぁそのせいで父の怒りを買い、争った末にあそこに落ちてな」


 彼女はどこか懐かしい様なでも悲しいような目をして話してくれた。


 「お前はここで何をしているんだ?」

 「俺ですか?」


 向こうが話してくれたのだから、まぁ俺も話すだけならいいだろうと思い話した。

 もしかしたら、それは今まで胸の内に溜め込んでいたものを、誰かに吐きたかったからかも知れない。

 彼女は静かにそれを聞いてくれた。

 

 「そうか。平凡ななりをしているが、お前も大変だったのだな」

 「・・・」


 やはり彼女は出会ってきた魔族とは明らかに違う雰囲気だった。魔族と言ってもそれ程、危険だとは思えなかった。だからだろうか?


 「ここに住んでみますか?」

 「私がか?」


 俺は思わずそう口走ってしまった。


 「あの、その、まだ傷も癒えてないし、貴方はそんなに悪そうに思えないし、何よりもここに住んでいれば人間の事を知れるんじゃないですか?」

 「・・・」


 彼女の瞳が僅かに揺れる。迷っているらしい。確かに魔族だとバレるのはリスクがあるが、傷が癒えないまままた襲われる位ならここで暮らした方がいいと思ったのだ。


 「私が・・・いいのか?」

 「大丈夫ですよ。困った事があったら手助けしますし」

 「ふっ、生意気を言うな。だが、そうだな。知っている者が側にいてくれるのならありがたい。少しだけ住んで見るとするか」


 彼女は少しだけそう言って笑いながら了承した。

 それから俺と彼女との奇妙な生活が始まった。

 

 俺はまるで止まった時間が動き出したかの様にその日から、彼女に街を連れ回されて外に出る様になった。彼女は人間に興味はあるがルールや常識といったものが身についておらず、食事のマナーや挨拶の仕方、人との関わり方などを教える所から始まった。

 

 ーーそしてそれから数日が経った。


 俺と彼女はいつもの様に宿屋で食事をしていた。

 最近は何故かルルカさんに言われて俺が料理する事が多くなって来ており、今日も朝早くに起きて作っていた。

 彼女の方はこの数日でかなり人間社会のルールをマスターしてきている。


 「うむ。お前が作る料理はやはり絶品だな!」   「それはどうもありがとうございます」


 どうやら彼女は俺が作る料理が気に入ったらしく、それも今こうして料理を作らされている理由の一つになっている。


 「珈琲ですにゃ」

 「うむ。ありがとう。そう言えば人間。結局お前の名前を聞いていなかったのだが?」

 「あれ?そうでしたっけ?」

 「あ、私も聞いてないですにゃ」


 名前、そう言えばこの世界に来てから、それを口にした事が無かった。

 言えば、転移前の事を思い出してしまうのが何となく嫌だった。


 「まぁまぁ、それよりも今日はどうしますか?」

 「おい!話をッ!?」


 彼女はいきなり席を立ち天井を睨みつけた。何事かと思い、席を俺も立ち上がると机にいきなり、ルルカさんが倒れ込んだ。


 「はぁ…はぁ…」

 「ルルカさん!?、なッ!周りの人達も・・・」


 ルルカさんだけでは無かった。それまで食事をしていた人達も皆、一斉に倒れ何故か苦しみ始めていた。


 「アンリさん!これは」

 「来てしまった様だな・・・結局、名前は分からなかったが、この数日はそれなりに楽しかったぞ。別れだ」

 「え?」


 そう言って彼女の表情には僅かだが寂しさが感じとれた。

 そして宙に浮かび、そのまま天井をすり抜ける様にして何処かへ消えていった。

 来てしまった?それはつまり彼女を追っていた奴らがここを嗅ぎつけたという事だろう。ルルカさん達が倒れたのもきっとそいつらのせいだ。


 「でも俺がいって何になる・・・」


 俺は弱い。

 そのせいで、かつてのパーティーからも脱退を言い渡された。それに自分でも弱い事は分かっていた。だから、あの日も諦める事が出来た。

 今だってそうだ。理解している。だけど、脳裏に彼女の寂しげな表情が浮かんで消えない。


 「・・・俺は」


 ーー


 上空を飛び上がり雲を突き抜け私はそこで待つ男の元に辿り着いた。

 白い髭を蓄え、大層な鎧で身を包み、手には槍を持った男。


 「お父様・・・」

「見つけたぞ。我が娘よ・・・」


 その言葉一つ一つが発せられるだけで空気は凍りつき、雲は暗雲に変わり、大気はキシキシと音を鳴らした。


 「魔王の娘として、お前の言動は目に余る」

 「お父様!」

 「言い訳は聞かぬ!」


 叫びは雷鳴となり大気を割り、地響きを起こした。この世界に四人存在する魔王の一角、それが私の父、魔王ゾロディーン。

 

 「直ぐに戻れ、さもなくば分かっているだろう」

 「くっ!"破滅のッ、!」

 「" 滅星(めっせい)"」


 私が魔法を放つよりも早く、父は私に、いやあの街に向かって上空から何個も隕石を落としてきた。

 私一人なら助かる事は簡単だ。だが、あの街にはあいつがいる。


 「くそっ! 翡翠の盾(ジェダイト)!!」


 迫り来る隕石を受け止めるため、街一つを覆い尽くすほど、巨大な緑の宝石の盾をアンリは作り出した。

 隕石が後、数センチで当たる直前だった。


 「" 神託、そして終焉(オラクル・ラグナ)"」

 「しまッ!!」


 ゾロディーンは魔法を新たに唱えてきた。

 すると後数センチの所まで来ていた隕石はアンリが作った盾にぶつかる事なく、アンリの元に移動し爆発を起こした。

 突然の事で避ける事さえできなかったアンリはモロにその爆発を喰らい、上空から地上へと落下していった。


 「うっ・・・」


 今のはお父様が得意とする事象へ干渉し、自分の思いのままにそれを作り変えることができる魔法。

 地上へ落とされたアンリはゾロディーンが放った魔法によって全身に大きな傷を複数箇所おい、たった一撃で立つことができなくなった。


 「人間などを守ろうとするからそうなるのだ」


 ゾロディーンは冷徹な雰囲気を纏わせながら、アンリの元まで降りてきた。


 「躾は終わりだ。帰るぞ」

 「いや・・・です・・・」

 「なに?」

 「私は・・・見つけたの・・・です。魔族・・・だか・・・と言って・・・恐れずに・・・接し、あろうことか・・・暮らさないかと言ってくれた・・・男を」


 脳裏に浮かぶのはあの日、手を差し伸べながら優しい笑顔でこちらを見てくれた男の顔だった。

 

 「くだらんな。その程度の事で、今見てみよ。お前をその男は助けに、」

 「良かった無事だった様ですねアンリさん」

 「えっ・・・?」


 夢だと思った。

 

 「な、んで?」

 「貴方を助ける為ですよ」

 「誰だ」

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